エンドレス・ロード ~ティル・ジ・エンド・オブ・ザ・ワールド~

悠かなる旅路・精霊の舞 第4部 遠き日々 第7章 天命

第123節 天空の扉

 男は改めて訊ねた。
「貴様、本当にあのリリアリス=シルグランディアだというのか!?」
 そんなことで嘘言ってどーするんだよ、リリアリスは呆れながらそう訊き返した。
「死んだと聞かされていたが……そうか、生きていたのか――」
 と、なんだか満足そうに言っていた、何よこいつ、変なやつ――
 すると男はどういうわけか、槍を構えるのをやめた。
「なっ、なんのつもりよ?」
 リリアリスは警戒していたが、男は何故か改まって話をし始めた。
「俺の名前はゼロ・ブレンダル、”ドラゴン・ロード”と呼ばれる竜騎士だ」
 ”ドラゴン・ロード”か、”ヴァルキリー”とは方向性の異なるスカイ・アタッカー系のクラスの存在である。 確かにあの”ドラグーン・ゲート”を行使するほどだ、それぐらいのクラスでなければ体得できないだろう、リリアリスはそう考えていた。
「貴様という存在から何故お前からあの”アナ・メサイア”というものが現れたのかずっと気になっていた――」
 勝手に変な話を始めているようだが、それでも”ネームレス”であるリリアリスは何かのヒントになるのではないかと思い、ここはこらえて話を聞くことにした。
「だが、”アナ・メサイア”はとんでもない天邪鬼でな、やつのことを探ろうにもすぐに邪魔をするし決して尻尾をつかませようともしない。 とはいえ、”アナ・メサイア”のオリジナルである貴様はもともとそういう存在だったと聞いているから仕方がないことなのだろう。 とにかく、俺は自らの目的のために”イーガネス”の計画に加担し、一緒に行動を起こすことにした。 無論、今回の”イミテーション”への攻撃も”イーガネス”の計画のためにやっていることだが――」
 次々と進出単語が出てくる。それにしても”アナ・メサイア”のオリジナルが自分ということは―― 待て待て、つまりはその”アナ・メサイア”ってのが私の”イミテーション”じゃねーか、リリアリスはそう思った。
「だが、度々”アナ・メサイア”が邪魔をしに来るものでな、お前を見たときにまたかと思ったほどだ。 でもまさか――この”イミテーション”において貴様と出くわすとは世の中わからんものだ」
 リリアリスは意を決して聞いた。
「そう、それはよかったわね。 で、私はちゃんとここにいる、それで、私に遭ってどうしたかったのよ? てか、あんたの目的って何よ?  言っとくけど、その”アナ・メサイア”が何って言われても全然わからないからね、それだけは念頭に入れときなさいよ。」
 ゼロ・ブレンダルは首を振った。
「いや、俺の技などでは太刀打ちできないことはわかった。 だからこの命、どうやら諦める時が来たようだ」
 何故? リリアリスは聞いた。
「俺の目的はイーガネスに協力することよりも貴様に会うことのほうが優先されるのだ。 つまり、”イーガネス”を裏切る形となる、そうなると俺には死しか待っていないのだ。 だからそうなる前に、俺の技をお前に伝授させてくれ、それが俺の望みだ!」
 は? それはどういう――
「つべこべぬかすな! 記憶がないのだろう、だったら黙って俺の言うことに従え!  それが俺から言える最大限の内容だ! いいな、わかったか! まずはついてこい!」
 そう言うとゼロ・ブレンダルは再び槍を持ち出して大ジャンプ! 上空へとダイブした!
「何よあいつ……でも、ほっとくわけにはいかないわよねぇ、しゃあない――」
 リリアリスは呆れ気味にゼロ・ブレンダルに続いて大ジャンプした。

 ついてきたけど何をする気? リリアリスはそう尋ねるとゼロ・ブレンダルは話を続けた。
「お前はもともと竜騎士としての……否、”ヴァルキリー”としての素質のあるやつだった。 俺は”インフェリア・デザイア”だが……俺のオリジナルというやつはもともと名高き”シルグランディア”の使い手を探していたのだ。 ところがその途中、そいつはほかの”インフェリア・デザイア”に殺されてしまい、俺は器なき存在として彷徨うハメになってしまった。 だが、たとえ俺がヤツの”インフェリア・デザイア”であろうと志自体はオリジナルと全く変わらん。 つまり、俺の目的は”シルグランディア”に……お前に出会うことなのだ」
 なんだよそれ、わけのわからん理屈で私に会うことが目的ってなんだ。 理屈はともかく、私に出会いたいってなんだよ、運命の人か何かか……リリアリスは呆れ気味に訊くとゼロ・ブレンダルは――
「さあな、残念ながらそこまではオリジナルの意思を踏襲していなかったようだ。 実際、貴様に会ってはみたものの、俺がしたかったのは何なのだろうな。 そうとも、お前たちも知る通り、やはり我々”インフェリア・デザイア”というのは中途半端な存在だということだ――」
 何を言っているのかさっぱりわからない。そもそもその”インフェリア・デザイア”ってなんだよ、リリアリスはそう訊くと、
「そうだな、何故存在しているのだろうな――」
 どういうこっちゃ、リリアリスは呆れていた。
「そんなことはどうでもよい。 それよりも、俺はこのままただ黙って”イーガネス”に殺られるのも面白くないのでな。 それなら、むしろ貴様のためになることをしようと考えたまでだ。 さあリリアリスよ、貴様の力をさらに引き出すのだ! この俺が貴様の力になってやる!  そしてこの”イミテーション”を、お前の好きなこの”イミテーション”の世界を救って見せろ!  そのためにはまず”イーガネス”を倒すのだ! エンブリスの残した”回帰への道”を歩め!  その先にやつはいる! そして、俺たち”インフェリア・デザイア”という存在を救ってくれ――」
 するとリリアリスはいつの間にかゼロ・ブレンダルと肩を並べていた。
「あんた、何を言っているのかさっぱりわからないけど――でも、せっかくだから覚えておくよ。 要するにまずはその”イーガネス”ってのを倒せばいいのね?」
 そう言いながらリリアリスは頭上へ思いっきり”兵器”を振り上げると、ゼロ・ブレンダルは――
「行け! リリアリス! 我々に超えられぬは”黄昏の天板”のみ!  ”黄昏の天板”は1人では超えられぬ! 挑むときは我のことを思い出すのだ! きっと力になろう!」
 抵抗することなく、運命を受け入れた――つか、最期の最期に何言ってんだこいつ、リリアリスは呆れていた。 すると――
「ん、槍が――」
 ゼロ・ブレンダルの肉体は切り落とした際にそのまま下界のほうへと散っていったが、 彼が持っていた槍はそのまま空高く高く突き進もうとしていた。
「そっか、わかったよ、力になってくれるってワケね。 そういうことならちゃんと有効活用してあげようじゃないのよ。」
 リリアリスは”兵器”を片付けると、その槍を手に取った。
「行くわよ!」

 クラフォードとイールアーズは相手の男に対して苦戦を強いられていた。
「ふっ、所詮は”イミテーション”、我の敵ではないということだ。 とはいえ、我を相手にここまでやるとは……やはりこの”イミテーション”は恐るべきところがあるな、 ”イーガネス”の言ったとおりだ――」
 ”イーガネス”がなんなんだよ、クラフォードは膝をついてそう思っていた。
「なんのことかさっぱりわからんが……どうやらお前たちにとって俺らは恐るべき存在であるということは確かのようだな。 そういうことなら抗ってやる――」
 クラフォードは剣を突きながら立ち上がろうとすると、
「無駄だ――」
 そいつはクラフォードめがけて傍らで倒れていたイールアーズを投げ飛ばした!
「ぐはぁっ!」
「どうした? 抗うのだろう? まとめてトドメを刺してやる――それに対してどう抗うのか見せてみろ!」
 と、その時、ものすごい打撃音と共にクラフォードたちが乗っていた船が大きく揺れた!
「なっ、なんだ!?」
 クラフォードは一瞬何が起こったのかわからなかったが目の前にはあの男の姿はなく、何故かとある女の姿が――
「クラちゃんのことを軽々しく殺したりしないでよ、このバカ男が。」
 そう、その女――突如として上空から降り注いできたリリアリスだった。
「や! とりあえず無事みたいね!  でもあっちも何とか片付けないといけないからまた後でね。」
 そう言うとリリアリスは勢いをつけて大空へとダイブ! どこかへと消え去った。
「あの女マジか!? 嘘だろ!? あんなに高く飛べるものなのか……!?」

 アリエーラは魔物たちに囲まれ、悪戦苦闘中。
「くっ、これまでやってきた個体とはまったく違う強さですね、これ以上は厳しいでしょうか――」
 アリエーラと共闘していた者たちはすべてその場で倒れていた。
「ですが、私はまだ諦めません!」
 その時、アリエーラは――
「ん? これは――リリアさん!?」
 おもむろに稲妻の魔法を唱えると――
「クラーッシュ!」
 なんと、その稲妻の魔法を受け取ったリリアリス、稲妻と共に魔物めがけて飛び込んできた!  そして、着地時の反動で発生した強烈な衝撃波で周囲の魔物をすべて吹き飛ばした!
「ナーイス、アリ!」
 アリエーラはにっこりとしていた。
「うまくつながりましたね!」
 まさにシンクロしているからこそなせる業――
「”スカイ・ハイ・ドライブ”からの”スカイ・ハイ・バースト”ってやつか―― ”フェザー・ブレイド”だか”ヴァルキリー”だか―― とにかく”ヴァルキリー”化していくことは確実なようね、柄じゃあないんだけど……。 でもこれはいい技ね、そういうことなら――」
 ”フェザー・ブレイド”も”ヴァルキリー”も竜騎士同様に大空へとダイブして敵を攻撃するのが得意なクラスの名称である。 どちらも方向性が似たようなクラスであることから彼女の言っていることは純粋にどちらのクラスにも適性があるということが言いたいようだ。

 そして、フロレンティーナのもとへ――
「リリア!」
「やっ! そこの彼女♪ イイ女ね、絶対にモテるでしょ♪」
 自分で魔法を用いてアリエーラの時と同じように、着地時の反動で発生した衝撃波ですべての敵を一度にぶっ飛ばしていたリリアリス、 調子良さそうなセリフでフロレンティーナを心配していた――のか?
「リリアこそ! 敵を全部ぶっ飛ばしてしまうだなんて流石イイ女ね、絶対にモテるでしょ♪」
 どうしてそういう会話に――
「あっ、リリア姉さま! 後で一緒にお買い物行きましょうよ♪」
「リリアお姉ちゃんガチ。お姉ちゃんの華麗なる戦い最強説。私の鑑」
 ローナフィオルとカスミの調子も大体同じ。