オリエンネストがクラウディアスに来てから数か日が経った頃の話だった。
「オリ君いるかな?」
そいつはリファリウス、リリアリスの弟分であるそいつは、
オリエンネストの目から見ても、血縁を思わせる風貌だった、どことなく似ているというのである。
お城の横庭でくつろいでいたオリエンネストはリファリウスの問いに返事をした。
「あっ、いたいた♪ オリ君、”ディグラット・デオード”のことなんだけど――」
オリエンネストはリファリウスに頼まれごとをしていて、
”ディグラット・デオード”と呼ばれる草について調べていたのである。
「うん、リファリウス君、確かに、ご所望の効果が含まれているのは確実らしいね。
キミの見立ては正しいみたいだよ」
だが、オリエンネストはその草の効能からして、なんだか嫌な予感がしていた。
「リファリウス君、どういうことなのかわからないけれども、くれぐれも無茶しないようにね!」
そう言われたリファリウス、去り際に答えた。
「そうだね、オリ君。オリ君が言うとおり気を付けるよ! じゃあね!」
その様子を陰から見ている者がいた。
「あいつ、オリに対しては扱いが別だよな。
リリアさんの知り合いってそういう補正が付くものなのか?」
そいつはアーセナス――いや、アーシェリスだった。
それに対してティレックスは苦笑いしていた、
まあ、確かに、アーシェリスにとっては特にそういう感じかもしれないけれども、
ティレックスはそう思った。
「なあお前、一体どうやってヤツに取り入ったんだ?」
リファリウスとのやり取りの直後、アーシェリス達はオリエンネストのところへやってくると、
アーシェリスはつっけんどんにそう訊ねた。
オリエンネストは意味が分からず、首をかしげていると、
ティレックスが呆れ気味に「気にしなくていい」と言ってフォローした。
「それより、何を調べていたんだ?」
ティレックスとしてはそっちが気になっていたようだ。オリエンネストは答えた。
「あっ、うん、”ディグラット・デオード”っていう草のことを調べていたんだよ。
ディグラット・デオードはラベンダー科の一種だけど、
ラベンダーのようないい香りはあまりなく、まあ微香性といったところかな」
しかし、リファリウスの調査リクエストはその匂いではなく、草そのものもだった。
「ディグラット・デオードが薬になるって聞いたことがないな。
それこそ、ディグラット・デオードってむしろ毒草っていうイメージだけど――」
ティレックスはそう言うと、オリエンネストは頷いた。
「確かに、毒性も認められるね。
でも、致死量に相当する量を採取するのは結構難しいと思うね」
そう言われてアーシェリスは首をかしげていた。
「だったら何故リファリウスのやつはこの草を?」
それに対してオリエンネストは口をつぐんだ、いきなりどうしたのか、アーシェリスは改めて訊いた。
「あ、いや、それがこの毒成分とは別に薬用成分が認められたんだよ。
具体的にはもう少し調べておく必要がありそうだけど、でもなんとなく気になるんだよね――」
どういうことだろうか、しかしオリエンネストにはこれ以上の解が出なかった。
「なんだったかな――」
それに対してアーシェリスはどういうことなのかティレックスに訊いたが彼にもさっぱりだった。
ただ――
「そうだな、どうしても知りたいのならリファリウスがその草で何がやりたいのか教えてもらえばいいんじゃないかな」
と、ティレックスは少々意地悪そうに言った、確かに、
それが一番手っ取り早そうだが――アーシェリス的にはやはり抵抗があった。
「だけどさ、お前、なんでそんなこと、リファリウスに頼まれてたんだ?」
そういえば、そもそも論としてなんでオリエンネストはそういうのに詳しいのだろうか、
聞いたのだが、オリエンネスト自身もあまりよくわかっていなかった。
確かなことは、ルーティスで学んでいるときには夏休みの自由研究のレポートの内容が、
生物学・農学・薬学の研究者の間で評判なことぐらいである。
そしてオリエンネストはお城の1階の横庭へと出てきた。
「やあ」
そこには和装のしっかりと落ち着いたような風貌で、
まるで座敷童のような小さな女の子がベンチの上にちょこんと可愛らしく座り込んでおり、
オリエンネストに対してそう話しかけてきた、彼女はカスミである。
その周りにはラシルやスレアをはじめとするクラウディアスの騎士たちが。
「や、やあ……いつもここにいるんだね――」
カスミは頷いた。
「こいつらたるんでる。私、喝を入れる役。
そうでもなければ私、5階いる、お姉ちゃんと一緒に何かしてる」
だが――オリエンネストは彼女のことをじっと見つめていた。
それに気が付いたカスミが少々得意げな面持ちで言った。
「誘拐は重罪」
そう言われたオリエンネストはすぐさま首を振っていた。
「ちっ、違うよ! そんなつもりはないから!
ただ、その、似ているなぁってさ……」
オリエンネストがクラウディアスに来たばかりの頃、
ラシルにお城の中を案内されていると、そのうちお城の1階の横庭へと出てきた。
「順番が逆になっちゃったけど、ここが大体みんなが集まっているところだよ。
もしくは、さっき案内した5階のテラスだね、あっちには大体女性陣が集まっているよ。
こっちに集まっているのはお城の騎士兵士たちとか、もしくは男性陣とかだね、リファリウスさんは女性陣のほうに混じっているけど。
だからリリアさんリファリウスさん、それからアリエーラさんとか、特別執行官に会いたければ5階のテラスに行くといいよ」
順番が逆とは……最初は1階から案内されたのだが、一通り5階6階まで案内されてから再び1階のここに来たということである。
すると……オリエンネストはその横庭の光景を見て訊いた。そこには何人かが木刀などをもって素振りをしていた。
そしてその奥にもう一つ建物が見えた。
「あの建物は何ですか?」
ラシルは答えた。
「あれは一応騎士兵士たちの修練場として置いてあるものだよ。
今じゃあもっぱら訓練中の休憩部屋か、もしくはカスミさんの修行場みたいな感じになっているけど――」
カスミさん? オリエンネストは訊いた。
「ああ、彼女のことだよ、ほら……」
ラシルは促すと、そこには小さな女の子が1人、修練場の真ん中で座禅を組んで瞑想していた。
へえ、この小さな女の子はソード・マスターなのか……オリエンネストはそんな説明をしてもらいながら彼女の様子を見ていると、
そのうち、カスミが2人の様子に気が付き、こちらを見た。すると――
「はっ!?」
オリエンネストは非常に驚いていた、なんとそこには自分の夢の中に出てきたあの女の子が!
「オリエンネストさん? どうかしましたか?」
そう言われて我に返ったオリエンネスト、焦ったような態度で「何でもないです」と言ってとりあえず繕っていた。
そして、そのまま慌てたような態度でありがとうと言い、その場から足早に去って行った。
「どうしたんだろう、オリエンネストさん……」
心配しているラシルのところにカスミがやってくると、彼女は言った。
「ラシル、新人虐め良くない」
「そっ、そんなことしてませんよ!」
ラシルは焦って言い返した。
そして、オリエンネストは彼女を前にして言った。
「いや、だからつまりその――カスミさんってリリアさんにすごい似ているなって思ってさ――」
しかし、そう言われてカスミはなんだかとても嬉しそうだった。
「お姉ちゃんに似てる、すごく嬉しい。
私の実の姉オウカ、リリアお姉ちゃん、オウカお姉ちゃんによく似てる。
だからとっても嬉しい」
なるほど、そうなのか……オリエンネストは考えると、カスミはニヤッとしていた。
「つまりオリエンネスト、リリアお姉ちゃんのこと好き。
私、お姉ちゃんの幼い頃似ている可能性ある。
私に見惚れている、つまり幼い頃から知っているお姉ちゃんのこと大好き」
そう言われてオリエンネストは顔を真っ赤にして焦っていた。
そんな様子にカスミも少々驚いていた、図星かよっていう感じで……。
「……今度からお義兄ちゃんって呼ぶ」
ちょっ、ちょっと待って! オリエンネストは焦っていたが彼女は気にする様子もなく、奥の建物の中へとそそくさと去って行った。
「いや、あのさ、えっと――」
オリエンネストは顔を真っ赤にしながらしどろもどろの状態だった。