オリエンネストはクラウディアスを満喫していたが、女性陣からはいつも揶揄われているような気がしてならなかった。
逆に男性陣からはそんな話一切出てこず、むしろアーシェリスからはリファリウスからの待遇がよいということで怪しまれ、
それ以外の一部からはイールアーズを打ち破った英雄として讃えられているほどである。
「お兄ちゃん」
と、カスミが隣にきてそう呼んでくると、オリエンネストはびっくりしていた。
「お義兄ちゃんなんてド直球すぎる、ソフトにお兄ちゃんにしとく」
いや、そういうことじゃなくて……そもそもびっくりしたんだが、オリエンネストはそう思った。
場所はお城の6階にある見張り塔の上、下手したら下界に真っ逆さまな場所にいた、幸い手すりがあるので落ちることはなかったが。
「あっ、あの――その――用はそれだけ?」
オリエンネストは聞くとカスミは言った。
「リリアお姉ちゃん5階のあそこにいる。お兄ちゃんのこと言ってた」
5階のあそことは――カスミが指さした先はその場所から少々陰に隠れてはいるものの、5階のいつものテラスのことで間違いなさそうである。
オリエンネストは少々恥ずかしそうにテラスへとやってきた。
「あら、オリ君じゃん、どーしたの?」
リリアリスがそう言うとオリエンネストは恥ずかしそうに答えた。
「えっ、あの――僕を呼んでるって聞いたものだから――」
「呼んでるって私が?」
リリアリスは不思議そうにそう訊いてくるとオリエンネストは困惑した、だってカスミさんが――
「私、”呼んでた”言っていない、”言ってた”言っただけ」
そういえば! オリエンネストははっとしていた。
「お姉ちゃんのこと好きだからって勘違いしすぎ」
カスミはニヤッとしながらそう言うと、オリエンネストは顔を真っ赤にしていた。
しかし、リリアリスは得意げな表情で話を始めていた。
「そうそう、オリ君、ちょうどいいところに来てくれたわね!」
リリアリスにそう言われるとオリエンネストは態度が変わり、キョトンとしていた。
「オリ君の能力を見込んでお願いがあるんだけどいいかな?」
翌日、オリエンネストはアクアレアへと出向いていた。
その際のオリエンネストと言えば、肩に槍のようなものを背負っていた。
「まったく、大変だよなオリエンネスト。
昨日のこと聞いたぞ、リリアさんからいきなり農業大臣任せるって言われたんだよな」
と、ティレックスが言った。そんなティレックスは鍬を担いでいた。
だがしかし――オリエンネストはそんなティレックスの心配とは裏腹に、
ものすごいやる気を見せていた。
「ティレックス君! 作物は一日にして成らずだよ!
こんなところで躓いていたらクラウディアス国民の食糧は確保できないんだから頑張らないと!」
オリエンネストが持っている槍のようなものは鋤だった。
「んだよお前、やる気満々かよ」
同じく、鍬を持っていたイールアーズは不機嫌気味にそう言った。
「そうなんだよ、何故か知らんけど、こいつ、二つ返事で請け負ってたぞ」
その時の光景を見ていたらしいアーシェリスは呆れながらそう言った。
「機械あるじゃねえか、それでなんとかできないのかよ?
第一、なんで俺がこんなこと――」
イールアーズはもんくを言うと、オリエンネストは答えた。
「機械でもやれなくもないけれども、
ここは既存の機械を入れるには地形の条件が悪いから自動化するよりも手作業で耕していくのが効率的だよ。
ちなみに、ウィンゲイルの裏手も段々畑にするつもりだから、
そこも残念だけど手でやっていくからよろしくね」
そんなのやってられっか! 何人かはそう言うとオリエンネストは言った。
「別に1人で全部やる必要はないよ、手分けしてやればあっという間だ。
とにかく、僕は柔らかい土だけひっくり返していくから、キミらは固いところを狙ってやってくれればいい」
なんだか無茶苦茶な計画のようだが、オリエンネストには秘策があった。それについて聞くと――
「言うよりも実際に見ていた方が早いね、きっと。じゃあ早速行くよ、見てな――」
するとオリエンネストは鋤を左手に持ち直し、さらに腰を落として構えていた。すると――
「必殺――”グラウンド・ターン・オーバー”!」
その時! オリエンネストはものすごいスピードで高速回転、
そして、彼が通った道筋はすべて地面がひっくり返されていった!
「何っ!?」
イールアーズはその様に驚いていた。
「うおおおおおおお!」
オリエンネストの勢いは止まらない。
「マジか! ただ単に高速回転しているだけでなく、本当にガッツリと耕されている!」
アーシェリスは驚いていた。だが――ティレックスは気が付いた。
「あれ、あそこは耕されてないな、なるほど、大きな石があって諦めた跡があるな。
つまりはそこで俺らの出番ということか」
ティレックスは冷静にそう言うと、アーシェリスは唖然としていた。
「こんなことでも技があるのか――」
「耕すのに鍬でなくて鋤を持っていたのもこの技を使うことを見越してのことだったのか!
くそっ、ヤツに負けるわけにはいかん!」
イールアーズに至ってはむしろやる気に火が付いていた。