エンドレス・ロード ~ティル・ジ・エンド・オブ・ザ・ワールド~

悠かなる旅路・精霊の舞 第3部 黄昏の入り江 第5章 もう一つの軌跡

第81節 伝説の飛竜と生命の泉

 洞窟の奥へと進む。 ただひたすらと奥へ進むだけだがこんなんでいいのだろうか、いささか疑問である。
「何? トラップとか、そういうのを期待していた?」
 リファリウスはそう言うが、こんな天然の洞窟でトラップも何もないだろう、フィリスはそう反論した。 となると、心配事は魔物だけということになる。 実際、魔物らしい魔物――こういう場所に出てくる魔物と言えば、 それこそ未開の地というだけあって強い魔物といえそうな存在がいてもおかしくはないハズなのに、 どの魔物も意外なぐらいにあっさりと倒せる敵しか出て来ず、それはそれでむしろ気になっていたフィリスである。
「そうかな? 普通はこんなもんだよ。」
 フィリスの疑問に対してリファリウスがそう答えた。 しかしこれが普通――フィリスはなんだか違和感を覚えていた。
「これが普通?  私としては、洞窟なら洞窟のヌシみたいのがいて大変な展開になりそうな経験しかないんだけど」
 フィリスがそう言うと、リファリウスは歩みを止めた。
「そうだよね、確か。 なんでかな、そう言われると逆にそんな感じがするんだよね。 だから、今ここで感じているこの異様な安心感ってどこから来るのだろうね?」
 しかし、それほどの魔物がいるわけでもないと言われればそれも普通に思えてきたフィリス、 自分で言ったことを即覆してしまうようで悪いんだけど、それでもなんでこういう気持ちになるのだろうか。 しかし、そんな葛藤を抱いていたのはフィリスだけではなかった。
「ティオりんも同じこと思っているみたいだね。」
 リファリウスはティオの顔を見ながらそう言った。 ティオも同意見ということだが、ティオに訊いたのには理由があった、それは――
「みんなにみんな聞いたわけではないけれども、 ”フェニックシアの孤児”仲間やシオラさん、そしてアリエーラさんにも聞いたことがあったけれども、 みんな同じことを思っているみたいだね。」
 そう、フィリスと同じことを感じている仲間は他にもいたのである、無論、リファリウス自身もである。
「魔物はおろか、世の中に名をはせたような名うての使い手みたいな人を相手にしてもぜんぜん平気なんだよね――」
 リファリウスはそう言うと、フィリスは驚いた。 しかし、フィリス自身も思い出してみると、ゴロツキ複数人が束になってかかってきてもぜんぜん負ける気もせず、 最近で言えば多少の無茶どころか、無茶が無茶とも呼べないレベルの戦いしかしていなかった。 ということは自分もそういった人たちと同じような存在だというのだろうか――疑問は尽きない。

 さらに先に進むと、まさかの合成獣キマイラが現れた。
「あれ、本当に合成獣じゃん!」
「なんてこった、しかも大きいな――」
 フィリスとリファリウスはそれぞれ驚きながらそう言った。 かなりの大きさがあり、恐らくトラック一台分ぐらいの大きさは普通にありそうだった、しかも、狭い洞窟の中である。
「もしかしたら、こいつのねぐらだから魔物が少なかったという話なのかも」
「どうだろう、この合成獣は見た目の割に案外スマートだから、 こいつならこの穴倉程度なら多分普通に外と出入りできているだろうね、つまり、ヌシというよりは外からやってきたシェア希望者ってところ。 もっとも、穴倉には特に天敵と呼べそうな天敵もいないみたいだし、だから穴倉を見つけてそもそも出ようということ自体考えなかった可能性もあるけど。」
 フィリスとリファリウスはそんな話をしていたが、とにかく、こいつを片付けなければ先に進めなさそうである。
「そうだね。じゃあ、私がテキトーにあしらっておくからそのまま攻撃してもらってもいい?」
 リファリウスはそう言うとフィリスは頷いた。

 リファリウスは魔法剣技を展開し、やつから力を奪い取っていた。 その技は”サークル・ドロー”とかいう技で、相手が行使しようとしている技を妨害するための技である。 具体的には標的自身とその周囲の魔法等の力の源となるマナ・エネルギーやらエーテルとも呼ばれる力を奪い取り、 自分の力に転換するという技である。 こういった能力である都合、魔法の力を借りて攻撃をする使い手、 特にリファリウスにとっては同業者となる魔法剣士などに対してはめっぽう強いという特徴がある。 もっとも、リファリウスが敵と正面からぶつかったとしてもそもそも負けるということ自体はなさそうだが。
 そしてフィリス自身も――
「合成獣だかなんだか知らないけど邪魔すんじゃねぇ!」
 彼女は得意の格闘術を駆使して大剣を振り回し、敵をギタギタに斬りさばいた。 その後ろからティオが魔法による援護を含んだ応援をしていた。

 合成獣を始末した後、フィリスとティオは自分の持てる力の大きさに改めて驚いていた。
「私はって一体何者なんだろうか?」
 すると、リファリウスが答えた。
「そういえばフィリスに似たような人を見たことがあったね。」
 えっ、誰? フィリスは訊いた。 だがしかし、リファリウスはその時、何故か暗い表情になったことをフィリスは見逃さなかった。 えっ、どうしたのだろうか、そう言おうとするとティオがリファリウスの顔を覗き込んでいた。 すると、リファリウスは我に返った。
「ああっ、ごめんごめん、今はそんな話はいいよね。 それよりも先に目的を果たしてしまおうか。」
 なんだったのだろうか、だけど、何かがあったことは違いない。 そのため、この時に訊きたかったことについてはまたの機会にしようかと考えたフィリスだった。

 問題の”生命の泉”らしき場所へとたどり着いた。
「この泉がそうかな?」
 フィリスは首をかしげながら言うと、リファリウスは答えた。
「多分ね。さあティオりん、卵を沈めてみてよ。」
 ティオは頷くと、恐らく飛竜の卵であろうそれを泉の中へとそっと沈めた。
「飛竜といえば、あとは竜騎士がそろえば、だね。」
 確かに飛竜と言えば竜騎士だが、 合成獣にこの泉とこの卵に竜騎士ときたら、まさにどこかで聞いたよう話そのものにしかならないだろう、 具体的に何というのはこの際言及しないことにして。 しかし、竜騎士といえば――
「ねえ、あんたは、竜騎士と違うの?」
 フィリスは出し抜けにリファリウスにそう訊くと、リファリウスは少し考えてから答えた。
「そうなんだ、何か重大なことを忘れている気がする、何か、とても大きな何かなんだ。」
 リファリウスと言えば魔法剣士の能力を持っているのと同時に、 竜騎士のように大空へと飛び上がり、空中からの必殺の一撃を与えるスカイ・アタッカー系の技の使い手でもあった。 もしかしたらただのスカイ・アタッカーではなく、竜騎士か何かなのかもしれない。