威嚇射撃によって船を止めている状態の定期船に対し、
帝国軍の戦艦は護衛艦2隻を引き連れて大接近、そして、定期船にタラップをおろすと、
帝国軍の兵隊たちと共にお偉方が現れた。
「直ちに乗客と船の乗組員全員を捕らえるのだ!」
その様を見ていたリリアリスたちは――
「じゃあ、作戦通りにお願いね!」
リリアリスがそう言うと、それぞれ不安ながらもとにかく彼女の言うことを信じて頷いた。
「お姉ちゃん、窮地に強い流石」
カスミはいつもの通り冷静だった。
「ふふん、さて、どうなることやら……見ものね」
フィリスは面白そうにしていた。そして――
「さーて、そこの女共も大人しくしてもらおうか!」
帝国兵たちが銃を構えながらそう言うと、女7人のうちの1人は偉そうだが狼狽えたような態度で怒りながら言った。
「なっ、何よあんたたち! こんなことして許されると思っているのかしら!
私はクラウディアス国の大貴族、ブリアンデル家の者よ!
この私に手出ししようものならクラウディアス王家が黙っていないわよ!
それを知っての狼藉かしら!」
すると、お偉方がその女に向かって歩きながら言った。
「ほほう、なるほど――クラウディアス貴族が乗っていたのか、これは面白い――
もっとも、貴族であろうがなかろうが同じことだが――」
それに対し、ブリアンデル家の女は怒りながら言った。
「ちょっと! あんたが責任者なの!? 一体私たちをどうするつもりなのかしら!
こんなことをして許されると思っているのかしら!
後で王国騎士たちがあんたたちのことを捕らえに来るわ! 覚悟しておくことね!」
帝国兵のお偉方は呆れた態度で言った。
「あーあー、まったく、これだから女はうるさくて敵わん。
まあいい、貴族だというのならこの女は別室に閉じ込めておけ。後は――」
お偉方は他の女性6人を眺めながら言った。
「身なりからすると、この女とこの女もそうだろう、後々面倒だから一緒にしておけ。
残りの4人は牢屋に閉じ込めるのだ!」
すると、ブリアンデル家の女が再び怒った。
「ちょっと! その4人は私の召使たちよ! 勝手なことしないでよ!」
お偉方はあきれ果て、もはやその女の言うことは無視していた。
「うるさくて敵わん! さっさと連れていけ!」
女7人はそれぞれの場所に連れていかれた。
そして、牢屋に閉じ込められた召使4人のうち2人は特殊な牢屋に入れられた。
「この牢屋嫌な感じする――」
その2人はカスミとリリアリスだった。
身なりが如何にもお付きの女剣士のような風貌だったため、その牢屋に入れられたのである。
「これはアンチ・エナジー・フィールド・プリズンね。
脱獄ができないように強力な能力を持つ人間はだいたいこの牢屋に入れられるのよ、
だから魔法すらも打てないわね、本来ならば――」
そう言うと、リリアリスはおもむろに手から小さく風魔法を発生させた。
カスミはそれを見て驚いていた。
「いずれにせよ、この程度のアンチ・フィールドじゃあ私の力を抑制するのは無理ってことね。
でもま、周りが落ち着くまではとりあえず、大人しくしていましょ。」
リリアリスはカスミを抱きかかえながらそう言った。
「お姉ちゃんの言うこと絶対」
カスミは甘えながらそう言い切った。
一方で、もう2人の召使も当然、牢屋に入れられていた。
「アンチ・エナジー・フィールドですね――」
アリエーラは自分の置かれている状況を考えながらそう言った。
それに対してティオはアリエーラに何か言いたそうな顔で訴えていた。
しかし、その顔はなんだかうれしそうな表情だった。
「ですね! 可愛い服ですよね!
それにしてもリリアさん、いろんな服を持っていますね、
まさかクラウディアス王室の召使の服まで持っていただなんて――」
そう、アリエーラとティオは女中服を身に着けていたのである。
「さてと、とりあえず動き出すまで大人しくしていますかね――」
アリエーラはそう言うと、ティオはアリエーラの膝枕に甘えてきた。
アリエーラはティオの頭を優しく撫でていた。
一方で、船室に閉じ込められた貴族の女3人組は――
「とりあえず、部屋に監視カメラみたいなものはなさそうね――」
ブリアンデル家の大貴族の女は船室を確認しながらそう言った。
それに対し――
「それにしても迫真の演技だったわね、デュシア!
どこからどう見ても高飛車な貴婦人様にしか見えなかった!」
「うん! デュシアさん、すごいです! 私、尊敬します!」
フィリスとエミーリアにそれぞれそう言われたデュシアは謙遜していた。
「や、やめてよ――でも、普段の自分でない者を演じてみるのって案外面白いものね、
リリアの気持ちがわかる気がするわ――」
そう言われたフィリスもそう思った、自分の服装も貴族の女性のドレス姿で、
いつもの自分からは考えられないほどの落ち着いた女性を装っていた。
「ま、とりあえずはリリア待ちね。
にしても本土軍の狙いはやっぱり人質を取ることかな?」
フィリスがそう言うと、デュシアは言った。
「リリアによると、それだけってことでもないみたいね。
それに――普通は連絡船にも魔物や敵対国からの襲撃に備えて戦闘員が配属されているハズなんだけれども、
特にスクエアやルーティスを経由するような船の場合はそれなりに腕の立つ戦闘員を配属しているハズなのよ。
それを圧してでもこの船を襲ったのには何かそれなりのワケがありそうね――」
それに対してエミーリアが答えた。
「そう言えば、フェラント発着の便は今のところスクエアやルーティスを経由する船しかなかったと思います」
そう言われたデュシアは納得した。
「あっ、そうなのね――ということは純粋にクラウディアスに何かしらの攻撃を仕掛けるつもりで強行したってことになりそうね――」
フィリスは頷きながら言った。
「で、その具体的な事情を先に調べてみたいと、リリアはそう考えたってところか」
どうやらその様である。さらにフィリスは話題を変えつつ話をした。
「にしても、ブリアンデルだっけ? リリアもよくもまあとっさにそんな名前が思いついたわねぇ――」
それに対し、エミーリアは気さくに答えた。
「私はあんまりよくわからないんですが、
ブリアンデルはかつてクラウディアス王国を支配していた臣下の一人だそうです。
確か、ローファル=ブリアンデルという人だって言ってたかな?」
そいつは、クラウディアス王国にかつて存在していた重鎮の一人だった。