リリアリスはアリエーラの話を続けた、いや、彼女の話を続けるつもりでそう促したのである。
「よく、魔法を純粋に魔法として繰り出す技法と、
魔法”剣”として繰り出す技法の違いについて論争されることがあるんだけど、
今回の質問は――講義をするたびにだんだん減ってきているわね、2%ってどーゆーことよ。
次回は0%? そしたらどーやって話題を切り出したらいいのよ?」
会場は再び笑いに包まれていた。リリアリスは該当する質問を出していた。
「リリアさんは魔法剣の繰り出し方についてどのように考えているのか、
リリアさんは魔法剣というものをどのようにとらえているのか、
デモで使用した魔法剣は、むしろ魔法として繰り出しているように見えますがどうでしょうか。
といった感じのものが毎年鉄板の質問なんだけど――今回も同じ質問があるようだけどどう見てもテンプレね、テンプレでも少し安心したわ。」
テンプレ……やはり、笑うしかなさそうだ。
魔法剣についてはいろんな形態や繰り出し方が考えられている。
ダイレクトやエンチャントといった基本的な技術からスプレッドやアドバンストといった応用技術、
さらにそこから発展したディストラクションなどと、実に多彩な技術がある。
そしてそもそも魔法剣という名前なのにパワーソースがそもそも魔法でないとか得物が剣でないとか、
そういう話にもなりつつある、それについては彼女が面白くまとめていた。
「そんなの大した問題じゃあないわよ、答えは使う人の意思、これに尽きるからね。」
そう言うと本当にごく一部の人は驚いていた。
不思議なことにオリエンネストはあまり疑問にも思っていなかった。
「何故かというと、例えばこういう魔法剣があるわけよ。」
リリアリスは二振りの小剣を取り出すとその技をやって見せた、その技は――スレアが反応していた……てか、それ、魔法剣じゃねえ、と。
それは何故か?
「ほら、アシスタント! ぼさっとしてないできちんと受けなさいな!」
はぁ!? スレアはいきなりのことで驚いていた。
するとリリアリス、二刀の小剣をそれぞれの手でくるくるっと回して構えなおすと、そのままスレアに襲い掛かった!
「まっ、マジかよ!」
リリアリスはスレアに対して真正面から攻撃を繰り出していた。
だが、彼女の刃はとてつもなく重たい――純粋に二振りの小剣が襲ってくるというだけでなく、
なんらかの力がそれに追撃するかの如くスレアに襲い掛かっており、それが無茶苦茶重たかった――。
「ちょっ……何か違くないか……!?」
そして、最後に勢いよく振り切ると、すべての重圧がスレアに襲い掛かるかの如く、彼をそのまま――
「ぐあっ……」
スレアは文字通り倒された。そして、リリアリスは二刀の小剣を再びそれぞれん手でくるくるっと回すとそれはどこかへと消えていった。
「まあ、こんな感じ。
彼もちらっと言っていたように元の技は魔法剣ではないけれどもそれを魔法剣で模倣してアレンジさせてもらったわ。
そういうこともできるわけだけど、
魔法剣外の技の模倣とか言っている段階で単に魔法と呼べるものなのかどうかもなかなか線引きできないでしょ?」
まさにそういう印象である。
しかし、今のは魔法剣による繰り出し方を応用したものだそうで、
ということはもちろん分類的には魔法剣と言えるのだろう。だけど――
「それに、私のように自己流で魔法剣技を考えている人にとっては、特に線引きが難しいと思うのよ、
そもそも魔法を繰り出している、というわけでもない技も多いからね。」
リリアリスは今の話のまとめとして、モニターにスライドを映し出した。
それ自身には大したは話はなかったが、リリアリスはこういって話を一旦締めようとしていた。
「ちなみに、”魔法剣という技術が考えられたのはつい最近”と表現されるけれども、
まあ、魔法の技や剣の技に比べ、比較的新しめの技という意味なのよ。」
しかし、リリアリスは思い出し気味に少しだけ話を続けた。
「ああそうそう、ところで今の技の事なんだけど、
アシスタントの彼にこの技をかけてあげるとすごく喜ぶからこの技を選択させてもらったわ。ね、アシスタント君♪」
「んなわけあるか! てか大体、アレンジが過ぎるだろ!
よりによってなんで重力系の魔法を使うんだ! おかしいだろ!」
「そうかしら? いつもそうやってイチャイチャしているじゃないノ♪」
スレアは舌打ちし、とにかくイライラしていた。
さらに話が続いていく。
「アリの話から脱線しちゃってごめんね、アリ。」
また笑いが。謝る対象が違うだろうがと言いたいところだが、
その気持ちはわからなくもなかったオリエンネストだった。
「魔法剣を使う技術についてはそういうことにしておいて。
そして、昔との違いについてはみなさんもご存じのとおり魔法”剣”なのに使用可能武器が剣だけに限定されていないというのがあるわね。
それに逆に使われている技術のほうがそもそも魔法でないとか。
もう、こうなると”魔法”・”何”なのか”何”・”剣”なのかとか、
そもそも”何”・”何”よって話になってキリがないわね。」
出た。これがオリエンネストをはじめとする大多数のツボを直撃する説明である、あの仏頂面でさえ例外ではない。
確かに何・何だよって。会場の笑いは絶えることはなかった。
「ということで面倒だから便宜上は”魔法剣”という名前で通っているというのが実際のところなのよね。」
そして、いよいよアリエーラの話へと戻っていった。
「そこで再び魔法剣のパワーソースを原点に返り、魔法で行使するという観点で話をするわけだけど。
アリといえば、ここにいる一部の人も知ってのとおり――」
リリアリスは、今度は学園にあるアリエーラのデータをモニターに出した。
それはオリエンネストが図書館のデータベースから閲覧したもののようである。
「これはいつの写真? いつ撮っても美しさは衰えないわね。」
会場の笑いは相変わらず絶えない。でも、アリエーラなら世界遺産に認定されてもおかしくないかもしれない。
「アリの美しさに見惚れる気持ちはよくわかるけれどもここは一旦こらえてもらって、
真に見惚れてほしいのはここに書いてある通り、召喚魔法の使い手だってところよ。
美しさだけでなく、かつてこの学校で教鞭をとっていた”召喚名手”様も一目を置く通りのものすごい使い手なのよね。」
”召喚名手ナキル”といえば体調を崩しているというあの人か、
オリエンネストは見たことないが、確かにアリエーラの能力を高く買っているようだ。
”召喚名手ナキル”ほどの通り名持ちが一目置くような能力――そう考えるとなんだかすごいものを感じる。
「で、話はものすごく単純な話なんだけど、
魔法剣と呼ばれながらいまだかつて召喚魔法で魔法剣を実行したという事例が存在していないのよね。
私の見落としかもしれないけれども、調べた限りでは全く見当たらなかったわね。」
召喚魔法で魔法剣、つまりは”召喚魔法剣”というその能力、
なかなか難儀なことだけれどもリリアリスならできそうだとオリエンネストは思っていた。
そして、早速彼女はそれをやって見せた。
「まあ、ざっとこんなもんかな。」
得物から湯気みたいな感じで何かが出ていた。見た目は残念なぐらいしょぼいが――
「要はあれだね、幻獣といっても精神エネルギーの塊みたいな状態で出てくるわけよ。
だから、その状態のまま武器に宿す……というイメージだけの問題なのよね。とまあ、口で説明すればこんな感じ。
実際、召喚魔法の使い手であれば、幻獣呼び出せるからそのイメージ、
魔法剣の使い手であれば、魔法剣が使えるわけだからそのイメージ、
ただそれをミックスしただけというイメージなわけよ。」
口で説明すればイメージはそのままだけど、
召喚魔法も魔法剣もどちらも高度な使い手を要する技術であることから口で言うほど簡単なものではなさそうである。
「ここで本気出して幻獣を呼んでやっちゃったらこの建物ごと吹っ飛んでしまうかもしれないからデモンストレーションはこれで勘弁してね。
デモ不可な代わりに資料映像で。」
見た目がしょぼいのはそういった理由であえて抑えていることの表れだった。
だが、それを見越してか、ちゃんと資料映像を用意している当たり、しっかりしているところはしっかりしていた。
そのあたりもオリエンネストの抱いている彼女のイメージとしても一致していた、
もはや80%というか、100%あのリリアリスと間違いないと思った、
要するに、オリエンネストの中で認識している彼女の存在はその頃からほぼ変わっていないということでもある。
そう思うとオリエンネストはとても嬉しかった。
「そうそう、いつも参加してくれている人には申し訳ないけど、時間が取れなくてずいぶん前から同じ作品しか用意できていないけれども勘弁してね♪」
作品ってどういうことだろうか、そう思ったオリエンネストだが彼はむしろ期待に胸を膨らませていた。
それとは裏腹に、仏頂面のアシスタントは頭を抱えていた。