翌日――オリエンネストはクラウディアスのお城を歩き回っていた。
恥ずかしながら、確かにリリアさんは意中の女性ではある……のだが、
カスミに弱みを握られたみたいで――オリエンネストは不安でしかなかった。
とにかく再び横庭に、カスミの元へ行ってなんらかの弁明でもしようかな、そう思いながら横庭へと歩いていた。
すると、その横庭から木刀と何かがぶつかり合う激しい音が。
「あれはティレックス君とアーシェリス君? それと――」
それとスレアが戦っている光景だった。そしてその相手は――
「ふああっ、眠い――」
口に手を当てて大欠伸をしている女性の姿があった。
彼女の髪の色は金髪でところどころに真っ赤な色が混ざっている――彼女がそのフィリスか。
「まだやんの?」
彼女はアームガードをはめて腕を保護しているぐらいで、武器は基本的にまさかの素手だった。
「まだまだだ!」
ティレックスは果敢にフィリスに立ち向かった! しかし――
「おっそい」
フィリスはすぐさまティレックスの横脇へと動き、勢いよく蹴り飛ばした。
「あんたも遅いよ、出直して来な」
さらに続いてスレアが攻撃を放つも、左腕のアームガードでしっかりと受け止められ、
思いっきり右の膝でみぞおちを喰らった!
「あんたもちゃんと動きが見えてるから」
さらに背後から攻撃しようと回ったはずのアーシェリスもフィリスの後ろ蹴りを喰らってダウンした。
「さてと、時間切れってところね。そろそろご飯でも――」
すると、フィリスはオリエンネストの存在に気が付いた。
「あれ、あんた――リリアが連れてきたっていう”ネームレス”よね?」
そう言うとカスミがひょっこりと現れ、オリエンネストのことをじっと見つめていた。
オリエンネストはフィリスの問いに答えた。
「えっ? ええ、まあ、はい、そう……みたいです――」
オリエンネストは少し照れながら答えた。
「何っ、オリエンネストさんって”ネームレス”だったんですか!?」
ラシルは驚き気味にそう言うと、スレアが答えた。
「少なくとも”ネームレス”の特徴には一致しているみたいだしな」
するとフィリス、提案を持ちかけた。
「そっか、なるほどね。
だったら今後に備えてちょっとあんたの力を試してみたいんだけどいいかな?」
オリエンネストは困惑していた。
オリエンネストはため息をつきつつ、木刀を下に向けて構えていた。
でも、どういうわけだろうか、その木刀は妙にオリエンネストの手になじむようだった。
そしてその対戦相手はスレア、彼に勝てるだろうか。
「”ネームレス”語るうえでまずはここの騎士副団長にしてクラウディアス騎士団最強の男に勝てないことには話になんないからね」
フィリスはそう言うとオリエンネストは訊いた。
「騎士団長が最強じゃないの?」
それに対してスレアが意地が悪そうに答えた。
「あいつの強さは戦いの能力でなくて次期国王候補であるところだけだ」
そう言われたラシル、同席していた彼は慌てて否定した。しかしそれは無視され――
「さてと、それじゃあ準備はいいか?」
スレアはそう言うとオリエンネストは頷いた。
スレアはオリエンネストに猛攻を仕掛け、そのまま攻撃を続けていた。
「どうした! それが”ネームレス”の力か!」
オリエンネストは防戦一方だった。さて、この猛攻からどうやって攻めに転じるか――
「これで終わりだ!」
スレアは隙をついてオリエンネストに向かって振りかぶった! だが――
「よっと!」
オリエンネストはスライディングで華麗にスレアの技をかわし、そのまま背後に回っていた。
「何!? この体勢でそんなことを!?」
スレアはとっさに振り向いた、しかし――
「これでも喰らえ!」
オリエンネストはスレアを上空に突き上げるとその場で跳び上がり、
そのまま下方に向けて衝撃波と共にスレアを叩きつけた!
「ぐはぁっ!」
オリエンネストは地に降りるとスレアの身は地面に思いっきりたたきつけられた!
「しまった! ちょっとやりすぎちゃったかな!?」
オリエンネストはスレアに素早く寄り添った、彼は虫の息だった。すると――
「ちょっと待ってて、”ヒール・ハイ・ライト”!」
オリエンネストはスレアの傷を回復させた! だが、その魔法それを見ていたティレックスは――
「嘘だろ!? 聖属性の上位回復魔法!? 剣術も魔法も達者というわけか――」
受けた側のスレアも驚いていた。
「風属性や水属性の上位回復魔法を操るリリアさんやアリエーラさんとかも大概だが、コイツもなのか――」
フィリスは頷いた。
「”ネームレス”かどうかはともかく、少なくともそれなりの能力者であることだけは間違いなさそうね――」
こんなんではティレックスも歯が立たないことは目に見えていたため、また次の相手が呼び出された。
普通なら呼び出されない相手がその場に呼び出されたのである。
「んだよ、なんでこの俺が稽古とやらに付き合わなければいけないんだ?
だいたい、スレアが負けたっつっても、俺に言わせればやつは弱いからな、負けたって仕方がないだろ?」
イールアーズだった。
彼や一部のシェトランドについてはグレート・グランドからの特使としてクラウディアスに滞在することになったのだが、
彼もその一部である。
とはいえ、イールアーズについてはほとんど厄介払いみたいな面もあるのだが、
今や脅威と言えばセラフィック・ランド消滅時の魔物飛来問題があるため、
そのために出向させられているのが実際のところである。
話を戻そう。
「ったく! で、つまりはこいつを倒せばいいんだろ?」
イールアーズはオリエンネストに向かって面倒そうにそう言った。
満場一致によるアドバイスにより、イールアーズの時には一切容赦をしなかったオリエンネスト。
出鼻をくじくため、その場で勢いよく剣を振りかざしてその際に発生したエネルギー波でイールアーズを圧倒すると、
次の瞬間、オリエンネストはイールアーズの背後に回っており、全身全霊を込めて勢いよく薙ぎ払った!
イールアーズは全力でその攻撃をよけると、オリエンネストは立て続けにその場で跳び上がりながらイールアーズを上空につきあげ――
要するに、スレアの時と同様、最後に地面に思いっきりたたきつけたのである。
「だ、大丈夫!?」
オリエンネストはまた焦っていたが、彼についてはディスティアがオリエンネストの肩を叩いて遮った。
「彼なら大丈夫だよ、そう簡単には死なないからね。
あれで死んでいるのなら既に死んでいるハズだし――まあとにかく、キミの腕は本物のようだね、
”鬼人の剣”と呼ばれた彼をあんなふうに打ちのめしてしまうのだから、恐れ入ったよ」
すると、ディスティアは簡単な回復魔法をかけつつイールアーズを蹴飛ばした、
どこかの誰かさんに似ている――
「ほら、いつまで寝ているんだ、いい加減迷惑だろう?」
「うっ、うるせえな! ちょっと転んだだけだろうが!
ちっ、今回の戦い預けておくからな! まだ負けたわけじゃねえからな!」
そう言いながらイールアーズは身を引きずりながらその場を移動していた。
「まだ負けたわけじゃねえったって――しっかり負けてんだけど」
「まあ、イールアーズのことだからな――」
フィリスとクラフォードは頭を抱えながらそう言った。
「クラフォード、戦う?」
カスミがそう訊くとクラフォードはオリエンネストを見ながらいった。
「俺はパスだ、戦闘狂イールが無様に負けている様が見られればそれで十分。
イール! 今の戦いすごいよかったぞ!」
イールアーズに対する皮肉、イールアーズは一言「黙れ!」と言って怒っていた。