最近になってクラウディアスでの建設ラッシュが進んでいる。
プロジェクトの発起人は主にリリアリス、資材調達の調査と建築設計はフィリスが関与している、
あなた一級建築士か何かか、そういわんばかりに活躍している。
ついでにエンブリアに未知物質がないのかも含めての現地資材調査も担当している。
当然、外交の橋渡し役はヴァドスが担当しており、
最近ではアクアレアでの仕事が忙しくなるということを見越してか、
前もってアクアレアの大使館通りに新しい事務所を設置、ほぼ毎日のように駆り出されていた。
もちろん、彼はあくまで法的なところの調整役に過ぎないため、実際の外交において直接担当しているのは各々別の人である。
「クラウディアスもだいぶ形になってきたわね。
こんなこと言うのもなんだけど、以前はどうやって国を回していくのか不安でしかなかったのにさ、
今じゃあよその国にも負けないような勢いで国が回っているわね。」
「それはひとえにお姉様たちのおかげです!
お姉様たちが来てくれなければクラウディアスはこんなふうにならなかったわけですから、
私は、ひたすらお姉様たちの考えたことに対してひたすら判を押すだけです!」
リリアリスとエミーリア、エミーリア姫こと、女王陛下の執務室ではそんな話をしていた。
「あら、そんな、ひたすら判を押してもらってもいいのかしら?」
「お姉様たちが間違いなど犯すはずなどありません! 私はお姉様たちを信じていますから!」
「あらあら、私たちの責任は重大ね。」
「そう思ってクラウディアスを動かしていらっしゃるのですからお姉様たちを信じられるのですよ!」
すると、リリアリスは腕を組んだ。
「何か悩み事です?」
エミーリアはそう訊くとリリアリスは頷いた。
「実はそうなのよ。
アクアレアは御覧の通りだし、クラウディアスにもシステム棟建設とかいろいろと計画が進んでいる。
でも、1か所だけ、逆に廃れているところがあってね……」
それを言われ、カスミが反応した。
「グラエスタ――」
そこは少々特別なところだった。
「だったら、どんどんグラエスタもアクアレア同様に改良しちゃってください、お姉様!」
だが、そういうわけにもいかなかった。
「やっぱり、クラウディアス貴族の土地というだけあってね、いわゆる”貴族会”と言われるもので作ったっていう独自の法律でがっちりとガードされているみたいなのよ。
ヴァドスになんとかできないかって訊いたんだけど、クラウディアスの法律で貴族会の法が保証されている限り、手出しができないみたいなのよ。」
それを踏まえて現状の問題を。
「でも、グラエスタの格下貴族は今苦境に立たされていて、
貴族会で勝手に決めたっていう高い税金が支払えない人が相次ぎ、泣く泣く土地ごと手放したっていう人が最近増えているみたいね――」
カスミは頷いた。
「グラエスタ高い。アクアレア安い。みんなアクアレア流れて行く。
グラエスタ空き地だらけ、何か建てたい、私たち何もできない、貴族会のせい」
エミーリアは悩みながらとある書類を出した。
「前、ヴァドスさんに言われた件ですね、私のほうでも調べておきました。そしたらこんな書類が――」
リリアリスはそれを読んだ。
「あらま、これは確かに面倒そうね。
そっか、昔の王族自らがお墨付きにしちゃったのね、それで私らはもちろん、国王ですら手出し不可な状態を作っちゃったってワケか――」
書類にはクラウディアス王家の特別な紋章の判が押してあり、まさにそれを象徴しているかのようだった。
「ど、どうしたらいいのでしょうか、お姉様――」
すると、リリアリスは言った。
「状況は全部把握できたわ、そういうことなら話は簡単よ。
なーんだ、ヴァドスのやつ、難しいって言ってたのにこういうことなら案外簡単じゃないのよ。」
「流石お姉ちゃん、私の鑑」
「流石リリアお姉様! がんばってくださーい!」
カスミとエミーリアは絶賛していた。
さらに数日後、今度はグラエスタでの開発が進んでいた。
「ど、どう動かしたんだよ――」
ヴァドスは恐る恐る聞くとフロレンティーナが答えた。
「あんた、あの時話に参加してなかったんだっけ。
まず、そもそもあんな高い税金、ほとんどの貴族が払っていなかったのよ」
簡単なことである。
フロレンティーナといえば、以前に大茶番を打って悪の枢軸たる貴族たちを追い出したことがあった。
だが、そういうやつらこそがまさに貴族会の中心メンバーであるため、
つまりはそいつらがいなくなったことで貴族会自体が崩壊気味、
そんな状況下でどうするのか、今の残りの貴族会メンバーにそれを問いただしたところ、
貴族会を廃止して国家に従うということで話は穏便に付いたのだという。
「とはいえ、相手は流石に貴族、それでもクラウディアスを支えている者たちだから無下にはできないわ。
彼らの処遇は別に何をどうするということはなく、とにかく、良しなにってところよ」
なるほど、彼らの弱み……じゃなくてまさに困っている今だからこそ、
クラウディアスが手を差し伸べて話を進めたってわけか、当然と言えば当然である。
なんでそんな単純なことに気が付かなかったのだろう、ヴァドスは反省していた。
「それに、幸いなことにグラエスタはクラウディアスの中枢機関の一部が置いてある土地でもあるから、
中枢機関の拡張を行っていくわよ。
これでクラウディアスの機能がより一層強化されることになるわね。
そうなったらあんたも早くグラエスタに事務所を新設することを考えなさいな」
げっ、つまりはまた仕事が増えるのか……ヴァドスは落胆していた。
「くっ、どうやら新たな後継者を育成するところから考えないといけないな……」
「何言ってるのよ、あんたまだ若いんだから言ってないであちこち走り回って汗水垂らしながらがんばりなさいな」
……フロレンティーナって見た目とは裏腹に意外と気が強い。
まるでどこかの誰かさんみたいだ、高いところに平然と上り下りしたりしないけど。