周囲の状況が一通り収まったことを確認すると、
リリアリスは早速行動に出ることにし、すぐさま立ち上がった。
すると――
「おいおい、何を始める気かわからんが下手なマネだけはしないでくれよ。
やつら本気だ、もし何か異変があれば――もっとも、この制御フィールドをどうにかしない限りはどうにもなんないだろうがな」
それは、定期船の乗組員でもある戦闘員だった。
その男はリリアリスたちの向かいの牢屋の中に入れられており、寝そべりながらそんなことを言っていた。
なお、戦闘員はもう一人いて、その男の傍らで寝ていた。
それに対してリリアリスは得意げに答えた。
「大丈夫、下手なマネはしない。
私がやろうとしていることは大した問題ではないんだけれども――」
すると、リリアリスはおもむろに右手から剣――いや、槍? アクセサリ?
とにかく”兵器”を取り出すと、向かいの男は驚いていた。
「なっ、なんだ!? 今の手品は一体!? 制御フィールドの影響下だってのに、どうなっている!?」
リリアリスはやっぱり得意げに答えた。
「んなもん、できるものはしゃあないじゃんか。
とりあえず、まずは様子を探りたいわけだけど頼むから静かにしといてくれる?
やっぱり、どうして定期船を襲ったのかが気になるからね――」
すると、リリアリスはおもむろに、壁に対して刃を突き立てると、勢いよく壁をはがした!
壁は鉄製だが、彼女の”兵器”の前では素材の頑丈さなど意味をなさない。
「おっ、おい! この女、マジかよ!」
男はリリアリスの行動を見て驚いていた。
「だから、黙れ言ってんでしょ! 気が付かれたらどーする気よ!」
リリアリスは男に対してそう言って怒っていた。
すると、そうなるとやっぱり見張りの兵が――
「何をしているんだ! 大人しくしないか!」
怒りながらその場へとやってきた。そしたら当然――
「なっ!? 何をやっている!」
壁がはがされている様を見て驚いた。しかし、それと同時に――
「あーあー、まったく次から次へと――みんな、いい加減に静かにしようね。」
リリアリスは壁のほうを向いたまま、左手を後ろに向けて魔法弾”サイコ・ブラスト”を放ったのである。
それは見張りの兵隊の頭にクリーンヒットし、兵隊はその場で倒れ、気を失った。
「い、今のは魔法!? しかもフィールド影響下で強化されている鉄格子ごしに、
これほどまでに強力な”サイコ・ブラスト”を通すとはあんた一体!?」
それに対し、リリアリスはため息をつき、男のほうに向かって脅すように言い放った。
「だから、黙れ言ってんだろ、同じ目にあわせたろか!?
次何か喚き散らすようなことがあったらこいつと同じ目に合わせるからな。」
男はリリアリス相手に恐怖し、手で口を塞ぎながら何度も頷いた。
リリアリスははがした壁の中を見ると、そこにはリリアリスの目的のものがあった。
「やったね、ビンゴ♪ 最初の壁破いて見つかるなんてなかなかツイているわね♪」
確かに――今回敵に捕らえられたというよりも自ら進んで捕らわれたような感じだったので、
ついていると言えばついている部類なのかもしれない。
「は、配電設備!? 一体、何をしているんだ?」
向かいの男は小さめの声でそう訊ねた。リリアリスはそれを見ながら答える。
「配電設備というより通信設備の一部ね。
設計上、アンチ・エネルギー・フィールドによってコーティングされているこの場所の裏に置いとけば、
何があってもここは大丈夫なハズだから、この形式の船はだいたいこの辺りを探れば見つかるってワケよ。」
そう、リリアリスはあえて自分に対する制約が強くなる牢屋に入ったのにはそう言った理由があったのである。
そう言われた男は納得した。
「た、確かに――普通は破られるわけのない場所に置いとけば――
あんたの武器の前にはそれも無意味だったようだが、だけど、そんなの見つけてどうするつもりなんだ?」
すると、リリアリスは次々と道具をどこからともなく取り出しながら言った。
「見ての通り、ただの電子工作よ。」
男にとってはもはや意味不明な行動だった。
それから30秒ほど経つと、リリアリスはいきなりしゃべりだした。
「あーあーあー、マイクてすてすマイクてす――こちら私、聞こえる?」
何をやっているのだろうか、男は改めて様子を見ていると、
リリアリスはトランシーバーみたいなものを持って話をしていた。
さらにリリアリスは続けていた。
「チューニングがちょっとおかしいかな、これならどう?」
リリアリスはいろいろといじっていた、すると――
「こちら俺、聞こえてるぞ――」
なんと、機械から別の男の声が聞こえてきた。その男はさらに続けていた。
「何がどうなっているんだ、どうしてあんたがこんな経路から連絡してくるんだ」
リリアリスは答えた。
「発信源を特定すればすぐわかると思うけれども、詳しい説明は後。
そんなことよりも調べてほしいことがあるから早く調べてね。
ちなみに今牢獄の中だからとにかく早くお願い。」
男は答えた。
「なんで牢獄……ってか、ディスタード本土軍の戦艦の中なのかよ――
そういやさっき、おもてのほうでディスタード艦がクラウディアスに向かっているらしいって話聞いたけど、
その船だろうか――」
リリアリスは言った。
「わかんないけど、この船の目的を早急に調べて。
搭載している装備も見てほしいのよ、なんだか嫌な予感がするからね――」
「今やってるよ。
ちなみにその船、本土からでなくてリジアルってところから直接出港しているらしい。
場所までは詳しくはわかんないが、本土軍の秘密工場がある島だって話だから、確かに装備は気になるところだな――」
機械越しにその男の声とキーボードを軽快に打ち鳴らす音が聞こえてきた。
それにしても、会話内容がいろんな意味でヤバ過ぎて、先ほどの男にとっては何が何やらという世界だった。
「ん? 誰かいるのか?」
機械越しの男の声がそう言うと、リリアリスは後ろをちらっと見てから答えた。
「まあそうね、牢獄だからね。隣にはカスミもくつろいでるし、後は――いろいろよ。で、何か出たの?」
リリアリスはそう催促すると、機械越しの男の声は答えた。
「ああ、ちょうど今出たぞ。艦の形式は毎度お馴染みのDHY802型だな、少し古いが。
で、武装があんたの予想通り、ちょっとやばいやつだな、あからさまに対クラウディアスって感じのもの積んでるぞ――」
それと同時にリリアリスは右手で頭を抱えていた。
「とりあえず、データはチャットに流しといた。
フィールド影響下だろうから今すぐには見れないだろうが、確認できるタイミングで確認してみてくれ。
ちなみに魔導レーザー系のブツであることだけは伝えとく。
しかも、戦艦の主武装としてあちこちに積まれているみたいだな――」
それを聞いたリリアリスはずっと頭を抱えたままだった、
だけど、帝国軍の目的ははっきりした、クラウディアスを脅かす新兵器ができたから攻めに来たのだということが分かったのである。
ただ――機械越しの男の声がなんだか唸っているような声を上げていた。
リリアリスはどうしたのか訊いた。
「いやな、これ、ディスタード本土軍が作るブツにしては金がかかりすぎている気がするんだよな、
多分他所の国からパクってきたものをそのまま流用している気がする。
艦の形式がDHY802型といういつもやつ――こいつもはっきり言って旧式だ、
そう言うことを考えても今回のディスタード軍の作戦は莫大な金がかかっている、そんな感じなんだよな」
すると、リリアリスはなんだか納得したような感じで言った。
「そうか、それで定期船を人質に取ってクラウディアスに脅しをかけるマネをしたってワケね。
高出力レーザー系の武装だったら1発打つのに多大なエネルギーチャージがいるからね、今のディスタード本土軍の技術力だと。
つまりは連射は不可で、1発撃つごとに自分の艦体自体にも多大なダメージを与えることになる。
だから堂々と正面から攻撃を仕掛けるということはできず、あえて定期船を狙う事にしたって寸法か。
ということは、この作戦を潰したら、同じ手を使うまでには数年かかるだろうし、
しばらくは大人しくなるかもしれないわね。」
リリアリスがそう言うと、機械越しの男の声は反応した。
「まあ、今回の本土軍の作戦、あんたを捕まえてしまったのが運の尽きだったようだな。
それはそうと、こっちから何かすることはあるか?」
「そうね、一つだけいいこと思いついた。
詳細は追々ということにして、とりあえずジェレイナたちを出しといてくれるかしら、当然、”裏”からね。」
「オッケー、それは任せといてくれ。
じゃあな、言うほどのことじゃないけど、頑張れよな」
「そうね確かに、言うほどのことじゃないわね。
でも、ヒー様が言ってくれるんだから頑張るわ、マイ・ダーリン♪」
リリアリスがそう言うと同時に機械越しの男は一方的に通信を切った。
「つれないわねぇ、まあいっか。そうと決まったら早速作戦を開始しようかしら。」