エンドレス・ロード ~ティル・ジ・エンド・オブ・ザ・ワールド~

悠かなる旅路・精霊の舞 第4部 遠き日々 第7章 幻想

第95節 想い

 オリエンネストの学歴などは一切ないため、その当時の見た目年齢で判断された結果、中学生としてルーティスにいることになった。 しかしそれにしてはちょっと変わっていた、なんというか、随分と大人びていたのである。 そういうこともあってか、オリエンネストはクラスメイトとはあまり話が合わず、いつも一人だった。
 そんなある日――
「オリエンネスト君、そこに座ってください」
 オリエンネストは担任の先生に呼び出された。 その日は担任の先生との二者面談というのをやっていて、オリエンネストの番がやってきたのである。
「君は――相変わらず成績がいいね。クラネシアの話だと家ではあまり勉強していないらしいけど?」
 見た目年齢で判断されたということは要するにそういうことである、 実年齢で言えばもしかしたら高校を卒業している可能性すらある、そういうことなのかもしれない。 だけど、それにしては見た目があどけないのはどういうことなんだろうか、その点だけが払しょくできない。
 しかし、そのあどけなかった見た目も面談をする頃までにはすっかり変わっており、 今では本当に中学生なのだろうかと訊かれるぐらいである、 いや、それについては記憶喪失のオリエンネスト自身が聞きたいところなのだが。
 まあ、成績がいいとはいえ、高校を卒業している可能性すらあるということは、 そんな前のことなんて忘れている可能性さえある、そのぐらいの能力であることは一応反映されているようだったが、 やはり勉強をしている間は少し懐かしいとさえ思ってしまったオリエンネスト、 間違いなく勉強している内容であること自体は明白のようだ。
「特に実践系の教科は抜群にいいね」
 実践系の教科というより、実戦は何度も経験したことがあった、 それこそあのフェルナスを討ち倒すということをやり遂げている、 ちなみにそのこと自体はあまりに目立ちすぎるため、一部関係者を除いて秘密になっている、 担任の先生ですら知らされていないことである。
「このまま行けばルーティス大学の最難関クラスまでいけると思うけどね」
 それは勘弁してほしかったオリエンネスト、自分にそれほどの学力がないことだけは把握していた。 しかしそんな中、オリエンネストの能力の中でも抜群によいものがあった、それは――
「いやいや、キミなら大学にも行けるよ。 だって、あの夏休みの自由課題の件だけど――あれは本当に最高だよ。 今でも生物学と農学、それから薬学の教授たちまでもがあの課題のレポートをこぞって取り合っている最中だ。 私にとってはある程度の内容までは理解できたけれどもそれ以上はちんぷんかんぷんだよ。 で、教授たちとキミがレポートについてマジメにやり取りしているところをみると余程の研究対象なんだなとは思うんだけれども―― 正直、私としては何の話をしているのかさっぱりわからないよ、お手上げさ。 それなのにキミはその話にも平然とついて言っている……だから、もしかしたらキミはとんでもない逸材なのかもしれないんじゃないかなと思ってね」
 はあ、自分がそんな存在――オリエンネストは腕を組んで考えていた。

 オリエンネストはクラネシアに二者面談での話をすると、思いっきり笑われてしまった。
「はははははっ、まったくもー、だから二者面談なんてわざわざする必要ないって言ったのに。 キミは見た目より結構歳をとっているハズだ、 つまり、言うなれば進路なんて既に決定している状態なんだ、今更そんなことする必要がどこにある?」
 だったらなんで学校で勉強しているのか――それは成績のためではない、 このエンブリアのことを知るため、知識を補給しているだけに過ぎない状態なのだ。 ちなみにこれはクラネシアの考えでもある、学びの場というものはそれだけで便利だという。 クラネシアも似たようなことを経験しているようなのでオリエンネストに勧めているのかもしれないが。
 また、オリエンネストとクラネシアはお互いを呼び捨てて名前を呼んでいる。 理由は単純、同じような状況下に陥っている迷子同士で上や下の関係なんてないだろとクラネシアに言われた事に起因する。 それこそ、今ほどクラネシアが”見た目より結構歳をとっているハズ”と言ったように、 お互い本来の年齢というのがわからない状態でもあるからだ。 もしかすると種族的には見た目と実の年齢が反対ということも考えられる―― そういうのを考えるだけムダだから迷子という仲間同士その辺はフリーにしようというのが彼の言い分である。 というか、クラネシア的にはそのあたりはなんだか面倒くさがっているようにも感じる。

 オリエンネストは夕べも恐らく例の夢を見た、気になっている女の子が登場する夢である。 だが、その日に見た夢では結構大人になっていて事情が変わっていた、 どう違っていたのかは夢の話であるためはっきりとは覚えていなかったのだが、 その日の朝、夢の内容について自分の中で整理していた。
 もちろんその女の子の話をするのは恥ずかしいのでクラネシアにも隠していたのだが、 クラネシアも夢を見ていて自分の子供の話からプロポーズした話までしたことでオリエンネストは吹っ切れた、 自分のことを少しでも知るため、意を決して話をしたのである。
「へえ、お転婆な女の子か、いつもその子の夢を見るとは余程好きらしいね! いいね、青春してるって感じでさ!」
 クラネシアは意地悪そうに言った。だが、オリエンネストはそれを気にせず別のことを考えていた。
 オリエンネストは何度かあの子の夢を見て分かったことがあった、 彼女は誰かと一緒になって平凡な日々を送るというような性質ではない。 あの子はとてつもない思いを秘めている、その先に見えるのは希望か、それとも絶望か。 しかし、その進む道がたとえ茨の道になろうともその子は間違いなく歩むことを辞めない。 ただひたすらに前を向いて突き進んでいくだろう、それは何故か絶対に間違いないと思った。
「なるほど、それはなかなかの女性像だね。 ということは噂のあの人の像に近いのかもしれないね」
 噂のあの人? オリエンネストは訊いた。
「この学園、どうも定期的に異国の人……最近はクラウディアス連合軍というところから派遣されてくる人を講師として招待し、講義をやるらしい。 最後にその講義をやったというのが私がここに来る少し前だったらしく、具体的にどういう人が来るのかはわからないんだけど。 でも、その時に来たっていう女講師が妙に人気のある女講師みたいでね、よく講師として招待されているらしいんだよ。 で、その女講師なんだけどルックス自体はなかなかの美人さんらしいけど、 お転婆で女性陣からは教職員・学生問わず女ファイターの鑑にしたい人もいるほど実力のある人みたいなんだ。 美人の元気なお姉さんということから男性陣からも一定の人気があるみたいなんだけど、 講義の内容もまじめな話よりも面白い話が多いみたいだし、 彼女自身の考え方も破天荒で変わった人っていう話も聞くんだけどさ――本当かな? ちょっと話を盛り過ぎじゃないかな?  でも、あのナキルもそう言うぐらいだから――どういう人なのか一度はお目にかかってみたいもんだね」
 破天荒で変わった人!  オリエンネストは思った、夢の中のあの子も結構変わった子だった、 もしかすると――オリエンネストの期待値は高まった。