エンドレス・ロード ~ティル・ジ・エンド・オブ・ザ・ワールド~

悠かなる旅路・精霊の舞 第4部 遠き日々 第7章 天命

第112節 遥かなる力

 その後、4人は謁見の間ではなくお城の会議室へと通された。 会議室は広くコの字型に配置された机があり、各々が思い思いの席に座ることとなった。
 参加者はクラウディアス当主であるエミーリアとレミーネア、それから騎士団長のラシルとスレア、 特別執行官のリリアリスとアリエーラにフィリスとフロレンティーナ、王室顧問弁護士であるヴァドス、 そして、王室お抱えの特務隊長であるシャナンに、クラウディアス騎士団の特殊団員であるハイドラとシャアードとイツキ、 アルディアス国からの使者としてティレックスも同席した。 そんなそうそうたる顔ぶれが並ぶ中、 農業大臣に抜擢されたばかりのオリエンネストとこれが二度目の訪問となるプリシラ、 そして初訪問となるロッカクとシャディアスはひどく緊張していた。
「ようこそ皆様、クラウディアスにお越しくださいましてありがとうございます!」
 まずはニコニコとした笑顔のエミーリアによる歓迎のあいさつから話はスタートした。 それからリリアリスが話した。
「始める前に言っておくけど、オリ君とティレックス君、なんだか引き留めて悪かったわね。」
 それに対してティレックスは「どうせ暇だから構わない」程度の内容で軽く返答し、 オリエンネストもとても緊張しながら平気である旨を伝えた。だが――
「ティレックス君が暇なのは知っているけど、特にオリ君は頼みごとをしておきながら悪かったわね――」
 だから暇言うな、ティレックスはイラっとしていた。
「というわけで、それじゃあ始めるわね――」
 リリアリスはそう言って会議を始めた。 話す内容についてはまずは、緊張している4人についての話である。
 シャディアスと言えばF・F団として主にルシルメアを根城にして活動している。
「レジスタンスとは言うけれども基本的にはルシルメア国や周辺各国との橋渡し的な役割と、 後は民間企業との調整役も引き受けてしまってな――ほら、リーダーがあれだからな、 そう言うこともあって、国としては頼りたくなるのは必然のことなのさ」
 リーダーはリヴァスト、ディスタード帝国のガレアの将アールでもあり、 クラウディアスの特別執行官の一員でもあるリファリウスである。 ルシルメア側には既にそのことについては打ち明けてしまっており、 クラウディアスの手の者がレジスタンスを指揮していてディスタード帝国の将軍をしているという事実から、 今ではルシルメアとしてはかなり期待を寄せているわけである。 それだけクラウディアスという国が大きいというのは事実のようだ。
 それに、やはりディスタードの帝国軍を解体させていったのは特に大きく、 世界平和を目指すということにおいては最も功績の大きい出来事であるともいえるのだが、 それについては1つだけどうしても気にしなければならない問題を抱えていた、 それこそが、今回の会議で各人が集まることになった理由である。
「”ネームレス”――確かに”ネームレス”ほどの能力者が国を、いえ、世界を動かしたということでもありますね。 リファリウスさんやリリアさんのように各地で行動を起こし、 いくつかの国を取りまとめると同時に多くの敵対勢力を退けていくその力、恐るべきものがあるように思います――」
 と、シャナンは言うとリリアリスが言った。
「リファリウスの場合は最初に”これだ”っていう強力な実績を作って各国と交渉とかしているからね。 ルシルメアとの休戦協定にルーティスの解放、 ルシルメアの件についてはアール・イコール・リヴァストという種を明かした時点で茶番でしかなくなったわけだけど、 そのアール将軍が予めリファリウスとしてクラウディアスにコンタクトを取って特別執行官になった。 そしたら今度はクラウディアスの重鎮であるという立場からディスタード帝国を動かしつつ、 今度はクラウディアスがディスタードマウナ軍と本土軍とを殲滅させることで、 どの国もクラウディアス様様っていうムードになって、イイ感じになったわね。」
 それこそが”ネームレス”の行動による結果であり、恐るべきものとも言えるのである―― いや、策については難解な思考回路を持つリリアリスとリファリウス独自のものだと思うのだが。
 リリアリスはさらに話を続けた。
「で、気にするべきはそんな”ネームレス”がこの世界のどこにどのぐらいのいるのかってことね。 ここだけ見てもまたずいぶんと多くなったわねって感想だけど、 私の知る限りでは”フェニックシアの孤児”と他を含めると――結構いることになりそうね。」
 そう、同じような脅威の能力者がいるのだが、それはリリアリス自身が把握しているだけでも結構な数である。 そうなるとさらに問題が浮上してくる。
「リリアさんはもちろん我々が把握してらっしゃるだけでも結構な数なのに、 それ以外もいる場合はもっとということにもなりそうですか――」
 と、シャナンは言った、まさにそれこそが問題なのである。
「そうなるとエンブリア全土を巻き込むような戦争になった場合、 最悪の場合はすべての国が滅ぶことにもなりかねないのよ――」
 と、リリアリスは悩みながら言った。 確かにリリアリスやアリエーラが放ったような精霊魔法などというものが他にも使えるものがいるのであれば、 間違いなく世界全土を巻き込むような戦いになるのは間違いなさそうである。
 となると、ここで対策として急がれることが1つ浮かんでくるのである、 各地に”ネームレス”がどのぐらい存在しているのか、それの把握である。 無論、簡単なことではないことはわかっているのだが、 彼らの性質的にも野放しにしておくわけにもいかないだろう。

 だが、敵が”ネームレス”のケースについては既に問題が発生していた。 というより、今回の集まりはもともとそのための集まりである。
「ガリアスですか――」
 アリエーラはそう言うとリリアリスは頷いた。
「ディスタード内でも既に話したんだけど、エダルニウス軍のトップであるそいつが今一番気にしなければならないことなのよ。 先にディスタード内で話した理由としては単純明快、 エダルニウスは元々ディスタードが追っていた国で情報をいくつか持っていたから。 元々はエダルニア軍という連中がいて、 ディスタードに対抗するためにルシルメア東部からヘルメイズに向けて侵略していたんだけど、 それについてはプリシラも知っての通り、その作戦はものの見事に潰れたわね。」
 プリシラは頷いた、彼女らが潰した例の作戦である。
「でも、その司令官が実はガリアスなのですか?」
 プリシラは訊くとリリアリスは説明を続けた。
「実はそれがどうも違くって、 あの時にディスタードを侵略しようとしたのはエダルニアの旧重鎮軍で、その時の司令の名はドービス。 でも、あの作戦でドービスは侵略作戦失敗と共に旧重鎮軍を一度に失ったことで失脚したの。 それで代わりに出てきたのがガリアスだったんだけど、そいつに関しては全く情報がなかったのよ。」
 それに対してシャアードが言った。
「でも、ガリアスってのはまず間違いなく”ネームレス”ってやつで、 あいつは同じく”ネームレス”として右も左もわからない俺らを傭兵として雇い、隣国のバルナルドを襲撃させたんだ」
 だが、それについてはリファリウスらによって辛くも失敗。 結果、バルナルドを襲撃した”ネームレス”7人のうち4人は戦死、 残りのハイドラとシャアードとイツキはリファリウスやリリアリスの提案を受けてここにいるというわけだそうだ。
「じゃあ、そのガリアスの情報って何かわかるのか?」
 ヴァドスはそう訊くとハイドラは答えた。
「ヤツについては誰もわからない。 そもそも、私らはその7人とガリアスとは似たような境遇同士だということ以外は何も知らず、 そもそもガリアスから襲撃の依頼を受けたとき以外はほぼ接点がない。 ただ……あいつの性格は排他的なやつで、自分以外は信用しないと言わんばかりにスキがないように思えた。 あの時は私もヤツを頼るほかなかったから話に応じることにしたが、 今となってはあまり関わり合いになりたいと思えるようなヤツではないな」
 それぐらいガリアスのことはわからないということだそうだ。
「でも、この話はサミットに出してもいいのでしょうか……?」
 アリエーラはそう言うとリリアリスは首を振った。
「いいえ、エダルニウス軍の件についてはひとまず置いときましょう。 あまりにインパクトが大きすぎるし、それにまだわからないことが多いから、 ここは一旦保留にしましょう。」
 次期に予定されている議題としては一旦見合わせということになった。