そして、フィリスとティオは旅を続けているうちにとある発見をした。
ソニーエ島を散策した後にセラフィック・ランド連合国第7の島であるコナンド島へとやってくると、そこでも遺跡を発見した。
ソニーエ島の遺跡とは似たようなものだったが、コナンド島には卵らしきものを見つけたのである。
ただ、それを見つけた以外には特にこれといった特別なエピソードもなく、その時を満喫しただけにとどまる。
なお、ティオによれば、その卵は生きているようだが石のように冷たく硬く、どうしようもない様子のようだった。
いろいろ考えたが、例のあいつは必要な時に呼んでもらうといいと言っていたので、この際、頼ることにした。
サイズは小さいが、もしかしたらドラゴンの卵か何かかもしれない、そいつは以前に卵を見せた当時にそんなことを言っていた気がするが、果たして――
「ここだって言っていたけど……遅いな、あの特別執行官――」
フィリスとティオはアリヴァールと呼ばれる、
セラフィック・ランド地方の第5都市である港町のはずれにたどり着き、
例の特別執行官に指定されたその場所で待ち合わせをしていた。
なお、アリヴァール島はセラフィック・ランド地方の中でもそこそこに大きめな島である。
そして、待ち合わせの場所と言えば……何故か町はずれの場所。
とはいえ、人通りが少なく――ということは面倒も少ないから、
フィリスとしては待ち合わせの場所としては最適だと思っていた。
しかし、それでも面倒はつきものだった。
「よう姉ちゃんたち、こんなところで何やっているんだ?」
……また出た、ゴロツキ。
最初にいたソニーエでも、そして、実はコナンド島でも遭遇したが、
どちらでも軽くあしらえるレベルの敵でしかなかった。
それにソニーエと言えば――ことフィリスにとってはろくな思いでしかない。
「わざわざこんなところで待ちぼうけか? 物騒だなぁ、いけないなぁー」
ゴロツキの一人がそう言うと、フィリスは得意げに答えた。
「あんたらさぁ、わざわざこんなところで待ちぼうけしている女が、
得体の知れないやつだとか疑わないの?」
すると、ゴロツキは間髪を入れずに答えた。
「んなこた知らねぇよ。そんなこと気にしてたら今頃こんなことやってねえって」
確かに! フィリスはゴロツキにしては的を射た発言であることに感心していた。
「ん? こっちのお嬢ちゃんは何者なんでしょうねー」
ティオはフィリスの後ろにすぐさま隠れた。
「この娘? この娘は召喚士。
あんたらなんか一撃でぶっ飛ばしちゃうから、ちょっかい出さないほうがいいよ」
「へぇ、そりゃすげーな」
バカにして聞いてないのは百も承知だったフィリスだが、無論、最終通告である。
「まあ、なんだ、四の五の言わずに金目の物を全部おいていけ。それとも、力づくで身ぐるみ剥いだろうか?」
「そうだなぁー、女もいい感じだから、十分楽しめそうだなぁ、ええ?」
フィリスはため息をつきながら答えた。
「あほらし。とにかくなんでもいいけどさ、ケガしないうちに、早く帰んな」
「おお、言うねえ。だけどな姉ちゃん、俺らさ、わかる? こっちは男7人なわけ。
姉ちゃんたちは女2人、男7対女2なのよ、わかる?」
「は? ああ、7人だったの、てっきり70人以上いると思ってた、
ほら、昔から言うじゃない、雑魚ほど群れたがるって。
まさにあんたたちにぴったりの言葉なんじゃないかと思ってさ」
ゴロツキはとうとうキレた。
「このアマ! 構わん! やっちまえ!」
フィリスはすぐさまゴロツキの振りかぶった一撃をかわした。
そう、キレているのはゴロツキだけじゃない。
「だから! 私は親切でさっさと帰れって言ってやってんの!
言ってもわからないのなら今すぐシバいたるわ!」
フィリスは盗賊70人……じゃなくて7人を殴ったり蹴ったりドツき回したり蹴とばしたり、
とにかく憂さ晴らしに皆殺しにした……いや、殺しはしなかった、彼女にそういう趣味はない。
「ほい、次!」
70人ぐらいいるつもりで戦っていたフィリス、7人で打ち止めだったことをすっかり忘れていた。
「こっ、この女、化け物だ――」
「だから言ったでしょ。わざわざこんなところで待ちぼうけしている女が、
得体の知れないやつだって疑わないとこういう目に合うって」
……いや、こういう目に合う、とまでは言わなかった気がする。
「さて、ティオ、ちょっと場所を変えよ――」
ティオはしゃがみながら、草に止まっている蝶々をじっと眺めていた――
そのため、フィリスは察してティオをそのまま見守っていることにした。
しかし次の瞬間、ティオはすっくと立ち上がり、後ろを振り向いた。誰かが後ろからやってきたのだ。
「ティオ! 元気してたかな?」
ティオは笑顔で、その人物のもとへ甘えに行った、例の特別執行官である。
「よーしよしよしよし♪ ティオは相変わらずかわいいなあ♪」
特別執行官は甘えてきたティオの頭をやさしくなでていた。
「この殺人現場の首謀者はどこにいるのかな?」
特別執行官は周囲の状況を見渡して言うと、ティオはフィリスのほうへ指をさした、
首謀者って私ゃ殺人鬼かか何かか――フィリスはそう思った。
「遅い!」
「ゴメンゴメン、アリヴァール行の船になかなか乗れなくてさ、遅くなってすまぬ。」
「まあ、しゃーないけどさ。ところで、その姿で行くの?」
「うん、とりあえず、今回はこれでいい。その、なんていうか、いろいろとあってね」
「そう、だったら、もうちょっとバリエーション考えておけばいいんじゃあないの?
せっかく便利な技持っているんだし」
「まあね。でも、とりあえず、今回はこれで行く。」
そんな話をしつつ、とりあえず次の旅が始まるのである。
そう、このクラウディアス王国特別執行官はリファリウス=シルファーヌ、
自他共に認める変なやつだけど、フィリスもティオも信頼している友だった。