エンドレス・ロード ~ティル・ジ・エンド・オブ・ザ・ワールド~

悠かなる旅路・精霊の舞 第4部 遠き日々 第7章 天命

第130節 狂人の思想

 ガリアスの剣さばき、凄まじいものを見た。確かにこいつは強い――”ネームレス”に匹敵する強さだ。
 ちなみに”ネームレス”については公表したばかりで、まだクラウディアス連合国内でしか浸透していないハズの名称、 だから多分、ガリアスには通じないことだけは言っておこう。
「くくっ、そうか、貴様が”自由自在のシャディアス”か! 名を持ったやつなど取るに足らん連中と思っていたが、 貴様は違うようだな、”自由自在のシャディアス”!」
 ガリアスはシャディアスをそのまま攻め続けていた。
「くっ、ガリアス、こんなことをして何の意味がっ……!」
「意味? なあに、違和感というものの確認だよ、この私と同じというのなら実力も同じだろうなという確認をな!」
 ガリアスはそのままシャディアスに攻撃を続けていた。くっそ、こいつめ……!
「ガリアス! くらえ!」
 フィリスが加勢した。ガリアスの攻撃を正面から受け止め、そこからさらにカウンターを与え、ガリアスを吹っ飛ばした。
「ぐっ……、なるほど――”自由自在のシャディアス”よりも上がいるのか、確かに少し油断したか――」
 と、ガリアスは立ち上がり、態度を改めた。
「ふっ、この私としたことが。 すまなかったな、こうしてわざわざこの私に会いに来てくれたというのに、いきなり切りかかってくるなどとは失礼をした。 この非礼の詫びに、関係各所にお前たちをもてなすよう話を通しておこう、しばしの間、このエダルニアでゆっくりと休まれるがいい」
 と言うと、ガリアスは早々に立ち去った。
「あいつ――相当ヤバイわね。 今のアッパー喰らって平然としているやつ、今までいなかったのに。 それに……あの様子だとまだ真の力を隠し持っている気がするわね――」
 フィリスは悩んでいた。

 一団はなんだかんだでもてなされることになったが、 やはり戒厳令だったか、行動の自由は制限されていて町を楽しむ暇もなかった。
 そして再び応接間、話し合いが催されたが、雲行きも怪しくなっていった。
「先ほどは悪かったな。仕切り直して、改めて用件を聞こうか。 そう言えばそちらが使用していたボートはディスタード軍のものだったな。 ディスタードとはどういう関係なんだ?」
 そう言われると――プリシラが答えた。
「すみません、私は知りません。 確かにプリシェリアの建材自体もディスタードというもので作られていますが、 それはあくまで廃材を使ってのことでしかなく、ボートもその辺の適当なところから拝借したものですので、 実際にそのディスタードというものについて私は関知しておりません」
 あまりに堂々とした返答にガリアスは呆気に取られていた。すると――
「ほう、なるほど――知らんと言うのか、まあいいだろう」
 それに対してプリシラが訊いた。
「ディスタードが……何なんです?」
 ガリアスは立ち上がると、部屋の窓を眺めながら答えた。
「あの国にはアール将軍というやつがいる、やつはディスタードの本土軍というものを退けている。 本土軍は世界征服を目論む連中だということで有名だったそうだが、 強大な軍事力をもってしてもなおアール将軍にはかなわなかったとされている。 しかもあろうことか、やつは今噂の”ネームレス”というやつらしく、 それがどうやら私と同じ経歴をたどっているやつなんだそうだ――」
 なんと、こいつの耳にも”ネームレス”やアール将軍のことが入っていたのか、 ”天命の刻30”の影響は思いのほか大きかったようである。 ガリアスはさらに続けた。
「それに……クラウディアスは脅威だ、かつてのウォンター帝国というのを滅ぼし、 ディスタードの本土軍を完全に滅亡させたというではないか、 連中はこのまま野放しにしておくことはできん、なんとしてでも抑えなければ――」
 まさか、クラウディアスと敵対するつもりなのだろうか、ティレックスはそう聞いた。
「無論だ。確かにクラウディアスと敵対する国はかの強国を前にしてなすすべなくやられていったと聞く。 それに……敵対する国の多くはあの国の悪い面のみを取り上げて語る連中も多いが―― あの国はむしろいい国だ、もっと賞賛すべきところがあってしかるべきだろう」
 なのに、何故そんな選択を?
「そう、だからこその元凶足りえる国なのだ。 国が大きければ大きいほど、何をやっても許されるようになるだろう。 だが、それは脅威だ、この世界の脅威たらしめる要素にしかなりえない。 お前たちもその様子ではクラウディアスという国相手になんの疑問も感じていない状況のようだが、 それこそ、まさにクラウディアスに身も心も支配されている状況にほかならんというわけだ。違うか?」
 所謂、理論の飛躍というやつだが、 こいつの言っていることは恐らくクラウディアスとは相容れないということの意思表示であることは間違いなさそうだった。
 そのあとは独自の理論を展開し、周りも呆れているところで最後に言い放った。
「だが、世界というやつはどうもどこかしらが上に立って支配しなければならないという構図のようだ、 現にそれをクラウディアスが体現しているからな。 となると簡単な話だ、今後はエダルニア改め、エダルニウスこそが世界のリーダーとなり、世界を支配するのだ。 あの国には今後を任せることはできぬ、だからエダルニウスこそがこの世界の真の王者であることをしらしめさせるのだ」
 こっ、こいつ――一団は全員狼狽えているとガリアスは言い放った。
「なあ無国籍小隊プリシェリアよ! お前たちをクラウディアスの魔の手から救ってやろうと言っている!  その日が来るまで固唾をのんで見守っていればよい! ハハハハハハハ!」

「おかえりなさいませ、プリシラ様、それから皆さまも。ガリアスには会えましたか?」
「ありがとう、レムレス。交渉は決裂、ガリアスは強いわ――」
 レムレスは頷いた。
 そして全員ボートに乗り込むと、エダルニアを離れた。 エダルニウス軍の巡視船が彼らを見送るかのように、誘導していた。
「ガリアス……強いのもそうだが、まるで狂人だな――」
 ロッカクはぶつぶつと言っていた。
「我々のことをどこまで見抜いているんでしょうか。 あの様子だともしかしたら私やティレックスさんのことは知っているかもしれませんね――」
 ティレックスは頷いた。
「となると、単に無国籍小隊にそう言ったというのじゃなくて、あれは宣戦布告であるというわけか――」
「しかも、わざわざ剣を出してまで私らのことを試したからね、 でも――あいつ相当強いよ、今まであった”ネームレス”の比にならないレベルね――」
 フィリスは悩みながらそう言った。それに対してレムレスがプリシラに対して訊いていた。
「プリシラ様、ガリアスというのはそれほどまでに強いのでございますか?」
 しかしプリシラは、何も言わなかった……。