リリアリスら4人はシレスとディーグの2人の帝国兵に促され、その部屋の中へと入った。
「とにかく、この船を無力化さえすればいいってわけね」
フィリスは得意げに言うとリリアリスが言った。
「単に無力化といっても万が一ってこともあるからね、
だからこの船にある”エナジー・ルーム”ってところにあるメインウェポンの動力源となる物体の奪取からやるよ。
それをやるのはアリが適任ね。」
そう言われたアリエーラはやる気を示していた。
「はい! 私にお任せください!」
それに対してリリアリスが言った。
「と言っても1人だとちょっと寂しいわよね。だからフィリス、一緒に行ってあげて。」
「OK、任せておきなよ」
フィリスは頷いた。だが、そこへディーグから注意が――
「でもあんたら、姿をくらます魔法で船内をうろついていたのはいいんだが、
その部屋の中では魔法の力が制約されるからな、だからその方法は使えない。
さらに言うと、その動力源の物体である”エナジー・ストーン”というやつもそのまま持ち出すのはかなわない、
あれ自身が相当な魔力を帯びているから、これまで重機による運搬で設置するのがやっとだったっていう代物だ、
それをどうやって?」
それに対してリリアリスはやはり得意げに言った。
「いい質問ね、
そもそも論として”エナジー・ストーン”の魔力を制約して周囲への影響を抑えるために
”アンチ・マジック・フィールド”を展開しているはずだから、当然といえば当然よね。」
リリアリスにはすべてお見通しな問題だったようだ。彼女はさらに続けざまに言った。
「1つ目については単純明快、帝国軍の制服に身を包んでやり過ごせばいいだけ。
実際問題、これ自身はその場をやり過ごせばいいだけだから、ここはそんなに重要でもないわね。
そしたら2つ目の問題をどうすればいいのかってことだけれども――」
しかし、その問題こそが、アリエーラを起用する理由そのものなのだという。
アリエーラとフィリスはシレスに用意された帝国兵の服を着ると、
すぐさま”エナジー・ルーム”へと赴いた。
アリエーラは先の散策で、既にそれらしい場所の目星をつけていたのである。
「なるほどね、なんとなくだけど妙な力が働いているような気がするね――」
フィリスはその場所の近くに行くと、なんとなく妙な感覚にとらわれるような気がしていた。
「抗エーテル場による影響ですね。でも、私はこれぐらいの力の影響だったら平気です。」
それに対してフィリスは「ふぅん」
”エナジー・ルーム”の前には帝国兵が2人見張っているのだが、
それについてはディーグとシレスから伝えられた通り、”点検だ”とでも言っておけばやり過ごせるという、
そもそも内部に入ったところで普通ならどうなるわけでもないため。
「これがエナジー・ルーム――」
2人は扉に入り、数メートル程度の通路をそのまま行くと、それらしき場所へとたどり着いた。
部屋の真ん中には台の上にガラスの容器に覆われた丸い物体が安置されており、
その物体は神々しく光を放っていた、これが”エナジー・ストーン”らしい。
「今更になるけど一応確認しておこうか――」
フィリスは何かしらの機械を取り出しながら眺めていた、
いわゆる放射線測定器で、リリアリスに念のため持たされていた。
それを見ながら言った。
「大丈夫、”その手のもの”ではなさそうね。
もっとも、”その手のもの”だったらこんな軽装でここにいる時点でアウトなんだけど――」
フィリスは立て続けに訊いた。
「でも、どうなの?
多分、魔法的なエネルギーを含んでいるということなんだろうけれども私らに影響ってあるの?」
それに対してアリエーラは言った。
「わかりませんが――魔法的なエネルギーを放出する物質ということであれば、
こちらも魔法に対する防御魔法を使って接近する分には大丈夫だと思います。
ですが――」
アリエーラはさらに説明を続けた。
「エンブリアにはこのようなものが採掘できるところがあるのでしょうか? 少し気になりますね――」
確かに、こういうものがいとも簡単に採れるようではそれこそ大量破壊兵器なんていうのは簡単に作れてしまいそうである、
その点では気になる話だった。
「但し、御覧の通り、私たちはこのように平然としてこの物体に接近できています、
つまり、この物体のエネルギーは非常に安定しているということです、
ですので、もし、何かしらの力が加わればバランスが崩れ、
私たちどころか、この船もろとも海の藻屑となってしまうでしょう――」
それは怖い話だった、そもそもこの船の兵器の動力源以前の話のようだ。
「で、どうするの、アリ――」
フィリスが訊くと、アリエーラから何かしらの魔力が発せられた。
「えっ、今のはまさか――」
フィリスが気が付くと、アリエーラは言った。
「はい、こういう場合はこの子が役立ちます――」
そう、その召喚獣は黒い丸い火の玉のようなおどろおどろしい姿の魔法生物、カタストロフィー――
「えっ、その召喚獣が伝説の破壊の獣なの?」
フィリスはその姿に酷く驚いていた、
その召喚獣は手のひらに収まるような小さなサイズで、さしづめ、伝説の破壊獣というよりはほぼペット同然な見た目であった。
その様相にアリエーラは驚きながら言った。
「あら!? あらららら――そう言えばこの中は抑制空間でしたね、
召喚獣の力ももちろん影響は受けますが、まさかこんなになるなんて――」
すると、アリエーラは”獣”におもむろに手を差し伸べ、手の甲でそっと触れた。
「でも、こんなこの子もとっても可愛いです!」
カタストロフィーは頬を赤くして照れているような様子だった。
「で、この子にこれをどうにかするどんな能力が?」
フィリスは赤くなっているそれを眺めながら訊いた。
「はい、それではお願いします!」
アリエーラはそう言うと、”獣”はこれまでにないぐらい張り切って何かをし始めた。
頭から生えている触手のようなものをすべてエネルギー体のほうへと差し向け、
念力のようなものを送っているようだった。
すると、”エナジー・ストーン”から放たれるパワーは見る見るうちに減衰していった。
「うっそ!? どうなっているの!?」
フィリスは驚きながら訊くと、アリエーラは優しく答えた。
「はい、カタストロフィーは空間を自在に操る”獣”です。
で、今は”エナジー・ストーン”から放たれる力とエネルギー体そのものの力は一時的に圧縮されていて、
今なら素手でも取り出せますね。」
フィリスがカタストロフィーに目をやると、触手でガッツポーズのような頼もしそうな仕草をしていた。
そして、フィリスはガラス容器を取り外し、”エナジー・ストーン”を取り出すと、それをカバンの中に入れた。
「とりあえず、これでここでやることは終わりってことね。そしたら次は――」
「みなさんと合流しましょうか?」
「とりあえず、それしかなさそうね」
フィリスとアリエーラはリリアリスらと合流することに決めると、その場を去った。
カタストロフィーはいつぞやと同じように身体を揺らし、2人を見送りながらいるべき場所へと還っていった。