サミットは無事に幕を閉じた。
今回はディスタードとの戦争の終結のための報告が主で、”ネームレス”の話題については次回の議題のテーマとしての打ち合わせに過ぎない。
しかし、次回のサミットについては時代の一つの節目として大きな祭典を予定しており、再びクラウディアスの地が選ばれる運びとなった。
「これはどえらいことになったわね、時代の節目の祭典も結局クラウディアスでやることになったってわけか、まあ、予想はしていたんだけどね――」
会議後、リリアリスは得意げにそう言うと、議場に残っていたナミスが心配そうに言った。
「なんだか、無茶ぶりをしたみたいですみません。でも、本当に大丈夫でしょうか?」
リリアリスはやっぱり得意げに答えた。
「大丈夫大丈夫、実はそのための準備も進めているからね。
それに無茶ぶりしたのはルシルメアだし、こうなることはある程度予定のうちよ。
ちなみにイベント名は1週間後に公示する予定だから、XCサイトを確認してもらえると嬉しいわね。
イベント名はナミスには前もって伝えてあるアレよ、案外評判がいいもんだから正直驚いている。
もうアップも済ませていて、予定の時間きっかしにドドンと出るようになっているハズよ。
ま、その前にクラウディアスでやるますって文言を付け足さないといけないと思うけど。」
ナミスは再び心配そうに言った。
「今回の話、ちょっとルシルメアさんは当たりが強すぎませんでしたかね?」
リリアリスはまたしても得意げに言った。
「ううん、全然大丈夫よ。
そもそもルシルメアの当たりが強い発言は実は私からの依頼なのよ。
相手がクラウディアスっていうことになるとみんな腰が低くなってしまうからさ、
その中でも一番腰が低かったルシルメアを指名してちゃんとやるようにって言ったのよ。」
だが、それに対してナミスは酷く恐縮していた。それを察したリリアリス、
「ああ、違う違う、別にルーティスとかほかのみんなの態度が大きいとかそういうことじゃないのよ、
やっぱりルシルメアはねぇ、あっちこっちで支援してもらっている立場だからどうしてもほかの国には頭が上がらなくなりがちだしね。
要はそれを逆に利用したのよ、恐縮してばっかりじゃなくてちゃんと言えって。
そしたらルシルメアとしてはクラウディアス様が言うのだからちゃんとやんなきゃって動きになるわけよ。
事実、それによって1年にわたって何を言うかしっかりと議論を重ねていたそうだけど、逆になんかこっちが申し訳ないことしたみたいね。
で、何を言っていいのか確認したいって言うから聞いたんだけど、結局、私が”こう言いなさい”って言った内容がほとんどそのままだったわね。」
伝えたかったことはルシルメアの意図するものだが、当たりの強さはリリアリスが考えた部分だということらしい。
「そこは私個人の反省ね、でも、その代わり本音が聞けて良かったわ。」
本音? ナミスは訊いた。
「クラウディアスはもともと情報分野の技術国家としては後れを取っていたってこと。
それに会議の内容を聞いていて考えたんだけど、クラウディアス様を立てるために周りの国が頑張りますっていう構図だったのかなと思ってさ。」
ナミスは頷いた。
「ああ、言われてみれば確かにそうですね、連合国内ではクラウディアス様こそがっていうところがどの国にもありますから、
つまりはクラウディアス様は何もなさらずとも我々のほうでやりますという流れが長らく続いていたのかもしれません。
昔はクラウディアス様の怒りに触れようものなら国が一つ滅ぶとも言われた時代もあったぐらいですし。
この前、ディスタードの際に使用した”天の裁き”こそがまさにそれではありませんか?」
そう言われてリリアリスは悩んだ。
「あれこそがまさに恐怖の象徴よね、使用するべきじゃなかったわ。」
ナミスは笑顔で答えた。
「いえいえ、そんなことは。
実際、クラウディアス様が鎖国して以来、周辺各国は強大な後ろ盾を失い、迷走するしかありませんでした。
もちろん、クラウディアス様に依存しすぎたということが問題として露になったわけですが、
それによって各国で新たな強い国作りを進めるようになりました。
そう、これはクラウディアス様が与えた試練なのだと、考えるようになったのです。
そして戦争が起き、クラウディアス様が国を開き、帝国を打ち破るために動き始め、
”天の裁き”を使用された時、あのクラウディアス様が戻られたのだと我々は思いました。
確かにあのような力をいつも振りかざすようでは問題が大きいかもしれませんが、
クラウディアス様の威厳を示すという意味では非常に効果的なものだったと私は考えています」
そこまで言われるのなら……リリアリスは悩みつつも考えながらそう言った。
「そういうことですから、今後はあの”天の裁き”にも負けないようなものを作りましょう。
こちらの技術スタッフチームで新しいシステムの開発をしたいそうですので、お手数ですが、まずはご確認いただけますか?」
リリアリスは頷いた。
「そうね、戦争は終わったんだし、あれを糧に今後は平和な国作りのためにいろいろやっていかないと、
あの事ばかりに気を取られていたらダメよね。
あっ、で、ルーティスからの新システムの企画書だけど、実は既に確認したわよ。
面白いわね、前向きに検討させてもらうわ。」
ナミスは前のめりだった。
「本当ですか!? そうなるとクラウディアスとの行き来がしやすくなるのですごく嬉しいです!」
リリアリスは言った。
「ええ、ルーティスと行き来しやすくなるというのは嬉しいわね、
ルーティスには私も臨時講師としてよく招かれるけど、行きやすくなるのはすごく便利。
で、それを見越して一つやりたいことがあるんだけれども、相談できるかしら?」
それから数日後――
「こんにちは、アリエーラさん!」
ユーシェリアがアリエーラのいるところにやってきた。その場所はアクアレアである。
「ユーシェリアさん、こんにちは!」
なお、アクアレアと言ってもアリエーラたちのいる場所はちょうどクラウディアス中央区につながる街道の近くであり、
そこはとある工事現場の前、しかもアルディアス大使館の隣であり、アクアレアでは大使館通りとして設定している区画でもあった。
「もしかして、ルーティスの大使館ができるのですか?」
アリエーラはにっこりしていた。
「ええ! ここは昔、クラウディアス王立学校があったところで、今はクラウディアス中央区に移設していてこちらは使っていません。
せっかくですから改装して学園都市のあるルーティスさんに使ってもらうことになりました。
それと同時にクラウディアス・ルーティス共立ルーティス特別校クラウディアス学園を併設することにしたのですよ。」
2国間による合同出資による共同設立、そして、とどのつまりはここに学校ができるということか……ユーシェリアはそう考えた。
「すごいすごい! 国同士で新しい学校を作ろうなんて取り組み! 賑やかになりますね!」
嬉しそうなユーシェリアと、アリエーラはそのままにっこりとしていた。