エンドレス・ロード ~ティル・ジ・エンド・オブ・ザ・ワールド~

悠かなる旅路・精霊の舞 第4部 遠き日々 第7章 天命

第121節 イレギュラーケース

 ハイドラ、シャアード、イツキの3人が港に着くとすでに激闘が展開されていた。 そもそもクラウディアスの町から南の街道へと出るころには上空には妙な黒い塊が近づいてきており、 これからとてつもないことが起きると3人は思ったのである。
 しかも――
「なんだこの魔物は!? エンブリアじゃああんまり見ない魔物だらけだな! とにかくやっちまおうぜ!」
 と、シャアードは言った。そう、現れる魔物は異形の魔物ばかりである。 如何にもな悪魔……”ホーンド・デビル”と呼ばれる魔物は筋肉隆々でライオンのような顔つきに頭には大きな角、 馬の蹄のような脚で歩行し、人間の腕どころか身体を簡単にへし折れそうな太い腕を持っているなど、 エンブリアではまず見られないようなタイプの魔物しかいなかった。
「数が多いようだがいけるか?」
 たまたま通りかかったヒュウガに対してシャアードがそう訊くと、ヒュウガは言った。
「大丈夫だ、消えてるのは10回――襲ってこなかったケースもあるが、それでもクラウディアスは健在だからな」
 確かに……そういうことか。

 なんだかんだ言いながらも手馴れてきていたのだろうか、なんとか魔物を退くことができた。
「打ち止め?」
 リリアリスは最後の魔物の首を”兵器”で吹っ飛ばしながらアリエーラに訊いた。
「どうでしょうか、”第一波”ですからもう少し数が多くてもいいような気がするのですが、妙ですね。 以前の数に比べると少なすぎるように感じます――」
 アリエーラは周囲を見渡しながらそう言った。”第一波”……つまりは”第二波”以降があるという意味である。 具体的には”第一波”と”第二波”の二部構成、”第一波”による魔物の波の後に”第二波”が訪れる。
 これまでの襲撃について共通した特徴で言うと、数は”第一波”のほうが多く、”第二波”は数こそ少ないが魔物の強さは段違いであった。 また、”第一波”はセラフィック・ランドの消滅後にクラウディアスへと襲ってきて、”第二波”はその後になる特徴があった。
 ここからイレギュラーなケースで言うと、フェニックシア大陸とフェアリシア島が消滅したときには魔物が発生していないこと、 コエテク島が消えたときは魔物が襲撃に来るよりも先にコナンド島が消えたこと、 直前のニテント島が消滅したときは”第一波”の襲撃が予想よりも早く、しかも”第二波”も立て続けに襲ってきており、 全体の数もこれまで以上の数だったことなどがあげられる。 だが、今回のイレギュラーケースは……
「確かに、いつもだったらもっといてもいいハズなんだけど、今回の”第一波”はいつもの”第二波”並に数が少ないわね――」
 ということである。すると――
「リリアさん! あれ!」
 アリエーラはそう言うとリリアリスもすぐさま気が付いた。
「何かしら、この禍々しい雰囲気――」
 恐らく”第二波”であろうその存在が近づいてくることが確認できた。だが――
「でも、今までの襲撃にしては少なくありませんか? あれぐらいであれば我々でも……」
 と、背後の騎士たちは口々に言う。だがしかし――
「総員退避! あいつら――」
 と、リリアリスは騎士たちにそう指示した。そしてその時、”第二波”の中央から一直線に刃が放たれてきた!
「危ない!」
 リリアリスは飛び出すと、その力のほうへと全力で突進! そしてその刃を弾き返すと、それは海のほうへと飛んで行った……
「今の力! まさか”ネームレス”!?」
 アリエーラは背後で心配しながらそう言った。 その刃を放った主は空高くジャンプし、フェラントの港――リリアリスめがけて槍を突きたてつつ思いっきり着地した!
「こいつっ!」
 リリアリスはその攻撃をとっさによけた。
「ほう、この俺の攻撃をうまくかわすとは、どうやら先ほどの技の反射もマグレではなかったようだな――」
 すると、そいつは波止場に深く刺さった槍をゆっくりと引き抜くと、リリアリスのいるほうへと向き直った。 だが――
「なっ!? 何故だ貴様!? どうしてここにいる!? 何故ここに貴様がいるんだ、”アナ・メサイア”!」
 はぁ? あなめさいあ? 何それ? 今度は何よ――リリアリスは呆れていた。

 そいつはリリアリスに向かって改めて槍を構えていた。
「くっ、”アナ・メサイア”……何故ここにいるのだ、 そうまでして我々の邪魔をしようというのであれば仕方がない、貴様もろともこの地に葬ってやる――」
 それに対してリリアリス、狼狽え気味に答えた。
「なっ、なによ、その”あなめさいあ”ってのがなんなのか知らないけど、 このクラウディアスを脅かそうってんならそうはいかないわよ。さあ、覚悟しなさいな!」
 2人は激突! そうなると当然、リリアリスの得物のほうが強いハズなのだが――
「今度こそ止めを刺してやる!」
 相手はリリアリスと衝突する前に勢いよく大空へとダイブ!
「なっ!? あいつ、竜騎士!?」
 リリアリスは少し考えると意を決して――
「なるほど、そういうことならやってやろうじゃないのよ。」
 リリアリスも大空へとダイブ! だが――
「ふっ、無駄だ”アナ・メサイア”……たとえお前がそうであってもそこまでの力はあるまい――」
 竜騎士の男は勝気だった。
「そうとも! ”アナ・メサイア”! たとえお前がそうであったとしてもこの俺を超えることは不可能!  この俺を超えたければ、まずは”本物”の力を手に入れることだな! フハハハハハハ!  さあ、とどめを刺してやる! 地に這いつくばって命乞いをしてみろ! それなら少なくとも命だけは助けてやる!」
 しかしリリアリス――
「なんだあいつ、腹立つわね、何様のつもり?  大体飛び上がてから今更地に這いつくばれったって……無理に決まってんでしょ!」
 と、リリアリスは上を向いたままそんなことを言いながらさらに上空へ上空へと突き進んだ!
「なっ、なんだと!? まさか”アナ・メサイア”、この俺を超えようというのか!?」
 そう、この竜騎士の思惑とは裏腹に、この女はどんどん距離を縮めていく…… ”アナ・メサイア”というものであればこんなことが起こるハズなどない、頭が混乱していた――
「そんなバカな!? もしや、このような”イミテーション”の世界でそのような能力を体得したとでもいうのか!?」
 すると、リリアリスは竜騎士の目の前まで迫ってくると、彼女は竜騎士に向かって思いっきり”兵器”を振りかぶった!
「なっ!? もうここまで!? 仕方があるまい!」
 すると、その動作に対してとっさに反応したリリアリス――
「! やばっ……」
 慌てて攻撃を”兵器”で受け止めて交わすと、2人はそのまま地上のほうへと降りたった。