ガレアでの出来事――
「はぁー、なんていうか、なかなかうまくいかないものねぇ――」
ガレアの一兵士として活動しているリリアリスはアンジェラという存在として特殊な地位に就いていた。
彼女は食堂でそう言いながらため息をついていた。
「うまくいかないというのは? ガレアの土地区画整備ですか?」
話し相手としてジェレイアこと、ジェタが同席していた。
「んまー、それもあるけれどもね、
いろいろと考えているんだけれども全体的にどうしたらって考えるとなかなか思いつかなくてね。
でも、一番の悩みは、ガレア軍に人があまり集まらないことよ。」
アンジェラはさらに話を続けていた。
ジェタのような有望な人材がスカウトできたのはそれこそ、幸運以外の何物でもなかった。
ただ――
「確かにそうですね、私がガレアへの異動を命じられたのには最初は驚きましたが、
ですが、今では本当によかったと思っています。
とはいえ、私は本土では特に毛嫌いされている存在ですので、
そういう者でもない限りは本土からの引き抜きは難しいことでしょうね。」
それこそ、ガレアでのやり方だったら本人に直接会ってスカウトしてみるのが一番ではないか、ジェタはそう言った。
さらに話を続けた。
「本土での活動をよく思わない兵士はたくさんいます、私ら女性陣だけではありません、
男性陣にとっても、それほどいい待遇の環境ではありませんからね――」
そういう背景のためか、本土側からの異動願希望者は一時期高騰していたこともあった。
もちろん、そうなると本土側のお偉方も人手をやすやすとガレアに渡すための口実を作ろうとせず、とにかく縛りを強くしていった。
その結果、無暗に異動を願い出るものも少なくなり減っていく一方で、結果的に人の流れに対して確実に壁を作っている状況のようだ。
だから、ジェタの言うように、壁の内側に直接入り込んで本人に直接会って聞いてみるしかないようである。
「確かに、直接会って話をしてみるしかなさそうね。もののついでだから訊いてもいいかしら?
本土軍にいた時にジェレイナも一目置くような人って誰かいないかしら?」
そう言われたジェタは考えながら言った。
「そうですね――私としてはシェミル=エヴィーア、シレスと呼ばれるその子がよかったかなって思いますね。
一緒に仕事してて楽しかったのもそうですが、何より、彼女の能力は本物です、
もし、私が誰かに重要任務に就かせるということになれば、私は彼女を指名しますね――」
シレスはリリアリスの話を聞いていた。
「なるほど、ジェタ先輩とも面識があるのですね、
それに――流石はジェタ先輩、ガレアで大活躍してらっしゃるのですね。
それに比べ――男尊女卑の激しい本土軍のことですから、女性が活躍していることなど――」
本土軍の実情はそういうものだった。
確かにジェタやシレスの言うように、女性に対する待遇は最悪と言わしめるようなものだった。
「それで、どうしたい? 後はあなた次第よ、このまま本土軍の犬でいるのも良し、
それとも私らについていくか――強制はしないわ、だから――」
それに対しシレスは答えた。
「少しだけ時間を頂いてもよろしいですか?」
リリアリスは頷いた。
「ええ。でも、いつまでもここにいるわけにはいかないから、なるべく手短にね。」
シレスは頷いた。
「すみません。でも、本当に少しだけ時間をください――」
彼女があまりに必死にそういうので、リリアリスは気さくに言った。
「なるほど、分かったわ。
じゃあこうしましょう、私らは船室で捕らえられている3人の女性のところに行っているから、
そこに来て頂戴ね!」
そう言うと、シレスは「ありがとうございます!」と前向きに答え、その場から去っていった。
「ふふん、なるほどね、なかなかいい子じゃないのよ。」
リリアリスは得意げにそう言うと立ち上がり、
カスミと手をつないで再びミスト・スクリーンの影に隠れた。
そして牢獄の入り口に戻ると、アリエーラとティオがいた。
「あら、どうだった?」
リリアリスはアリエーラに話しかけた。
なお、その場には先ほどリリアリスが倒した4人に加え、さらに4人の兵隊が倒れていた、
アリエーラが倒していたことは言うまでもない。
「リリアさん、エミーリアさんたちは間違いなく1つの部屋にいるようです。
場所も特定しました、部屋の前には2人の見張りがいるみたいです。
とにかく、急ぎましょう!」
リリアリスは頷いた。
「そうね、”約束”もあるから早いところ行きましょう。」
そして4人は部屋の前まで来ると、2人の見張りの兵士がいるのを確認した。
「面倒ね、どうしようかな――正面突破も可能っちゃ可能だけど……」
遠くからそれを確認すると、リリアリスは頭を抱えながらそう言った。
それに対し、カスミがリリアリスの袖を引っ張りながら言った。
「さっきの女の人」
なんと、そこへ先ほどの女性兵士、シレスがやってきて、片方の見張りに促した。
「交代か?」
そして互いにあいさつを交わすと、その見張りとその場を変わっていた。
シレスはその兵士が行ったことを確認すると、もう片方の見張りと話をした。
「こんなところにいたのね――」
もう片方の見張りもシレスと話を始めた。
「なんだよシレス、何かあったのか?」
「ディーグ、何も言わないで、ただ黙って聞いていてほしいんだけど――」
彼の名はディーグ=ティラバールという名前らしい、シレスとディーグは幼馴染の関係――
「なんだよ急に改まって、また脱走の相談か?
それをやろうとした連中はことごとく失敗して豚箱に放り込まれているんだ、
それに、最近は死刑になったやつもいると聞く――確かに、死んだほうがまだマシっていう話も聞くけれどもなぁ――」
ディーグは頭を掻きながらそう言うと、シレスはディーグに向かって目をキラキラと輝かせながら言った。
「迎えが来ているのよ! 私たちを受け入れてくれるっていう場所がね!」
ディーグは耳を疑いつつ、呆れながら言った。
「なんだよそれ、迎えって誰がだよ――」
シレスは自分の身に起きた一部始終をディーグに伝えた、すると――
「マジかよ――確かに、あのジェタ先輩知っていて、一緒に仕事しているって人なら――
だけどその人って、ここに捕まってきたってんだろ? むしろその辺大丈夫なのか?」
それに対し、リリアリスが両手を腰に当てながら得意げな態度で、その場に現れると言い放った。
「捕まったんじゃなくて捕まったフリをしているだけ、
この船の目的を確かめたかったからそうしてきたのよ。
それに――あんたたちみたいな連中も回収できたらいいかなと思ってこうしているってワケよ。
さあ、どうしたいかはあなた次第、来るの? 残るの? どっちにするの?」
ディーグはリリアリスの存在に驚いていた。
しかし、あのアンチ・エナジー・フィールドを破ってきているという点ではディーグも流石に考えさせられた。
「ねえディーグ、この人と一緒に行きましょう! こんなところにいたってダメよ!
私たちは切り捨てられるだけ、だったらいっそのこと、脱走した方が――」
そう言われたディーグ、毎度毎度脱走の相談をシレスからされているのだが、
どうしてそうしたいのかはよく知っていた、やはり女であるという事から待遇はよくない。
そんなこともあり、今回の提案については恐らくシレスにとってはとてもいいことなんだろうな、
それはよくわかっていた、ジェタ先輩のこともあるから。
そして、ディーグはシレスに根負けしたのだった。
「わかったよ、シレスがそこまで言うのなら俺もそうするよ。
んで、あんたも地下牢破ってまでここに来ているんだからな、
それ相応の計画を練って来ているんだよな?」
ディーグはリリアリスに対してそう言うと、リリアリスの後ろから3人の女性が現れた。
それに対してディーグは再度驚くと、リリアリスは呆れ気味に言い放った。
「この私がこの程度のことに計画を考えるための労力を割くわけがないでしょ。
とにかくなんでもいいからつべこべ言わず、私についてくればいいのよ、
もちろん、大船に乗ったつもりでね。」
リリアリスが得意げにそう言うと同時に、シレスとディーグの2人はリリアリスからとてつもない気迫を感じたのである。