エンドレス・ロード ~ティル・ジ・エンド・オブ・ザ・ワールド~

悠かなる旅路・精霊の舞 第4部 遠き日々 第7章 天命

第118節 改革続々

 ある日のこと、ラシルをはじめとする騎士と兵士たちが慌てて5階のテラスへとやってきていた。 何事か、そのような物々しい状態に対して多くが圧倒されていた。
「何よ、騒々しいわね、何がどうしたっていうのよ?」
 すると、ラシルがとある紙切れを持ってリリアリスの前に出して訴えていた。
「こっ、これ! どういうことですか!」
 どうって――リリアリスはその紙を見るとすぐさま取り上げ、その近くにあるシュレッダーに押し込んだ!
「ちょっと! 何てことするんですか!」
 ラシルはそう訴えるとリリアリスは少しご立腹気味の態度で言った。
「何じゃない! 印刷しちゃダメって何度か言ったしちゃんと書いてあるでしょ!  通し番号があるんだから必要なら番号で伝えなさいってあれほど言ってるでしょ!」
 あっ……それについては申し訳なく思っていたラシル。 印刷物は機密性の高い秘密文書であり、そのデータは持ち出し厳禁であるがゆえにプリントアウトも原則禁止になっているのだが、 誰かが思わず印刷してしまったようである。 以前はそんなことなかったのにセキュリティを気にするようになってからというものの、 データ管理について厳しい時代になったものだ。
「ったく! ちょっと待ってなさい! 今の番号のは――これのことでしょ!?」
 するとリリアリスは問題の件について、端末から情報を引っ張り出してその場のみんなに見せていた。
「ったく、ややあって印刷OKにしてあるけど、やっぱり印刷禁止を設定しておかないとダメね。 まあいいわ、とにかく、それについては書いてあることそのままよ。何か言いたいことは?」
 あるに決まっている、そのためにストライキでも起こさんばかりの様相でこうやって騎士兵士がやってきているのだ。 しかし、その状況に対し、今来たばかりのアリエーラはキョトンとしていた。
「なっ、なんです? みなさん、一体何があったというのですか?」
 リリアリスは頷いた。
「ええ、騎士制度を廃止するって立案したんだけど、 多分それでみんなしてどういうことだって押し迫ってきたんでしょ。なんかダメ?」
 ダメに決まっている! 騎士兵士たちはみんな困惑していた。
「なんで騎士制度を廃止するんですか! 騎士たちはどうなるんです!?」
 ラシルは訴えるとリリアリスはモニタに指さして言った。
「ここに書いてあるでしょ、騎士制度兵士制度は一本化され、今後は兵士制度として取り扱うものとするって。 つまり、全員兵士になるってわけよ。」
 それでも全員困惑するわけである、そもそも騎士と兵士とでは処遇も違うため、純粋に降格を意味するわけである。 無論役割も違い、重責を担うのは主に騎士であるが、一本化されると当然兵士のほうに――
「そもそも騎士ってのは騎乗するものなのよ。何に騎乗するのかというと、それはもちろん馬よね。 でもクラウディアスでは馬に乗って何をするという歴史はほとんどないのに騎士というのがいるのよ、何故だと思う?」
 リリアリスはそう言うとアリエーラはにっこりしながら答えた。
「クラウディアスは召喚王国です。 クラウディアスの最初の騎士は幻獣に乗って戦地に赴き、敵を討ったという記録があります。 つまり、クラウディアスでの騎士は”幻獣に騎乗するもの”、 転じて”幻獣を召喚する兵士”として扱われています。」
 リリアリスは嬉しそうな面持ちで言った。
「流石はアリ、何でも知っているわね。 そう、それがクラウディアスの騎士の起源なワケだけど、それがいつしか違うものになっていってるのよ。 どういうことかというと、まさにリアスティン陛下の抱いていた疑問がそのまま言えるってわけね、 平民は騎士にはなれず兵士にしかなれない、貴族に兵士はおらず、騎士しかいないっていうことね。 さしづめ、騎士の”き”は貴族の”き”で、兵士の”へい”は平民の”へい”ってところね、 つまり実態は”貴士”と”平士”と呼ぶのが正しくって、今もその流れをある程度引きずっているのよね。」
 それで一本化を目指すということか――しかし、それで処遇は!? それを考えると少々納得がいかないものがある。 騎士については純粋に処遇が悪くなるため、それはもちろん納得が行かないのは当然のことである。 兵士だってそう、もしかしたら処遇がよくなるのかもしれないが、 騎士兵士一本化に伴ってそれだけの重責を担う必要も出てくるため、そうなると不安でしかない。それに――
「中には今のような制度のおかげで兵士の中から騎士を目指そうという者もいるのですが――」
 と、とある騎士が言うと、リリアリスは態度を変えて言った。
「わかったわかった、じゃあこうしましょ、兵士制度を廃止して騎士制度に統一しましょ、それならいい?」
 へっ? みんなキョトンとしていた。リリアリスは続けた。
「職務に誇りがある方にとっては非常に申し訳ない言い方をするけれども、 そもそも騎士兵士の違いがあったところで私らなんかはその違いを別に全然気にしないのよね。 リアスティン陛下も言っていたでしょ、クラウディアスのためにという誇りを持っているのは騎士も兵士も一緒だってさ、まさにその通りよね。 だから私らにしてみれば騎士に仕事を頼もうが兵士に仕事を頼もうが一緒なのよ。 それでいて騎士兵士の差分である重責の有無という点で違いを付けたければ、純粋に階級制度にすればいいじゃんって思うのよ。 あるいはハンター制度を見習って手当をつけるとかね。 今までは騎士っていうだけで重責が当たり前とか、そういう風潮だったじゃん?  でも、本当なら重責ばかりをするようなら手当だって手厚いほうがいいでしょ?  そのほうがよっぽど平等的だし、健康的でもあるからね。そうは思わない?」
 ……そういうことか、騎士兵士たちは彼女の考えについて理解し、納得した。 むしろ、そのほうが確かに平等かつ合理的でもある。もんくの付け所が見当たらない。
「とりあえず、書き直しておくわね。 騎士制度と兵士制度を廃止し、制度を新制度として統一させるものとする。 新制度は旧制度廃止直後より執行され、新制度名は旧制度対象者による投票により決定されるものとする、と。」
 だが、それについては満場一致で騎士で統一される運びとなった。
「どんどんクラウディアスが改革されていくなぁ――」
 ラシルは苦笑いしていた。

 さらにクラウディアスの建設ラッシュが進んでいく。
「立案者が精霊様っていうだけあって景観を損ねないのがポイントだな」
 クラフォードは建物を建設している光景を見ながらそう言った。 彼はグレート・グランド国大使館におり、窓からその光景を眺めていたのである。 グレート・グランド国大使館は昔からグラエスタにあったが、 以前のクラウディアスの鎖国を受けて機能停止を決定していた。 だが、国を開くと同時に機能を復活させ、今に至るのである。
「ところであれはなんの建物なんだ? 民家って感じじゃあないと思うが――」
 クラフォードはそう訊くとディスティアが言った。
「グラエスタに新しくクラウディアス騎士の駐屯地ができるって聞きましたけど、もしかしたらあれのことかもしれません」
 クラフォードは腕を組み考えていた。
「グラエスタだからな、 ”貴士”だったら自分の家にとどまっていればいいわけだから、 ”平士”のためにグラエスタにわざわざそんなもの置くなって貴族共に言われて泣く泣くグラエスタの隅っこに駐在所を設けるのがせいぜいだったようだが、 その問題も解決したってわけだな」
 そこへディスティアは訊いた。
「ところで……グラエスタはそういう土地柄のハズなのに、何故グレート・グランドの大使館はグラエスタにあるのでしょう?」
 クラフォードは言った。
「さあな、俺も知らないけど――考えられるのは、 クラウディアス貴族とグレート・グランドの王族とが仲が良かったからとかじゃないか?」
 ディスティアは頷いた。
「確かにそれぐらいの理由でなければここにあるはずもありませんからね――」
「なんにせよ、わざわざアクアレア側に新たに建てる必要がない分だけ手間にならないことはいいことだ。 でも、ここも結構年季が入っているからな、そろそろ改装が必要かもな――」