そして、最後は横庭にたまたま通りかかったリファリウスが相手だった。
「オリ君と戦えるだなんて光栄だね! でも、私なんかが勝てるかな?」
リファリウスはなんだか楽しそうにそう言った。それを見ながらアーシェリスはやはり怪しんでいた。
「やっぱりオリに対する扱いだけ違う気がする」
「まあまあまあ、とにかく見てみようぜ!」
ティレックスはむしろワクワクしていた、もはや頂上決戦みたいなその状況に興奮していた。
しかもギャラリーが先ほどよりも多く、あのアリエーラまでもが見ていた。
「リファリウスさーん! オリエンネストさーん! 頑張ってくださーい!」
それに続いて他の黄色い声援が。
「リファ様ー♪ 頑張ってー♪」
……当然、アーシェリスの癇に障るその光景。
「オリエンネスト! そいつを全力で叩きのめせ!」
アーシェリスがそう叫ぶと一部の男性陣もそれをひそかに期待していた。
その異様な熱気に対してオリエンネストは冷や汗をかいていた。
「えっ、どっ、どういうことなんだよ――」
「まあ、いろいろとあってね、勘弁してもらいたいもんだ。」
リファリウスは得意げかつ呆れ気味にそう言った。
リファリウスとオリエンネストは互いに果敢に攻撃を切り出していた。
リファリウスが仕掛けるとオリエンネストはそれをかわし、
一方のオリエンネストのほうも果敢に技を繰り出すが、リファリウスは華麗に翻弄していた。
「くそっ! 何やってるんだオリエンネスト! しっかりと当てろ!」
アーシェリスの熱量はフルスロットルだがティレックスは冷静だった。
「アーシェリス、残念だけど彼の能力では勝てそうにないぞ。
オリエンネストは割と必至のようだがリファリウスは全然余裕な感じだ。
これはそのうち決着がつきそうだな――」
そっ、そんな――アーシェリスは少しがっかりしていた。
だけど、そんな余裕を”かまして”いるリファリウス、
油断しているのならそこに付け込んでやってしまえと期待するアーシェリスは諦めていなかった。
するとクラフォードの考察が――
「これは、どうやら決着がつきそうにない感じだな」
えっ、なんでだろうか、ティレックスが訊き返すと、ディスティアが答えた。
「クラフォードさんもそう思いますか。
なんていうか、お互いに決着をつける気がないように見えます。
確かにティレックスさんもおっしゃる通り、
能力としてはリファリウスさんのほうがオリエンネストさんよりも上なのは間違いなさそうですが、
手加減しているのはオリエンネストさんも一緒のようですね」
なんだって!? ティレックスとアーシェリスは驚いていた。
さらにクラフォードが話を続けた。
「なんていうか、全力を出したくない感じだ。
リファリウスについてはこれまでもそうだったけど、
今回の手加減についてはこれまでにないぐらいの不自然さが目立つ。
そこでやれば終わりだってところで何故か追撃しないし――今だってほら、
そこでとどめを刺してしまえば――ほら、やっぱりしない。
何故かわざと躊躇っている、どういうことだ?」
ディスティアも話をした。
「オリエンネストさんもそうです、
確かにリファリウスさんは躊躇うぐらい手加減しています、それで隙を作っているわけですが、
そんな絶好のチャンスのタイミングであってもオリエンネストさんはあえてそこを狙うことはしていません。
ちょっと不思議な感じなんですよね――」
するとリファリウスは動きを止めた。
「ふう、やっぱりオリ君は強敵だね、敵わないな――」
リファリウスは汗をぬぐってそう言った。一方のオリエンネストは息を切らし気味に言った。
「リファリウス君こそ――。もう疲れた、この勝負、僕の負けでいいよもう――」
しかしリファリウスは――
「いや、私のほうこそ、これ以上キミと戦うのは得策ではない。だからもう降参だ。」
そんな結果により周囲はどよめいていた。するとアリエーラが。
「だったら、引き分けってことでいいのではないですか?
2人ともよく頑張りましたから、それでいいと思いますよ?」
すると2人はお互いに面と向かって話をし始めた。
「わかった、アリエーラさんの言う通り、そうしようか。
ありがとう! いい運動になったよ、オリエンネスト君!」
「僕のほうこそ! ありがとう、リファリウス君! 今後もよろしくね!」
「うん、こちらこそよろしく! またいろいろと頼むこともあるかもしれないけれども、よろしくね!」
「いやいや、こちらこそだよ!」
と、互いに手を取り合う結果となったのだが、
男性陣の何人か、特にアーシェリスに至っては納得のいかない結末となったのである。
「ったく、リファリウスの野郎なんか叩きのめしてしまえばいいのに!」
「まあまあまあ。にしてもあのオリエンネストってやつ、なんだかわけありそうだな。
単にリファリウスが意味なく手を抜いているというにしては妙な感じだしな――」
クラフォードは考えながらそう言った。
横庭での戦いというか騒動というか、
それが終わって朝食を済ませたオリエンネストはアリエーラに呼び出された。
いや、呼び出されたというより一緒にお話しどうですかと促されたため、
特段断る理由のない彼はそれに応じることにしたのである。
そして、話をすべくお城の5階のテラスへとやってきた。
テラスには色とりどりの花が咲いているレンガの花壇があり、なんだか神秘的な装いだった。
そこは”秘密の花園”と呼ばれる場所であり、オリエンネストはまさに不思議の魔法にかかったかのようだった。
「いろいろとバタバタしておりまして、お話しできるのが遅くなりましてすみません――」
アリエーラは申し訳なさそうに頭を下げつつそう言うと、オリエンネストは焦っていた。
「べっ、別にそんな! 僕はただの居候ですから、
アリエーラさんさえお時間があるのなら僕はいつだって構わないですよ!」
するとアリエーラは頭を上げ、にっこりとしながら言った。
「やっぱりオリエンネストさんは優しい人ですね! お気遣いいただいてありがとうございます!」
いや、別にそういうわけでは――オリエンネストは謙遜していた。