朝になり、フィリスと少女は目を覚ますが特に自分の目的も定まっておらず、
とにかく優雅な一日を過ごすしかなかった。
ソニーエは島となっており、脱出するには定期連絡船に乗るしかなさそうだったので脱出することも考えたのだが、
それよりも自分たちはどうしてこの島にいたのか、そればかりが気になっていた。
少女についても何故言葉を失ったのか、もしかしたらこの島に秘密があるのかもしれないとも考えられるため、
フィリスは気晴らしにこの島を散策しようじゃないかと提案を持ち掛けると、
少女はただただニコニコと笑顔で答えるだけだった。
とにかく、フィリスたちはソニーエ島について調べてみることにした。
しかし、人さらいみたいなのが何故この島にいるのだろうか、それはそれで気になっていた。
できればあいつらに遭遇するのは嫌だなと思ったフィリス、少女としてもそれは同じだった。
人さらいについては既に前日のうちに情報を集めていたが、
ソニーエ島はおろかセラフィック・ランド全域に出没する盗賊団というのがいて、その一味なのではと見られているようだ。
そのため、ソニーエ島でも注意喚起がなされていた。
「そこの! 待て!」
町を出歩き、街道方面へと向かおうとしたとき、警備の者らしき人物に呼び止められた、
昨日町へと入ってきたときは見かけなかったのに。
「昨日、このソニーエ島内で人さらいによる誘拐事件が起きた。
この町から出るのは危険だ、だから町から出ないで家に帰りなさい!」
なんとか適当にあしらおうと考えたフィリス、この町は散策しつくした、
だから町の外に出て情報を得ようとするのだが――。
「何を言っている? この島にはソニーエ以外には町はない!
だから外に用事などないハズだ! だいたいなんなんだお前たちは!」
別に行先は町でなくてもいいのだが、このままでは外に出られそうにもない。
そもそも、人さらいが出ようが何しようが昨日の通り、そこまで障害ではないのだが、流石にそんなことは言えなかった、もちろん、出会わないに越したことはないのだが。
それにお前は何だと言われても――フィリスは説明に困り、どう答えるべきか悩んでいた。すると、その様子を見ていた警備は、
「やっぱり家出ということだな!」
なんでそうなるんだよ! フィリスはそう言わずにはいられなかった。
しかし、この頑固な警備を前にもはやどうしようもないと悟ったフィリス、
渋々諦めようとするも、そこへ別の警備の者が現れると何故か補導されることになった――
「で、キミのおうちはどこにあるのか教えてもらおうか?」
どこかの個室にて、フィリスは何度も同じ問いを繰り返し聞かされる羽目になった。
「家なんかわからないわよ! だからこうやってソニーエ島から探そうとしてるの!」
「探す必要はない、今、迷子の届け出がないか確認しているから、
数日中にはキミたちの親御さんのもとへ送り届けられるだろう、安心していい。
だから一刻も早くキミたちを心配している家族のもとに送りたいから、
何か教えてくれないか?」
フィリスは完全に子ども扱いだった。もはや完全に話を聞き入れてもらえない。
「だから、わからないって言ってるでしょ!」
「やれやれ、どうしても話してくれる気はないようだな。学校は――ルーティス学園の子だろ?
ソニーエには大きな学校はないからね。
大人をバカにしちゃいけない、何も言わなくてもすぐにわかるのだよ。
そう、今だってルーティス学園に掛け合い中さ、キミらの身元はすぐに割れる、
大丈夫、ちゃんと両親のもとへ返してあげるから、それまで一緒に話をしようじゃないか」
フィリスは頭にきて、もはや何を言うこともしなくなった。
そもそも相手が何を言っているのかさっぱりわかっていない。
それから3日後――
「で、私たちはいつになったら帰れるわけ?」
フィリスはそう言うが、返事は相変わらず、
「大丈夫、きちんと両親のもとへ返してあげるから、もう少し待っているといい」
だった。だが、彼らの余裕そうな態度は初日とは雲泥の差だった、
それは――少女と一緒に部屋で待っていると声が聞こえてきた。
フィリスに尋問していた上司の人が部下に対して激しく叫んでいた。
「何をしているんだ! あの子たちを早く送り届けてやらんか!」
「いえ、その、それが――どうやらルーティス学園の子らではないようなのです――」
「学園の子でなくても迷子届が出てるだろ、きちんと確認してないのか!?」
「もちろん、確認はしています!
ですが、どちらの子も届け出のある子どもとは特徴がまったく一致しませんで――」
「ソニーエ自治区だけでなく、すべての自治区から探しているのか!?」
「当然です! セラフィック・ランド内だけでなく、
エネアルド、アルディアス、ルシルメアにグレート・グランド、
あのクラウディアスも対象に含んで探しています!
ですが、どの子もそれらしい特徴は該当するのですが、
あの独特の髪の色の条件が加わると、どの届け出の条件ともまるで一致しないのです!」
なるほど――そう言うことか、上司の人は思い立ってフィリスのもとへとまたやってきた。
「な、なによ――」
フィリスは身構えながらそう言った。
「お前、頭を洗ってこい!」
はっ!? フィリスは耳を疑った。
「言っただろ! 大人をバカにするもんじゃないと! さあ、その髪の色を落としてこい!」
それには流石にフィリスもキレた。
「髪の色を落としてこいって何よ! これは地毛なの! 正真正銘の私の髪!
大人をバカにするもんじゃないっていうけど、そもそもその大人がバカじゃあ仕方がないでしょ!」
すると、相手はカッとなってフィリスの髪をわしづかみにした。
「痛っ! ちょっ、ちょっと!」
それに対し、フィリスはそいつの腹にきつい一撃!
「ぐばぁあっ!」
「何すんのよ! 今の暴力でしょ、暴力!」
それに対し、相手は鼻から出た血をぬぐいながら言った。
「くっ、今のは公務執行妨害だ! だがお前たちはまだ未成年――つまり、少年法が適用されるわけだ――」
はぁ!? 私が未成年だって!? フィリスは耳を疑った、私のどこをどう見れば未成年だって!?
だけど、フィリスには思い当たる節があった、なんだか知らないけれども、いまいち自分の姿がしっくりこないのである。
自分の中では既に成人しているつもりなんだけれども、毎朝ないし、その都度自分の姿を見るや、
自分ってこんなに子供だったっけと思うこともあった。
だがしかし――そんなのはあくまで気のせい、これまでずっとそう思っていたのだが、
ここへきて、相手にもやっぱり自分の姿はそう見えるのだなと確信した。
それこそ、ここに連れてこられるまでの一部始終――
おそらく子供だから補導され、子供だから迷子なんじゃないかって話になっている気がする。
もしかしたら、この少女も自分ってこんなに子供だったっけって思っているのだろうか――
とはいえ、今は言っている場合ではない、この男が――
「この非行少女め! 今からお前にふさわしい場所を教えてやる!」
すると、署長は警棒を構えながらフィリスを睨めつけていた。
この状況は明らかにまずい――フィリスは臨戦態勢で覚悟した、だがその時――
「署長! お電話です!」
部下が慌てて駆けつけてきたが、
「後にしろ! 今はこの娘を捕らえるのが先だ!」
そう言って返した、だが――
「いえ、それが――その娘たちについて話がしたいということでお話が来ています。
それに――電話の相手は先ほどお役所からもうかがっていた”クラウディアスの特別執行官”を名乗る人物で、
あと数分後にこちらにお見えになるとのことです――」
そう言われると署長は驚いていた。