辺り一帯を焼け野原にしてもおかしくはない兵器の情報を前に愕然とする4人――
「それって、いわゆるオーバーテクノロジーというものでしょうか?」
アリエーラはそう訊いた。それに対してリリアリスは――
「どうだろう? 確かに、オーバーと言えばオーバーといえるかもしれないけれども。
ただ、今回の計画にはかなりのコストをつぎ込んでいる以上は容易に作れないし、作ろうとも思わないようなブツかもしれないわね。
だから、同じようなものが二度と作れるとも思えなければ、模倣するのもなかなか厳しい気がするわね。」
リリアリスはさらに続けた。
恐らく、たとえ世界を破壊したいという目的で似たようなものを作るぐらいなら、
別の兵器を作ったほうが効率がいいとも思えるぐらいで、作った意図がわからないというのがリリアリスの見解のようだ。
ついでを言うと、その兵器自体は攻撃面には特化しているが、防御面――とりわけ、実際に攻撃を行う側については全く考慮されてないという。
それに対し、アリエーラは言った。
「なるほど、使ったが最後、この船は海の藻屑に、ですか――」
それどころか、船がこの兵器の攻撃に耐えられない以前にレーザーを発射する砲身自体が耐えられない可能性があり、大爆発を起こしてしまう可能性があるようだ。
このことからリリアリスは一つの問題について言及していた。
「ということはつまるところ、レーザーの発射メカニズムの部分と物理的な部分を開発した人はそれぞれ違う人って事ね。
技術というのは両者が立って初めて意味をなすもの、
これじゃあチグハグ――使用する兵器としてはまったく理にかなっているものではないわ。
人によっては如何なる力を行使してもそれに耐えうるようなものこそが本当の意味での技術よ。
使用に耐えられないようなものは作るべきではないわ、自分の身を破滅させるだけ――」
リリアリスはなんだか寂しそうにそう言った、こと技術、特にそれが兵器開発という話になると、
彼女の態度も一変する、自分も数多のものを作ってきたクリエイターであるため、
そう言った話題になると、かなりシビアな一面を見せつけることもあるのだ。
ともあれ、早速行動に出ることにしたリリアリスたち、
”ミスト・スクリーン”という魔法を使用し、自らの身を隠しながら二手に分かれて戦艦内部を散策していた。
純粋に侍女チームと女中チームで分かれていた。
そんな中――
「お姉ちゃん、あれ、女性の兵士――」
カスミはリリアリスの袖を引っ張りながらそう言った。
「やっぱりいたようね、ちょっと仕掛けてみよっか?」
リリアリスがそう言うと、カスミは2度頷いた。
その女性は何やら船室の前に立っており、恐らく、見張りをしているようだった。
「あの中にフィリスたちがいるのかな?」
すると、カスミは首を横に振った。
「エミーリアいない。いるの別の部屋」
すると、リリアリスは彼女の下へと近づき、彼女の右肩を2回叩いて引っ込んだ。
彼女はなんだか違和感を感じ、自分の右肩を左手で払うと、そのまま見張りを続けていた。
「それじゃあ、これならどうかな?」
すると、リリアリスは再び、彼女の右肩を2回叩き、今度は遠くで物音をさせた。
彼女は自分の右肩を確認すると同時に、物音のする方へ走っていった。
物音のしたらしい場所は使われていない倉庫、
そこにはダンボール箱が落ちており、箱の中からはマシンガンのマガジンと呼ばれるものが何個か転がっていた。
「こんなもの、誰が――」
女性はそう呟いた、その場所に不自然に1個それがあるのは明らかにおかしかった。
すると、倉庫の入り口のほうから突然風が襲い掛かり、かぶっている軍帽が飛ばされた。
それに対して急に何事かと思い、倉庫の入口のほうに行くと、左右を見渡していた。
すると、その時――背後に何者かの気配が!
「やあっ!」
女性は右足で勢いよく後ろ蹴りを見舞った! すると、その場には――
「おっと、危ない危ない、可愛い顔して意外と侮れない技持っているのね。」
その場にはリリアリスが現れた。リリアリスは得意げに彼女の攻撃をかわしていた。
すると、女性はそのままリリアリスに攻撃を続けていた。
「誰なのあなた! 侵入者?」
女性は技を繰り出すも、リリアリスにはなかなか技が決まらないでいた。
「侵入者じゃないわよ、ただの通りすがりの拉致された人、
束縛されたくないからついつい逃げ出してきちゃっただけよ♪」
リリアリスは得意げに彼女の攻撃をかわしながらそう言った。
「くっ、かくなるうえは!」
すると、彼女は銃器を取り出した。
「おっと、次は飛び道具ね――」
だがしかし、
「はぁーっ、やあー!」
何と、銃器はトンファーバトン代わりに取り出しただけで、そのままリリアリスを攻め立てて行った!
「ちょっと、冗談でしょ!」
急なことだったのでリリアリスも慌てつつ、納刀状態の剣で応戦していた。
「あなた、やるわね! でも、これでおしまいよ!」
彼女は華奢な身のこなしでリリアリスの股を華麗にすり抜けると、
そのままリリアリスの背後を奪い、リリアリスの首をバトンで締めた。
「さあ、大人しくすることね!」
女性はそう言うと、リリアリスは何故か楽しそうに言った。
「流石は本土軍の兵隊さんね、頼もしいときたらないわ。
だけど、私には一歩及ばなかったようね――」
女性はそのセリフに驚いていた。
しかし、自分の首に納刀状態の剣があることを知ると、とても悔しがっていた。
そう、彼女が目の前のリリアリスにやっていることと同じことを、
彼女の背後にいるリリアリスにされている状態だったのである。
彼女の目の前のリリアリスはフェイクであり、次の瞬間、そのリリアリスの像は消え去ったのである。
「だけど、とても強いわねあなた。でも、これでいて雑兵なんでしょ? 本土軍なんだからね――」
そう言われた女性は非常に悔しそうな顔で涙を流していた。
「でも、私はあなたには敵わなかった――」
「まあ、それもそうなんだけれどもね。
でも、それでも、ここまで苦戦するとは思ってなかったわ、シェミル=エヴィーア。」
リリアリスがそう言うと、彼女はとても驚いた。
「何故、私の名を!?」
その後、リリアリスとシェミル、そして、カスミも倉庫の中で一緒に話をしていた。
彼女の軍服にはどこかしらに名前が書いてあるのだが、どこにもシェミルなどという名前は記載されていないはずだった。
そう、彼女の名前はシレス、それならどこかしらに書いてあるので、リリアリスが知っていてもおかしくはなかった。