得体のしれない国、エダルニア。
いろいろと気になるところばかりだが前のドービス司令の時の政治形態からは解放されている可能性が高いと踏んだため、
それなら和平交渉の余地がありそうだとその時の話し合いでは考えられたのである。
そして、その件を受けてエダルニアから地の利的に近いガレアで改めて話し合いが行われると、
ディスタード内でも前のエダルニアでないのなら一応話をしてみる価値はあるんじゃないかという結論でまとまった。
ということで、交渉を進めることとなった。
すると、エダルニウス軍から早め返答があり、話し合いに応じるという内容で返ってきた。
あまりの早さゆえに驚いたものだが、それでも得体のしれない国であることに変わりはなく、
相手はおそらく”ネームレス”であることも踏まえ、特使となる人選は慎重に考えられたのである。
人選は珍しいメンバーが選ばれ、フィリス、ロッカク、シャディアス、そしてティレックスとディスティアである。
「理由は簡単。
相手が”ネームレス”であまり知られていないメンバーにしようというところ。
知られている”ネームレス”だといきなり剣を抜かれる可能性が高い。
一方で非”ネームレス”については恐らく知られているティレックス君とディア様にしてみた。
非”ネームレス”だから刃を振りかざしてくるリスクも低いと判断した。
そのうえでの役割だけど、ティレックス君についてはいつも通りの立会人っていうスタンスだと思ってくれればいい。
ディア様はやはり昔の目線で相手がどういうやつなのかを改めて確認してくれるといいよ。」
リファリウスはそう言うとティレックスとディスティアは声をそろえて了解を言った。
「いきなり剣を抜かれる可能性が高いってことはあんたはいかないでいいんだな?」
シャディアスはそう訊くとリファリウスは頷いた。
「うん、リスクが大きいからね。
それ以外は自分たちの判断で動いてくれればいい。」
5人は改めて頷いた。
ということで次の日、5人はガレアから船を出港させると、ルシルメア東部未開拓地域である”ディストーラ”へとたどり着き、
そこでとある場所を探してさまよっていた。
「ほら、見えてきましたよ、そこですね――」
ディスティアはそう言うと、その場所が確かに見えてきた。
「まさか城壁!? こんなところに本当にお城があるのか!」
ティレックスは驚いていた、そう、”プリシェリア”である。
そして、城門前らしき場所から入ると、正面にはお城が――
「あれがプリシェリアね。ほらほら、お城のお姫様が出迎えてくれそうよ。」
と、フィリスが言った。真ん前の噴水の前にそれらしい女性が鎮座していた。
「みなさん、ようこそ来てくださいました!」
だが、色合いは全体的にライトベージュ、
フリルフレアのオフショルダートップスに、可愛らしいチュール地のフレアミニスカート、
お姫様というよりはむしろギャルである。
「相変わらずいい感じにキメてるじゃないの、プリシラ!」
しかし、プリシラは暗い顔をしていた。
「なにかあったの?」
それもそのはずである、お城の中を進んでいけばわかるらしい。
ディスティアは城内を見て驚いていた。
「これは……店がほとんど潰れていますね――」
電飾などがあって華やかだった城内というかモール内はさびれていた。
「な、なにがあったのですか――」
ティレックスは恐る恐る聞くと、フィリスが言った。
「ちょっと前にリリアと話していた件ってこのことか……。
なるほど、あまりに辺境すぎるから人があんまり来ないってワケね――」
そう、まさにそれである。
どうやら店は片っ端から経営難でうまくいかないらしい。
「だから、プリシェリア店は私の一存で閉めさせていただきました。
ルシルメアやクラウディアスにある店のほうは好調なので、むしろそっちのほうがメインとなっていますね。
まあでも、国の運用が難しいということを身をもって知る結果となりましたし、
今ではこちらでの都市計画をした時のノウハウをかわれてクラウディアス特別執行官として担当させていただいていますし――」
そう言った時のプリシラの笑顔はなんだか明るかった。
なるほど、クラウディアスにいるのほうが彼女のためなのかもしれない、全員そう思った。
確かに、ここだと1人寂しい思いをしているような気もするし――。
てか、クラウディアスの建設ラッシュの陰には彼女のノウハウがあったからこそだったのか――知らなかったものはそれを考えていた。
「でも――この思い入れのある地を離れるというのはちょっと名残惜しいですね――」
彼女の暗かった表情の理由はそれか、確かにそういうものかもしれない。
以前はお姫様専用エレベータなどがありお城の上のほうの階に身を寄せていた彼女だが、ここを離れることを見越しているのか、
今は1階の旧店舗だった場所に住を移し、そこで過ごしているようだった。
さらにお城の奥には重機などが置いてあり、どう見てもディスタード軍所有のものだった。
「お城は解体するのですが、ヘルメイズの再建に使いたいそうなので提供することにしました。
もちろん、ここにいた住人のほとんどはヘルメイズのディアティラやルシルメアに引っ越ししているところです。
幸い、皆さん更生している方も多いので、私の力がなくてもなんとか大丈夫なハズです」
プリシェリアははみ出し者やごろつきたちをまとめ上げて作り上げた町である。
方法はそう、プリシラの誘惑魔法である。すべてのはみ出し者やごろつきたちはプリシラの虜となり、彼女のために1つの町を作り上げた。
だが、経営が成り立たなくなっていき、彼女の虜としても卒業していく運びとなっていった。
「でも、長らくそれをやると、プリシラさんに依存してしまうんじゃあ?」
ティレックスはそう訊くとプリシラはにっこりしながら答えた。
「御心配には及びません。
実は、国ができてから、少しずつ慣れるようにと力の加減をして効力を弱めています。
無論、それでもという方もいらっしゃいますが、まあ――私のファンという程度で収まってくれていますので、
なんだかんだで結果オーライという感じですね」
だが、しかし――
「プリシラ様、準備はできましてございます。
エダルニアへはいつでも出港可能な状態でございます。
このレムレスめにいつでもお申し付けください!」
……おそらくこいつだけ、プリシラ様の従順なる下僕として存在していた。それについてディスティア――
「そういえばこの方だけ、特殊でしたね……」
と言った、どういうこと? フィリスは訊いた。
「レムレスは亡国の騎士です。
国が滅び、仕えるべき者がいなくなるとただ死を待つだけの存在でした。
あまりにひどくて見てられないので、私、彼だけは何とか救ってあげたいと思って、
彼だけは魔法を切らずにいるのです……」
もし力を切ると……やはり国を失い、仕えるものを失ったという悲しみだけが彼を支配する、
そうなったら彼は……
「でも彼ったら、なかなかのイケメンじゃん♪
なーるほど、つまりは女神プリシラ様の従順なる下僕様にして素敵なナイト様ってわけね!」
と、フィリスは意地悪そうに言うと、プリシラは照れていた。
「そっ、それは――」
どうやらまんざらでもなかった様子、女子トークになりそうだったので、
男ばかりのこの状況を考えてその話は一旦切り上げることに、ただ――
「亡国で仕えし姫君が亡くなり、新たな姫君となるものに自らを守るよう言われると、
その姫君に以前仕えた者の影が重なり、この人こそが自分が仕えるべき者だとして信じて疑わない、ですか――」
と、ディスティアはニコニコしながらそう思っていた。