いよいよ、”天命の刻30”特別式典に向けての計画がスタートすることとなった。
そのために、まずは一部の国同士でリモートによる会議がなされることとなった。
「最近は会議が多いですね。それだけに新生クラウディアス連合国のみならず、
エンブリア全体で一丸となって事に当たろうという流れになっているわけですからなんとも喜ばしいことです」
と、その日の会議についてはシャナンが最初に挨拶をした。
その日の会議はなんとまさかの農業の話題。
つまり、クラウディアス側の対応者については当然、あのオリエンネストである。
「まさかオリエンネスト様でございますか!
流石はクラウディアス様! 素晴らしい人材を保有しておられますな!
オリエンネスト様におかれましては噂は既に聞き及んでおります、
まさか、あなたとお話ができるとはとても楽しみです!」
と、リモート越しに次々とそんな話が。
なんで、どういうことだ――オリエンネストはそう思っていると、1人が話した。
「お初にお目にかかります、オリエンネスト様!
あなたは存じておられないでしょうが、私は大変存じ上げております、
ルーティスの農学部に研究所を持っているものでございます」
謎が解けた、つまり、いつぞやのルーティス学生時代の夏休みの自由研究のレポートが大変好評だったということ、
どうやらルーティスのみならず、各農学・薬学などの研究者の間にまですでに浸透してしまっているようだった。
「やはりオリエンネスト様も”ネームレス”でございましたか!
どおりで学生身分であれほどの知識をお持ちなわけだ!
XCサイトにも同じ情報が掲載されていることを確認しております! いやー、いつでも情報を確認できるのは嬉しいなー!」
もはや照れるしかなかったオリエンネスト、てか、情報の伝達早っ!
僕ってそんなにすごいのかな……そんな様子をシャナンはただ黙ってにこにこと見つめているだけだった。
ところで”天命の刻30”式典サミットでの議題については既に考えられており、大きく分けて3つである。
1つ目はやはり世界平和の維持、最重要課題である。
無論、この話に国が乗ってこない事には始まらないが、そこはやはり助け合いの精神、
少なくともまずは、新生クラウディアス連合国内だけでもという協調体制を確立させていくのが大事なので、そのための話し合いである。
2つ目は今ほど、農業大臣に値するもの同士で”ネームレス”という言葉が直接出たこと、
ここからわかる通り、”ネームレス”という存在をいよいよ公開する運びとなった。
というのも、そもそも”天命の刻”の起点となるのが”フェニックシアの孤児”の発見となる年、
つまりは”ネームレス”そのものを説明したうえでの”天命の刻”なので、
この30年という節目を機に”ネームレス”という存在を公表することにしたのである。
もちろん、公表自体は既にされており、式典では”ネームレス”に関するちょっとした話をするだけだが、
その最後に”天命の刻”30年目を宣言することが大きな目的となる。
3つ目、”天命の刻”だろうとまったく解決していない問題、
”フェニックシアの孤児”のルーツとなったフェニックシアがない問題……そう、セラフィック・ランド消滅事件問題である。
これについてどうするのか、セラフィック・ランドはこのまますべて消えていく運命なのか……
現時点でセラフィック・ランド内で何とか残っているところだけで国は成り立っているが、
今後がやはり不安……そのため、これも何とか新生クラウディアス連合国内で話し合うことにしたのである。
そして最後に、これまで昔にあったクラウディアス連合国の流れを継承し、今回新生クラウディアス連合国が設立したわけだが、
この”天命の刻30”を機に、新生クラウディアス連合国は”クラウディアス連合国”として名称を改めることを採択する、
これらが”天命の刻30”式典サミットで話し合われる議題である。
とはいえ、”天命の刻30”開幕はまだ先の話である。
それこそ”天命の刻30”が始まる前に、会場となるクラウディアスを一目見ようという訪問者だらけでクラウディアス中で大忙し。
クラウディアスのみならず、
クラウディアス連合国という国を知ろうとクラウディアス連合国外からの訪問者がディスタードやルシルメア、
それにグレート=グランドとルーティスなど各地に訪れている状況のため、とにかく各国で大忙しなのである。
だが、その中でも唯一入国制限しているところがある、そう、セラフィック・ランドである。
天使の舞い降りる地としてこの世界の起点となった場所、行ってみたいという人は多そうなものだが、
やはりセラフィック・ランド消滅事件のせいで入国制限をしている。
そういうことからも、セラフィック・ランド消滅事件問題については何とかして解決しなければならないというわけである。
ところが――
「うっ!?」
いつものようにお城の5階のテラスで作業していたリリアリス、
気分転換したく、立ち上がったところで妙な気分にとらわれていた。
するとそこへシャナンが慌てて駆け寄り、倒れそうになっているリリアリスを支えた。
「あら……これはまた贅沢な待遇じゃない――」
リリアリスの顔は真っ青だった。だが、それについてはシャナンのほうも織り込み済みだった。
「その目は……アリエーラさんを心配してらっしゃいますね。
彼女は大丈夫です、下のほうを覗いたところ、
エミーリア様と座っている状態でお話をされておりましたので倒れる心配はございません。
ですが、これはまさしく……」
リリアリスは頷いた。
「ったく、忘れたころにやってくるだなんて、なかなか見上げた根性の……ね……」
いつものセリフだが、なんだか本当に嫌な予感しかしない。