一方その頃、クラウディアスの危機に応じてティルアに援軍要請を行っていたクラフォード、
ティルアの船団を率いてフェラントへと向かっている途中だった。
「魔物の数が退いてきたようだな?
だったらちょうどいい、予定を変更してフェラントの港へと直接上陸してくれ」
と、クラフォードは船員に指示を出したが――
「クラフォードさん!」
船員は急に驚いて彼を呼んだ。クラフォードはため息をつきながら振り向いた。
「貴様はなんだ?」
そこには先ほどの竜騎士と一緒にいたであろうやつが魔物を伴って地に降り立っている光景だった。
そいつに対してクラフォードは剣を構えながらそう言ったのである。するとそいつは――
「悪いが貴様のような”イミテーション”などに話す言葉など持ち合わせていないものでな。
おとなしくこの場で滅んでもらおうか」
それに反応したのが連中の後ろ側からそろっと現れたイールアーズだった。
「ほう、そうか――俺も貴様のような雑魚に語りかけられるような言葉がなかったから好都合だ」
またこいつは――クラフォードは少々悩んでいた。すると――
「ククククク……フハハハハハハ! 言うに事欠いてこの我を雑魚などと申すか!
”イミテーション”の分際で! こいつは傑作だ! フハハハハハハ!」
というか”イミテーション”? なんで”イミテーション”なんだ?
さらに――
「来る!」
カスミの目の前にフロレンティーナが飛び出した!
「あらまあ、可愛いお人形ちゃんから始末してあげようと思ったのに……
そうかい、お前から始末してほしいんかい!」
これぞ毒蛇女と言わんばかりの邪悪な女が剣を突き立てて襲撃してきた!
だが、それをフロレンティーナが間一髪で受け止めたのである。
「ダメよ、こんなに可愛いお人形さんを始末するだなんて……この私が許さないわよぉん♪」
フロレンティーナは挑発していた。すると相手の女は――
「そうかい。でもあんたみたいな頭の悪そうな女に選ぶ権利はないんだよ。
ここにいるやつ全員の運命はこのアタシが握っているのさ、覚悟することね!
アハハハハハハ! アハハハハハハハハ!」
「あーら、頭悪そうだなんてずいぶんじゃない。
でも、私は寛容だから許してあげる、人間ができてる器の広い私に感謝することね。
だけどこの子を殺そうなんてことだけは許せないわ、
だから私に殺されないうちにとっととどこかに消え失せなさい、そうしたら許してあげるわ♪」
流石はリリアリス・リスペクター、言うことはほぼリリアリスそのものである。
「そうかい、実におめでたい女だね!
まあいいさ、そんなに地獄を見たいんだったら望みどおりにしてやるよ――」
すると次々と魔物と人型の生物……人間らしきものが上空から現れた――
「あらあらあら、1人がよっぽど寂しかったみたいね♪」
「ふふっ、孤独なあんたとは違うのよ、私はね!」
するとフロレンティーナのほうにも加勢が――
「フローラさん! 僕も加勢します!」
「やれやれ、いつの間にか面倒なのが大勢いるな、頼むから大人しく死んでくれよ」
「うわっ、こんなところに変なのが大勢いるんだあ……でも、やるしかないよね!」
と、イツキ、ヒュウガ、そしてローナフィオルの3名が加わった。
「あらあらあら、なんだかんだ言って、あんただってきちんと仲間呼んでるじゃないのよ、ダサイわね」
しかし、フロレンティーナはにっこりした笑顔で答えた。
「わざわざ呼んだりするわけないでしょ。
言ったでしょう? 私、人間ができてる広い器の持ち主ですの。
だからあなたと違って人望も厚いものですから、みんな私のために駆けつけてきてくださったのよん♪」
フロレンティーナのリリアリス節は炸裂中である。そんなフロレンティーナに対し――
「あっ、噂のフロレンティーナさん! 今度一緒にお買い物行きましょうよ♪」
「フロレンティーナお姉ちゃんガチ。お姉ちゃんの華麗なる戦い見てる。私参考にする」
ローナフィオルとカスミは絶賛していた。
「あーあー、やかましい女どもだね! だったら今すぐ皆殺しにしてやるよ!」
毒蛇女たちは襲い掛かってきた!
「やれるものならやってみせていただけませんこと?」
そして、もっと毒の強い毒蛇女・フロレンティーナが得意げにそう言うと、彼女らはこいつらに立ち向かった!
再びリリアリスと竜騎士の男。
「それにしても”アナ・メサイア”よ、貴様は何故ここにいる? ”ローザンバース”のやつはどうしたんだ?」
また、新たな単語が出てきたぞ。でも、そう言われたところで何のことだかさっぱりわからない。
でも、どうだろう……どこかで聞き覚えがなくもない気がするが、
だけどどうしてこいつは私のことを”アナ・メサイア”と呼ぶのだろうか、リリアリスは不思議に思っていた。
「あんた、さっきから黙っていれば私にいろいろ言ってるようだけど、
つまりは何さ、あんた、私のことを知っているとでもいうワケ?」
リリアリスはそう言うと竜騎士の男は笑っていた。
「なんと! これは傑作だ! もしかして”アナ・メサイア”よ、まさかの記憶喪失かぁ!?」
記憶喪失って言われるとまさにその通りなんだが。
とはいえ、”アナ・メサイア”と呼ばれるにしても”ローザンバース”がどうだとか言われるにしてもなんだか釈然としない。
よくはわからないのだが、それは自分が訊かれるべきことではないような気がしたリリアリスである。
「記憶喪失だろうがなんだろうが構わないわよ。
大体今のこの状況、私は結構気に入っているのよ、仲間だって大勢いるし、
それに――守りたいものもたくさんある、だから――あんたみたいな厄介者を野放しにするわけにはいかないのよ!」
リリアリスは”兵器”を構えると勢いよく技を放った!
「何だと!?」
すると、見事にそいつに”フォース・マスター”の技が命中! いつぞやの”ギガ・ショック・ブースト”だ!
相手は意表を突かれたかのように驚き、とっさに身を引いていたがそれなりに負傷してしまったようだ。
「”アナ・メサイア”――何がどうなっているのだ? 貴様、このような技の使い手だったか――」
そいつは腕を抑えながら言った。
「何よあんた、あそこまでいろいろと言っといてその程度って何の冗談よ!?
さっきのジャンプだってすごかったじゃないのよ、あれは間違いなく竜騎士の大技の極み”ドラグーン・ゲート”よね!?
あの刃を飛ばす技だってそう、”ハリケーン・トラクター”が飛んでくるだなんて私も流石にビビったわよ。
それなのになんか変よあんた! どういうことだかはっきりと説明しなさいよ!
だいたいさっき”イミテーション”とか言ったわよね、どういうことなのかさっぱりなんですけど!」
すると竜騎士の男は槍を構えなおした。
「竜騎士の大技の極みを知っているとは――だが、相手は”アナ・メサイア”、
そうだった、お前は”アナ・メサイア”、我々の中では最も難解と言わしめる存在、
どのような能力を持っていようが知っていようが驚くべきではないということか」
はぁ? リリアリスはますます意味が分からなかった。
「我々の中? 私があんたたちの仲間ってこと? はっ、冗談じゃないわよ。
あんたみたいな訳の分からないストーカーみたいなのと同じとか冗談は顔だけにしときな!」
リリアリスは”兵器”を突き出しながらそう言うと竜騎士の男は言った。
「ここまで記憶がないとはもはや重症か、仕方があるまい。”アナ・メサイア”よ、せめてもの情けだ。
この俺がお前のことを、このような”イミテーション”の世界で使うつもりはなかった極意で全力で葬ってやることにしよう――」
そしてついにリリアリスはキレた。
「さっきから”イミテーション”・”イミテーション”うるさいわね! なんの”イミテーション”よ!
それに私は”あなめさいあ”なんてものじゃないの!
いーい? よく聞きなさいよ! 私の名前は”リリアリス=シルグランディア”!
今からあんたをぶち殺す女の名前をきちんと墓場に持っていけ!」
すると竜騎士の男は驚いていた。
「なっ、なんだと!? リリアリス、だと――!? どういうことだ……?」
ちょっ、ちょっと、今度は何なのよ――どういうことだってこっちのセリフ……リリアリスは呆れていた。