アリヴァール島のこんな町はずれの場所に何故呼び出したのだろうか、
フィリスはリファリウスにその理由を訊くと、やはりティオが大事に抱えている卵についての件だという。
そして、そのカギとなるのが”生命の泉”と呼ばれるものなのだそうだが、
問題はそれがこのアリヴァールの地のどこにあるのか、ということである。
エンブリア創世記には”生命の泉”というものがあるような内容が記されていたが、
どこにあるのかまでは記されておらず、未だに発見さえもされておらず、あくまで伝説の存在だとして言われているのだという。
しかし、リファリウスはこの島のどこかにあると考えているらしい。
2人から”卵”の話を聞いた時に”生命の泉”のことをふと思い出し、今回の冒険が実現したのだそうだ。
”卵”と”生命の泉”――なるほど、そういうことか。どういうこととはとりあえず言わないことに。
アリヴァール島はセラフィック・ランドの北西部に位置している島で、横に細長い形をしている。
ただ、そのほとんどが未開の地で、どこに何があるのかというのが未だによくわかっていない。
森林が多く、また、海岸線も切り立った崖が外界からの侵入を容易にしてくれないというのが未解明たる主な原因らしい。
今の世にしては珍しい、まさに、最後のフロンティアなのかもしれない。
「しかし、こんな変なところに、本当にその”生命の泉”なんてあるの?」
フィリスははリファリウスに訊いたが、意外過ぎる返答が――
「いや、実はよくわからないんだ。」
わからんってどゆことだ、フィリスは呆気に取られていた。
”ある”という確信をもってここにいるということじゃあないのかい! フィリスはそうつっこまざるを得なかった。
「確信はないけど、根拠はある。ネタ元はシオラさんから聞いた話なんだけど、
この辺から、なんか、そういった類の力を感じるとかなんとか訊いたから、
調べてみる価値はありそうだなと思ってね。」
シオラといえば、フィリスやティオ、そしてリファリウスとは似たような境遇の持ち主で、
彼女は”フェアリシア”という島で過ごしていたことがあったという。
リファリウスが”フェニックシアの孤児”であれば、さしずめ、彼女は”フェアリシアの孤児”と言ったところだろう、
要するに、特にリファリウスとは似たような境遇なのである。
なお、フィリスとティオについてはわずかな期間ながら一応面識はある。
「ということで、何のあてもない旅をするぐらいなら、
そういう情報の真相を解明するのを目的にすることを前提にしようと思って、
フィリスとティオりんをここに呼んだということなんだよね。」
「ま、当てがないよりはマシということね」
リファリウスの言ったことに対してフィリスは頷いた。リファリウスは話を続けた。
「やっぱり、生命を吹き返すほどの泉がある場所なんて伝説があるとしたらセラフィック・ランドのどこかぐらいしかないかと思ってね、
じゃあ、一番未開の地が広いアリヴァールならどうかって思ってさ。」
確かに、それには一理あった、何といってもセラフィック・ランドはエンブリア創世神話におけるメインの舞台となる土地であり、
神聖なる聖地ともいえるような場所でもある。
生命の泉がそのどこかにあるというのは理にかなっているかもしれない。
そして、リファリウスの言うようにアリヴァールは未開の地だらけなので、探してみる価値は大いにあるだろう。
”生命の泉”でなくとも何かが見つかる可能性はあるハズだ。
なお、セラフィック・ランド外でほかの候補としてルシルメア大陸も広く、
未開の土地も相応にあるけれども、”生命の泉”自体はリファリウスの中では心当たりがあった。
もっとも有力なのは該当の場所はプリズム族の聖地のため、早い話、人の力で作られたものになるわけである。
しかし、それに頼るのはその泉のパワーを激しく消耗することにもなり、プリズム族にも迷惑がかかりそうだ。
つまり、流石に他所から持ち込んだ生命のためにそういった場所での使用は避けるべきだろう、
天然にパワーが湧き出てくる泉を使うべきだろうと考えたのである。
とりあえず、話を戻す事にしよう。今回アリヴァールで探そうと考えたのにはもう一つの理由があるのだという、それは――
「私のカンでは、シオラさんが力を感じたというぐらいだからフェアリシアに近い方向にあると思う。」
最初にも言ったように、アリヴァールは横に長い島で、彼らの現在地は上陸地点付近である島のほぼ中央、
アリヴァールの町もそこにある。
言い換えればそれだけ開拓されているハズの島なのに、島の西側はそれなりに開拓は進んでいるが、
東のほうはほとんど進んでないのだという。フィリスはその理由を聞いた。
「フェアリシアと同じ理由だよ、エンブリス創世神話では割と重要な土地という側面があるから、
セラフィック・ランド連合国で過度な開発は禁止という法令が定められているんだよね。」
事実はともかく、とにかく、聖地であるという理由から手が付けられていないのだそうだ。
なお、フェアリシア島はアリヴァール島の東にあるため、まさにフェアリシアに近い場所である。
しかし、リファリウスはとあることを懸念していた。
「どうかした?」
フィリスはリファリウスの表情を見るや、なんだか表情が良くなかったので訊いてみた。
「いや、フェニックシア大陸とエンブリス島が消滅しているからね、ここも時期に消滅されるんじゃあないかと思ってね――」
言われてみればそれもそうだった、言うように、この時にはフェニックシア大陸とエンブリス島が消えていた、
セラフィック・ランドがすべて消えるだろうという根拠はないが、一部ではまことしやかにささやかれている噂だった、
となると、この島で今やろうとしていることは――それを考えるとなんだか複雑である。
「とはいえ、消滅が確定したものでもなければ、万が一消滅したとしても何らかの方法で復活可能なのかもしれないから、
別に気にする必要もないかもしれないけどね。」
セラフィック・ランドがすべて消えるだろうという根拠はないのでまさにその通りではあるが、
復活可能というのがわからなかった。
だけど、フィリスも考えた――こういうのはどちらかというと自然現象で消えているとは考えにくいハズ――
例えば、意図的に消えている場合とか――そういう場合はもしかしたら何らかの手段で復活可能なんじゃないかと。
話が脱線気味だが、とりあえずそんなことはどうでもいい。
とにかく3人は、アリヴァールの東で”生命の泉”があるのか探すことにした。
「それにしてもどこよ、その”生命の泉”て。具体的な位置とかわかんないの?」
フィリスはリファリウスに訊いた。
言い出しっぺだからということもあるが魔力的な能力もリファリウスのほうが長けているところが大きい。
「うん、それなんだけどね、ちょっと気になるところがあるからそこに行ってみようかなと思って。」
その答えはまさかの”ただのカン”だった。しかし、こいつのカンはよく当たる、
フィリス自身も少し前に再会した折にもそれに助けられたこともあるし、
フィリスはもとより、そこいらの女よりもよっぽど当てになるリファリウスの”カン”、
フィリスとしてはそれに乗っかっていくのもありだろうと考えた。
そして、その場所にたどり着いた。
「こんなところに洞窟があんのね。目的の泉は地下にでもあるの?」
フィリスはそう訊くと、リファリウスは答えた。
「わからないけれどもその可能性はあるね。
というか、アリヴァールって、こんな洞窟がいくつかあって、よくわからないけれども入り口がどれも妙な感じだ。
でも、この下から何となく強い生命力のそれを感じるし、もしかしたら、どこぞの合成獣が守っているのかも知れないねぇ。」
どこかで聞いたような話かもしれないが、この際捨て置こう。リファリウスは話を続けた。
「まあ、冗談はさておき、洞窟に行こうかね。ティオりんは洞窟は平気だったかな?」
リファリウスは手を出すと、ティオはリファリウスの手をつかんだ。
平気そうだが、ティオとしてはリファリウスにくっついていたい気持ちのほうが強そうだった。
お前はリア充か。