作業を一通り終えるとリファリウスは話をした。
「さてと、集まってもらったのはほかでもない、今後についてだ。」
ガルヴィスは考えながら言った。
「エダルニウスか?」
リファリウスは意表を突かれていた、まさかこいつの口からそんな言葉が出るとは。
「シャディアスに訊いた。ただ、あえて聞くことになった理由というのがあってだな――」
ガルヴィスは話を続けた。
「既にシャディアスから聞いていると思うが、エダルニウスの連中っていうのがまた動いてたもんでな。
先日の例のセ・ランド消滅事件、あれって魔物が出るんだろ?
で、その魔物を連中が捕獲しているところを発見したもんでな、なんだか妙な感じだったのを覚えている」
エダルニウスが動いたことまでは訊いたのだが、まさかそんなことがあったとは。
しかも、それを目撃したというのがよりによってガルヴィス……
「例のバルナルドの件でガリアスというのには世話になっているからな――っつっても、
俺の中ではあの時の出来事で既に決着はついているからどうでもいいんだが。
もちろん、必要なら倒すことになるんだろうがどうやら今回は俺の出番でもなさそうだ、政治ってやつが絡んでいるらしいからな。
ま、ヤローには一応世話になっているから一泡吹かせてやろうってつもりでお前に情報をリークしてみただけだ。
それ以上は特別執行官とやらのお前に任せる」
そう言われるとリファリウスは悩んでいた。
「異形の魔物を捕獲……どういうことだろう?」
さらにガルヴィスは言った。
「この際だ、貴様のその”天命の刻30”とやらと、”ネームレス”異世界人説とやらに乗っかってやる、
残念ながらほかにやりようがなさそうだからな。
で、そしたら俺は何をすればいいんだ?」
そう言われるとリファリウスは得意げに答えた。
「そうだな、今のところ一番有力なのがそのセ・ランドだ。
正直なところ、手がかりらしい手掛かりはないんだけれど、
現状は残っているセガーン・コプコム・トライスで何かしらを探すしかない感じだ。
フィリスの調べだと、どの島にもなんだか似たような祠みたいなものが必ず1つはあることまで突き止められたみたいなんだけど、
それ以上の手がかりが一切なくてどうにもならない状態だ。
それでも、エンブリア創世記では非常に重要な土地である場所が脅かされているというからには何かしらがあってしかるべきだと思うから、
たとえ空振りになろうとも探すしかないんだ。」
それに対してガルヴィス――
「いいだろう、そういうことならやってやろう」
なんだか妙に素直だった、どうしてなのかリファリウスは訊いた。
「まず、そのエンブリア創世記とやらだが、
エンブリア創世記というものがエンブリアで考えられているほどの理由があるわけだから真偽のほどはともかく、
何かしらがあると考えるべきは当然のことだろう。
そして、俺としてもこれ以上手がかりもないもんでな。
いい加減、無策にあちこち探し回るのも飽きたし、だったら貴様の案に乗っかってやろうと考えたまでだ。
あと、そもそも論としてそのセ・ランドが消えている件、その”イーガネス”とやらをぶっ飛ばせば丸く収まるってんなら話は簡単だ」
そう、物騒なやつとは言われているが、なんだかんだで頼りにはなるのである。
とにかく、ガルヴィスにも話は伝わったところで、エダルニウス軍を、ガリアスをどうするかの作戦が考えられたのである。
そのためにはまずエダルニアの場所を改めて確認しなければいけない。
「ロサピアーナに近く、バルナルト進出を狙っている国よね、少し前のディスタードの集まりでも何となく聞いたんだけど。」
リリアリスがそう言うとシャナンは頷いた。
「でも、確かにガリアスなんていうのは私も初めて聞く名前ですね、
ディアスさんの言うように、やはりもともと部外者……すなわち、”ネームレス”だということでしょうか?」
イールアーズも腕を組んで考えていた。
「ガリアス=ボーティウス、初めて聞く名だな。
こうも”ネームレス”ばっかりだとやたら面倒が多くなってくるもんだな」
ディスティアは首をかしげていた。
「ですが、どうなんでしょう? いくら”ネームレス”でもいきなり軍のトップに立つことができるものなのでしょうか?」
「それは私も思ったわね。
リファリウスがディスタードのガレア軍の将軍になったのはディスタードに入”門”から3年後、
しかもたまたま運に恵まれていたから。
私がクラウディアスのこの座に収まったのもほぼ巡り合わせが良かったから。
どっちも運がよかったと言われればそれまでだけど、共通しているのは、
当時はどちらも国としてはイマイチ不安定なところがあり、
安心と信頼の実績ベースをダシにして狙っていったことでうまい具合に収まったっていう、事でしかないわけだけど――
だけどあいつの場合、もともとドービスとかいうやつが長らく運営していて、
例の件で失脚した代わりにあいつが立った要因って何かしら?
それこそ当時はあの件で、エダルニアにおいて強権を振りかざすような人物が一度に死んでるのに、
どうやってドービスを辞めさせることができるワケ? 辞退でもしない限りは難しい気がするのよね――」
それを言うなら入”門”ではなく入”隊”である。
確かにドービスはこれまでの話の通り、
責任を取らされて辞めさせられたというのはもっともかもしれないが、
だが、背景を考えるとそもそも彼を辞めさせられるような力のある人物がいたのかという点で疑問が生じる。
それがガリアスだったのだろうか、なんだか釈然としない。
そもそも御覧の通り、ガリアスなんて今まで聞いたことがないという人が多数であり、
どこかで名前が出ているぐらいの能力を持つ者でなければまず次期エダルニアの頭として台頭するのは難しいことだろう。
いや、ていうか――むしろそれを考えるとリファリウスやリリアリスのほうが異常ともとれる状態のような気がする。
上に立つうえでは順当な手続きにも思えるが、それにしてはスピードも速く……早すぎる上に時の運に恵まれすぎである。
それを考えるとこいつらは相当の策士、抜け目のなさとその際の行動力と、まさに脅威そのものであると言えることだろう。
「確かに、ガリアスという存在がある程度権力を持っていること、
つまりはエイジャルらぐらいにある程度名前が知れている必要がありますよね。
ですが、ディアス氏は彼を知らないということからすると――」
ディスティアはそう言った。うーん、よくわからない、謎だらけである。
するとヒュウガが言った。
「ということは、それしかないだろ?」
と、リリアリスに対して言った、それしかないって何?
「ディスタードが帝国になったことと同じ、つまりはクーデターってことよ。
次なる権力のある者がもともと用意されていてそうなったとかいうことではなく、
ひっそりとくすぶっていたやつが下剋上を果たしてトップに出たっていうことよ。」
確かにそう言われるとそれしかない気がする、誰しもが思った。
「だけど、ひっそりとくすぶっていたやつがいきなり政権をひっくり返せるほどのヤバイやつだったなんていうのはそうそうないケースだろ?」
と、イールアーズは疑問を投げつけるとディスティアは冷静に言った。
「それはそうだが、目の前にいる人はまさにそれだと……。
ですが、目の前の人の特徴も考えてみると、やはりガリアスも”ネームレス”なのではないかという説が濃厚になるわけですね。
恐らく、権力という名の力ではなく、暴力という名の力で押さえつけて権力を獲得すると、
とにかく力による恐怖政治を始めているということなのでしょう。
そもそも、エダルニア自体がもともとそういう国の成り立ちのようですので案外それで収まってしまったのかもしれません。
やはりドービスの行った策が失敗したことで反感が根強く残っていることはあり得そうですし、だからドービスは……」
イールアーズは腕を組んで言った。
「なるほど、ドービスはただ辞めさせられたわけじゃあなさそうだな。
つまりはガリアスに殺されたとみるべきが自然というわけか」
なんだか危険な臭いしかしない。