エンドレス・ロード ~ティル・ジ・エンド・オブ・ザ・ワールド~

悠かなる旅路・精霊の舞 第4部 遠き日々 第7章 天命

第125節 世界創世のロマン

 偉大なるエンブリス神、この世界に突如として現れた。 まず初めにフェニックシア大陸が創造されると、その地にエンブリスは降り立ち、 彼の使徒と共にこの世界を次々と創造していくこととなる。
 エンブリスは次にフェニックシアの眼下に島を作り、そこからさらに順番に島ができていった、 そう、セラフィック・ランドの創造である。
「ん、あれ? 天使を降ろしたんじゃないのか?」
 イールアーズはつっけんどんに訊くと、オルザードはていねいに答えた。
「もちろんです、天使を舞い降ろすという神の御業を用いることでセラフィック・ランドが創造されたのです」
 そしてオルザードは話を続けたが、あまりヒントになるものは出てこなかった。 というより、みんなが大体知っていることばかりであった。
 だが、ここで気になるのがやはりエンブリスが突如として現れたこと、 そしてエンブリスの使徒ということは、メンバーが複数人いるということである。
「ちなみに、使徒の一員でもあるサーラはエンブリスの妻ですね」
 そういえば……アリエーラは思い出し、オルザードに何かを言おうとすると、彼は頷いた。
「そう、ご想像されている通りでございます。 我らがエンブリスは1人の妻、女神サーラをめとり、その生涯のすべてを彼女に捧げたのです。 そのため、本来の厳格な教えの上においてはほかの女人を我らがエンブリス神に近づけるなどといったことを禁止しているのです」
 それはずいぶん前にエンブリス神殿に行った際に訊いた話だった、それなら確かに話はつながる。 だが、それではエンブリスが思い描くような未来にはならない…… 不平等性を嫌ったエンブリスを尊重して厳格な教えは好まれない風潮になっていったという。

 ということで、ここからは質疑応答タイム。まずはこの質問からぶつけてみた。
「えっ、エンブリスが異世界人ですか? どうでしょうか、”神の御業”と表現してしまえばそれまでですが、 ただ、物理的なことを考えると、流石に何もないところからいきなり出てくるというのも妙な話ですからね、 だから、もともと”別の空間”があったところからエンブリアに来たということを考えればそのほうが自然な流れとは思いますので、 十分あり得る話だとは思いますよ?」
 オルザードは考えながら言った、決して”神の御業”で片付けようとはしない学者ならではの回答だった。
「敬遠なエンブリアヌスを目の前にして言うのも気が引けるが、 だとすると、エンブリスは実は神などではなく、その異世界における一般人という可能性もありうるわけだ」
 スレアがそう言うとオルザードはていねいに答えた。
「私に遠慮なさらずとも。それに、そのほうがロマンを感じませんか?  新たな世界を創造した一般人が後世には神として奉られるというのであればますます夢が膨らみますよね!  それに――エンブリスは教えの上でもとても広い視野をお持ちだということも言われておりまして、 それでいて非常に人気のある、まさにヒーローのような存在だということですから、 その彼の功績を讃え、今の世では神として奉られるほどの存在であるとはなかなかの偉大な人物だったという解釈もできるではないですか!」
 彼はエンブリス神を崇めているというよりは彼の激烈なファンという感じだった。
「すごいですよね! 今ではまさに”神の御業”と呼ばれる手法でこの世界を創造したのですから!  すごく、とんでもない存在だと思います! そう、だからこそ、すなわち神と呼ばれてもおかしくはない存在と言えるのですよ!」
 彼の心は多分エンブリス同様に広い視野を持っているため、ありのままを受け入れるというスタンスらしい。
「これがエンブリス神の残した功績か、なるほど――それはそれで確かにとんでもない神だったってわけだな――」
 クラフォードはオルザードを見ながらそう言った後、頭を抱えていた。
「でも、”いきなり来た”ってところがが問題なんじゃないのか? それは”どうやって来た”んだ?  まさか、それこそ”神の御業”とか言って誤魔化すつもりじゃねーだろうな?」
 イールアーズはつっけんどんにそう返した、こいつ――。だが、オルザードは屈しなかった。
「ええ、まさに”神の御業”ですね。 まあ、言ってしまうと、説明のできないからこそ”神の御業”と言われるわけですから、 すなわち、説明ができないものはすべて”神の御業”なんですよ。 逆に言うと、そもそも説明ができてしまうものは当たり前の現象でしかないので”神の御業”とは言えないわけですね」
 確かに! そいつは一本取られた! 何人かはそう思った、まさにそれである。 そうなると流石のイールアーズもぐうの音も出なかった。
「つまり、調べれば調べるほど”神の御業”だったものがそうでなくなってくる、 エンブリア創世学の行動如何で事実が明るみになっていくに連れてエンブリスの神具合も総じて下がってくるというわけか、 なんとも皮肉な商売だな……」
 スレアはそう皮肉を言うとオルザードは頷いた。
「確かにそれもそうなんですが。 しかし先ほども申し上げました通り、新たな世界を創造した者が神となるわけですから、 その人物が如何にして神になったのかと考えると、やはりロマンを感じませんか?  そう、まさに”エンブリス・プロジェクト”は壮大な神を生み出すためのプロジェクトだった、 そう考えれば、この世界にいる者は誰でも神になれるということを示してくださっているのです!  そんな彼はまさにこの世界の生きる希望そのもの! 故に彼は真の神なのです!」
 それに対してリリアリスが絶賛していた。
「素晴らしい! 確かに! あんた、ただのエンブリス信者だと思ったけどそういうところまできちんと考えてのことだったのね!  なるほど、つまりは彼は絶対的なる神という存在ではなく、まさしく多くの人々に担ぎ上げられ、なるべくしてなった神だったってことか。 要はまさしくカリスマ的存在そのものであり、そしてカリスマ=神という図式により、本当の神として今の世では崇められている存在となった―― こうなると、ただただ祭られているだけの神っていう者とは一線を画すような存在に見えてくるわね!」
「でしょう! でしょう! ただの偶像ではないのですよ、彼は!  まさに我々にも確実に見える形で神たるものを示してくださった方なのです!  私はそれを知ったとき、なおのことエンブリスのことが好きになりました!  そう、彼こそがまさに真の神! それは間違いありません!」
 そこまで賛同するかどうかは別だが、リリアリスはオルザードの話にずいぶんと歩み寄っていた。
「なるほどね。だったら私にとってはリリアこそが神ね!」
「お姉ちゃん神。最強の女神」
 フロレンティーナとカスミはそう言って絶賛していると、ほかの女性陣もそれに追随していった。一方で男性陣も――
「確かに最強の女神だな、多くの敵をぶっ飛ばしていく、まさに戦神リリアリス。 その調子ですべての敵をぶっ潰してってくれよ」
「そうだな、最後にあんたを祭る神殿でも作ってやるから好きなようにやってくれ」
 ヒュウガとクラフォードは意地悪そうにそう言った。ほかの男性陣もそれに追随する……。