エンドレス・ロード ~ティル・ジ・エンド・オブ・ザ・ワールド~

悠かなる旅路・精霊の舞 第3部 黄昏の入り江 第5章 もう一つの軌跡

第92節 デジタル社会

 ある昼下がり、リリアリスとアリエーラはいつものテラスで話し合っていた。
「2人していつもいつも仲がいいね、いつもこんな感じに過ごしているワケ?」
 フィリスがやってきてそう訊いた。
「まあ、そう言うことになるわね。」
 リリアリスは何故かその場所にコンピュータを広げ、キーボードをいじっていた。
「にしても、なんだか大掛かりなことしているみたいだけど、そもそも何やってんの?」
 フィリスが訊くとアリエーラが答えた。
「クラウディアスの公式ホームページを作っているそうです!」
「まーだ全然なんだけどさ。 とりあえず、ルーティスからもらった情報をもとにドメイン取得して、DNS設置して、 ネットワーク的にもドメイン的にもクラウディアスに接続するルートまでできているから、 あとはサーバの類を設置してページを作るだけってところまで来たわけよ。 私は今はウェブサーバのインストールしているところだから、 アリにページのレイアウトと入れる情報を考えてもらっているの。」
 フィリスは頷いた。
「なんか知らんけど、要するにネットワーク駆使して情報を発信しようっていうこと考えてんのね。 そう言えば私を見つけてくれた際に迷子のリストってのを作ってたみたいだけど、あれもそうなの?」
「あれはルーティスのサーバを借りて一時的に設置したものよ、 クラウディアスは当時、サーバ……そもそもネットワーク自体が壊滅的に構築できてなかったからルーティスから間借りして作ったものなのよ。」
「なるほどね。クラウディアスが壊滅的でそこまでしないといけないような状況だったらさ、 これからのクラウディアスにもそれなりの通信設備がないといけない気がするんだけどってわけか」
 リリアリスは答えた。
「ええ、まさにその通りね、クラウディアスは長らく鎖国していて時代に取り残された感がある、つまり壊滅的。 実際に鎖国していた時期ってのはそんなに長くなく、たかだか10数年程度のものだったのよ。 確かに、ここ10数年っていうと、世界大戦が収束してからある程度の文明が回復していった時期、 だけど、ちょうどそのころから通信の分野が確立してきているから……それを考えると、 鎖国するタイミングとしてはちょっと運が悪かったと言わざるを得ないわね。」
 そして、アリエーラが続けて言った。
「でも、みなさんちゃんと勉強していますから大丈夫ですよ、 それに、今はそのための工事もしているハズですから、少なくとも国内においては大丈夫なハズです!」
 すると、フィリスはテラスの手すりのほうにもたれかかりながら下界のほうを見下ろしつつ、言った。
「あの辺でなんか工事しているみたいだけど、あれがそうなの?」
 リリアリスは答えた。
「気になるでしょ。 あれのせいで今はお城に真っすぐ入れない状況になっているのが申し訳ないところだけれども、 あれは通称”デジタル研究棟”を建設するために頑張っているところよ。 ま、やろうとしているところはそれと似ているけれども、 一つの図書館みたいな施設を作ろうとしているだけだから、目的は少し異なるわね。」
 フィリスは感心していた。
「また大掛かりなこと考えてるのね。 でも、大国クラウディアスがデジタルについて本腰を上げてきたとなれば、 他の国も黙っているわけにもいかなそうね」
「でしょうね。少なくとも、やっぱりフィリスの言うように、 デジタルという観点ではクラウディアスは遅れているから今はそれが先決、 そのためにクラウディアスの一部のエンジニアをシステムエンジニアとしてルーティスやガレアに研修に行かせているってワケよ。 で、国内についてはクラウディアスの工事のおっちゃんたちとインフラエンジニアとガレア軍のスタッフで協力してインフラ設備を整えているってワケ。 無論、設計についてはこの私がほぼすべてやったから、あとは作ってもらうだけという状態ね。」
 フィリスは頷いた。
「なんていうか、みんなで忙しい中で私はなんもしてないんだけどいいのかな?」
「まあ、人によってできることとできないことがあるからなんとも言えないけど――そう言えば、 フィリスってこういうのはやれるほうだっけ?」
「まあ、一応は、リリアほどじゃないけど。なんかやれることない?」
「じゃあ、せっかくだからこっちに来てよ、1人でいろんな画面を見ながらやるのって大変。」
 すると、フィリスはリリアリスのいる方へとやってくると、ある事に気が付かされた。
「何よ、5台の端末を一度に見ているワケ?」
「正確に言えば平均2.5台ぐらいね。 1台はウェブサーバ、1台はインフラ設備の監視モニタ用、 1台はエンドマシンのセッティング用に、もう1台はシステム中枢用の管理端末ね。 ウェブサーバはインストールするためにただポチポチ押していればいいだけだし、 インフラもただ動作確認見ていればいいだけだからあれだけど、 管理端末もエンドマシンも手を入れなきゃいけないから大変ね。」
「もう1台は何?」
「もう1台は株と為替相場の変動を見ているだけよ。私、株にも手だしているから、状況を気にしているだけよ。 クラウディアスの新設備を買いそろえるためにいくつか売ったのもあるけれども、後悔はしてないわ。」
 フィリスは頭を抱えていた。
「じゃあ、他はいいとして、エンドマシンって”キッティング”するだけなんでしょ? 何台ぐらいあるの?」
「ざっと3万台ぐらいかしら? 1人でやるには1年あっても足りないわね。」
 フィリスは再び頭を抱えていた。
「残りは研修に行ったエンジニアにやらせるってわけか。 じゃあいいわ、そのエンドマシンの”キッティング”は私がやるから、 あんたは管理端末に集中すればいいんじゃない?」
「さっすがフィリスね、そういうことならよろしく。 今言ったように、残りは研修に行ったエンジニアにやらせるつもりだったから、手順書も作っておいたわよ。 もし、不備があったらうまい具合に直しておいてくれると助かる。 あと、そのマシンはもう終わるはずだから、次のマシンを用意するところからやってくれると助かるわね。」
「OK、んじゃ、そういうことで」
 3人は作業を進めていた。