エンドレス・ロード ~ティル・ジ・エンド・オブ・ザ・ワールド~

悠かなる旅路・精霊の舞 第3部 黄昏の入り江 第5章 もう一つの軌跡

第77節 境遇の似た者

 署長は部下と一緒にその人物と個室で話し合っていた。 なんだかもめているようで時間がかかっていた。
 そして署長に連れられ、フィリスとその少女のいる取調室へと案内された。
「ここです、こちらにいます――」
 署長はそう言って促すと、特別執行官というやつが部屋の中に入ってきた。
「なるほどね、確かに2人、なんだろう、片方はなんとなく見覚えのある顔だね――」
 特別執行官がそう言いながらフィリスの対面のイスに座った。
「は? 見覚えあるって、あんた誰よ?」
 フィリスはつっけんどんにそう言い返した。 でも、何故だろう――どこかで見た気がする、フィリスは不思議な感覚にとらわれていた。
「この2人で間違いないですか?」
 署長はイラつき気味にそう言うと、特別執行官は頷きながら言った。
「ええ、この2人に間違いないですね、確かに、行方知れずになったとされる我が国の民たちに間違いないですね。」
 すると署長はもんくを言い始めた。
「しかし残念ながらそう簡単に返すわけにはいきませんな。 先ほどもお話した通り、この娘は先ほどこの私に暴力をふるったのですよ? つまりは公務執行妨害!  しかし未成年ですので、少年法の下に裁かれることになりましょう、 その場合は当然このソニーエの自治区内にて身柄を拘束させてもらいます!  当然、特別執行官がどうしてもというのであれば、あなたもソニーエにしばらく滞在してもらうことになります!」
 それに対し、特別執行官が得意げに言い返した。
「やむを得ませんな。 しかし、私の見たところ、この娘は――未成年ではないですね。 というより――私には2人とも成人しているように見えますが?」
 すると、署長も得意げに言い返した。
「何をおっしゃる?  誰の目から見ても子供にしか見えませんが――まあ、そんなことはいいでしょう。 それに未成年ではないということであれば猶の事返すわけにはまいりませんし、 こちらとしても好都合です、この少女……いえ、この女性には公務執行妨害が適用されますからな!」
 そして、特別執行官もやっぱり得意げに言い返した。
「さて、どうですかね?  彼女が暴力をふるってしまったことについては何とも言いようがありませんが、 しかし、それ相応の理由がありそうですので、 私としてはそれを聞かないことには判断できませんね。」

 特別執行官とフィリスと少女は3人で話をしていた。
「さて、困ったことになったけれども――まずは名前から聞こうか?」
 特別執行官がそう言うと、フィリスはこれまでの話をもとに言い返した。
「は? それを知っててここに来たんじゃあないの?  言っても私らは迷子でも家出でも何でもないから誰も探しているハズがないんだけれどもね。 だいたいどうして大国のお偉いさんが私らなんかを探しているのよ?」
 すると、特別執行官はフィリスの目をじっと見つめながら言い返した。
「いい質問だね。 それが実は――キミらの置かれているこの状況と私の以前の状況とがかなり似ていてね、 それで見捨ててはおけないと思ったんだよね。」
 特別執行官はさらに話を続けた。 フィリスらがここにいることを突き止められたのはまさに偶然だったという。 その種を明かすと、ここ数日の間にクラウディアス側に迷子のリストに対するアクセスが頻繁にあり、 それをたどったらソニーエだったということらしい。 ソニーエ自治区のお偉方にあたってみると、直接その場所に行ってみてほしいと言われたようだ。 なお、エンブリアでアクセス解析なんていう手法はあまり行われていないため、 今回の話についてはソニーエ自治区のお偉方も寝耳に水だったようで、 直接その場所に行ってほしいという話になったのだそうだ。
「さらに調査したところ、ここから各国に迷子のリストを要求しているようだったから、 もしかして私みたいな境遇の人がいて、手当たり次第に探っているのかもしれないなって思って電話してみたら―― キミらがいるっていうから直接会って確かめてみたくなったんだ。」
 そういうことか、フィリスは納得した。 この話の様子はここの署長たちにも知られているのだが、それについては特別執行官も同意している。 そもそも署長たちには何の話なのかちんぷんかんぷん、特別執行官もそれを見越している感じである。
「で、私らがその、あんたと同じ境遇の人物なんじゃないかってこと?  言っとくけど、同じ境遇とは言えないと思うよ、なんたって、私らは――」
 フィリスはこれまでのことを洗いざらい話した、と言ってもそのボリュームは少ない、 少ないため一気に言い切った、もちろん森で人さらいたちを一蹴したことはここでは伏せたが。すると――
「なるほど! やっぱり私の状況にも似ているね!  以前のことは何も思い出せずどうしてここにいるのだろうか、 発見した人は自分を子供扱いするのだが、そういえば自分って成人していなかったっけ?  そして――場合によっては一戦を交えていて、相手を軽々とノックアウト上等――」
 そう言われたフィリスは驚きながら立ち上がった。
「なっ、なんで知ってるの!?」
 それに対して特別執行官が答えた。
「えっ、一戦交えたんだ? でも、もちろん周りの魔物は弱かっただろう?」
 弱かったと言えば確かに弱かったかもしれない。 魔物というか、5人の男を一度に相手にし、しまいには1人ずつ蹴りを何度も入れたんだ、 自分にはそれだけの力があったというのは間違いないが、 なんとなく空気感からあいつらはたいして強いやつではないことを悟っていたため、 自分が強いかどうか、周りが弱いかどうかというよりは、自分ならできるだろう程度の認識でしかなかったのである。

「フィリス=スカリアよ、よろしく――」
 フィリスはそう言うと特別執行官も言った。
「あっ、そういえばゴメン、忘れていた。 私はリファリウス=シルファーヌっていうんだ、リファリウスでいいよ、よろしくね!」
 すると、リファリウスは少女のほうに顔を向けた。それに対し、フィリスは――
「あっ、この娘は――」
 しかしリファリウスは答えた。
「そっか、なんだか複雑な事情がありそうだ。 この娘はティオ=ブランディルという名前らしい、見た目も可愛いけれども、名前も可愛いね!」
 それに対し、2人は驚いた。
「えっ、どうしてこの娘の名前を!? 知っていたわけではないんでしょう?」
 リファリウスは気さくに答えた。
「恐らく、この娘は召喚士の心得を持っているのだろう、 だからなのか、”獣”を呼び出す特有の波長が私にも伝わってきてね、 そしてこの可愛い表情――この2要素だけで何が言いたいのかなんとなく伝わってくる気がするんだ――」
 確かにこの娘は召喚獣を呼んだ、それによってそんなことがわかるのか、フィリスは驚いた。
 そして、リファリウスとティオとが何やらコミュニケーションをとっていると2人は打ち解けあい、そして、フィリスも――
「そう――ティオがそういうつもりなら私もあんたに賭けてみるよリファリウス。 さあ、理不尽な状況に追いやられている私たちをどうやって解放する気?」