ある日、オリエンネストはクラネシアと一緒に校内を散歩していた。
その日は休暇、元々やることがないというのにそれに輪をかけてやることがないのである。
だが、クラネシアが見せたいものがあるということで、その場所へやってきていた。
「ここは?」
なかなか立派な施設だった、何かの研究施設らしいけど建てられてからまだ新しい印象だった。
「ここは召喚魔法の研究をしている施設、”幻獣召喚魔法研究所”という場所らしいよ。
詳しくは知らないけれどもどうやら、クラウディアスの援助を受けて改修された建物らしい」
クラウディアスは召喚王国、召喚魔法つながりのようである。
クラウディアス連合軍の話を少ししたがそのクラウディアスのことらしい。
元々ここには召喚魔法を研究する施設があったというが、
だいぶ前にあったルーティスでの戦争で建物は焼け落ちてしまったとまではいわないまでも、
それでも戦争の傷跡は激しく、改修工事を施されるとまるで新しい建物のような、見違えるまでの装いへと変化したようだ。
クラネシアは説明していた。
「それがね、これを再建しようと考えたのはどうやらクラウディアス王家の人間ではなく、
元々ルーティスで学んでいたっていう”美女”の発案なんだそうだ。
何故か学園側ではあえて”美女”ってところを強調してほしいようで、
理事会や教職員会の間でも”美女”で認識が一致するらしい。
残念だけど私はその御姿を拝見したことがないから――”美女”で認識が通るほどの美人だというのなら一目拝んでみたいもんだよ」
美女と言えば――オリエンネストは考えるとクラネシアはすかさず聞いた。
「夢で見た彼女のことが気になるのかい?」
オリエンネストは全力で否定した、確かに夢で見た彼女も美女といえば美女なのでそれは間違いないが、
オリエンネストが考えていたのはその子がいつも守っていたもう一人の控えめな子のほうだった、
そっちも確かに夢に登場するので表現としては正しいことになるのだが、
クラネシアが言っている”夢で見た彼女”は当然お転婆な女の子の事である。
「うーん、わからないな、てことはつまり……お転婆な子も控えめな子も可愛い女の子?
それでどっちが可愛いって言われれば――やっぱり控えめな子だというのかい?
でも、キミの好みはお転婆な子のほうじゃあないのかい?」
クラネシアの指摘は的確だった、7~8割程度はだいたいその通りである。
控えめな子は控えめなだけあっていつも男の子にからかわれていたぐらいである、
それぐらい男の子に人気があったのは間違いない、だからこその美女である。
その一方でオリエンネストが気になっているお転婆な子といえば、
控えめな子をからかっている男の子をいじめ倒しているような子だったため、
むしろ男の子には恐れられていた感はある、そういうことである。
そう、オリエンネストとしてはどちらもルックスの面ではいい勝負だが、
残りは性格の問題で、どちらのほうが男受けが良いかで考えると当然控えめな子のほうが”美女”と呼ばれるに相応しいと言えるだろうというだけのことである。
「なるほどね、そういう問題か。
確かにお転婆な子のほうは変わった子だって言ってたね、
だとすると……まあ、男の子に恐れられていたっていうのも大体想像しやすい感じだね」
変わった人だが頭の良さは抜群だった。
それこそ天才と呼ばれる存在であることは間違いないが、
鬼才と奇人は紙一重とも言われまさにそれを絵に描いた人物像こそが彼女の存在だった。
「でも、訊いている限りだとその2人のエピソードはなかなかいい話じゃないか、
1人の”美女”が友達の”美女”を守るために男共を蹴散らしていたっていうことだろ?
さしづめ、美人の女騎士が美人のお姫様を守っていたってことになるわけだね」
オリエンネストは頷いた。
「しかし、どうやらキミの興味はお淑やかで控えめな美人のお姫様ではなく、
気が強いお転婆な美人の女騎士のほうに向いているということが面白いね。
普通なら美人のお姫様のほうが気になってもおかしくはない、それこそ私だったらお姫様のほうを選択するね。
女騎士に何か特別な思い入れでもあるのかい?」
オリエンネストは答えた。
「自分でも気になっていたんだよ、どうして僕は女騎士派だったんだろうってね。
でも、ずっと似たような夢を見ていてよく考えてみてわかったんだよ、女騎士はとても友達想いの優しい人だったんだって。
お姫様とはいつも仲良しで楽しくしているし、他の女性陣からも人気があった。
そういうこともあって、後から加わった2人も結構女騎士に頼っていたんだ、
彼女はいい人なんだって思ったね――」
そう言ったオリエンネストだったが突然恥ずかしくなった、何を言っているんだろうか僕は、顔が真っ赤になった。
しかし、クラネシアは真面目に答えた。
「なるほど、女騎士にはそういう魅力があるのか。
もし、例の女講師がその女騎士だとしたら、その女講師の人気の秘密もやっぱりそういうところなのかもしれないね。
その女講師に会ってみたくなっちゃったな――」
クラネシアはさらに考えながら言った。
「そうだ、そういえばさっき言った外国から講師を招き入れるって話だけれども、
近々にそれをまた予定しているとか言ってた気がするな、彼女が来てくれると嬉しいんだけど――」
それに対してオリエンネストの期待も膨らんだ、彼女に会えるのか!?