以前の話――
「ここは――どこよ――」
フィリス=スカリアは前人未到とも呼ばれるような大地で倒れており、そして気が付いた。
周囲を見渡してもそこは鬱蒼と生い茂った木々ばかり、どういう状況なのか全く見当もつかなかった。
何故自分がその場にいるのか一切わからず、目的も失っていた。
「なんか、変なの――」
フィリスは立ち上がり、服装の土ぼこりを払うと、首をかしげながらそう言っていた。
しかし、肝心なことであるはずの自分の居場所さえもわからかった。
そんな中――茂みの奥から物音が!
「何!? 誰!?」
しかし、それは少なくとも何者かが自分を狙っているような物音ではなさそうだった。
だが、嫌な予感がしたので、フィリスは慌ててそちらの方向へと駆け寄った、そこには――
「なあお嬢ちゃん、どこから来たのかなぁ?」
「うへへへへ!」
少し遠めに、1人の少女が薄汚い男4人に襲われている光景が見えたのである。
少女は小さく、怯えたような感じだった。
「えっ、ちょっと! やばいやつ!」
フィリスは慌てて少女のほうへ駆け寄ろうとするが、草木があまりにも生い茂っており、
思うように少女のもとへ進めなかった。
「なあお嬢ちゃん、俺たちと一緒に遊ぼうぜ!
俺たちがお嬢ちゃんの行きたいところに連れてってやるからさ!」
男たちが少女に迫っている、
フィリスは一刻も早く少女のもとへと駆けつけようとしているがなかなか距離が詰められない、ここままでは手遅れに――
と、その時!
「ふへへへへ! お嬢ちゃん捕まえたぜ!
さあ、いい子だから大人しくしてくれよな、そしたらお嬢ちゃんにいいところへ連れてってあげるからさ!」
なんと、少女の後ろからまた一人薄汚い男が現れた! 絶体絶命!
ところが――
「さあお嬢ちゃん、俺たちと一緒に――」
その時、少女の足元から何かが飛び出してきた!
「なんだぁ?」
それは、美しい黄金のたてがみのような毛色を持った大きな犬だった。
「こっ、これは一体なんだぁ!?」
なんとか近くまでやってきたフィリス、その犬の存在に驚くことになった。
「まさか幻獣? てことはつまり――あの娘、召喚士ってこと?」
それに対して男たち、
「なっ、なんだよ、それが何だってんだ! 要はお嬢ちゃんを捕まえればいいだけの話なんだろ!?」
うろたえつつも、それでも諦めない様子――ただの悪漢というよりかは人さらいなのかもしれない。
そんな状況の中、少女は犬を巧みに操り、男たちをいなしていく。
そんな中、1人の男は頭に血が上っていた。
「このクソガキ! 下手に出ればいい気になりやがって! もう容赦しねぇ!」
すると、その男は先端に鉄球のついた鎖をぶんぶん振り回し始めると、それを少女めがけてはなった!
「フヘヘヘヘ! 捕まえたぜー!」
だが、しかし――
「なっ、なんだぁー!?」
その鎖はフィリスの剣に絡みついていた、そう、フィリスが少女をかばったのである。
「まったく、女の子1人に対して男が5人――みっともないわね、何をやっているのかしら?」
フィリスは得意げな顔でそう言った。それに対し、
「んだよ、もう一人いたのか、
しかもこっちはもっと高く売れそうじゃねーか、今日はついてるぜ♪」
男は浮かれていた。そこへ、別の男が――
「確かにいい感じだぜ! そうと決まったら早速捕まえようぜ!」
男たちはフィリスめがけて次々と投げ縄を放った!
「あひゃひゃひゃひゃ! いたたきだぜー!」
フィリスは手首と足首を捕まえられてしまった! ところが――
「へえー、この程度で私を捕まえたとかずいぶんと面白いこと言うじゃんか。
でもこの女、すぐに暴れるから捕まえておくのなら身動き取れないようにしておくことね――」
フィリスは不敵な笑みを浮かべながらそう言った。
そういう彼女に対し、男たちは――
「おいおい、何言ってるんだあ姉ちゃん。
姉ちゃんはもう俺たちに捕まったの、だから大人しく言うことを聞くしかないのよ、
わかるかーい?」
馬鹿にしたように言った。するとフィリス、呆れたような態度で言った。
「大人しく言うことを? 全っ然意味わかんないんですけど――
まあいいや、なんだか知らないけれども――とりあえず、この鎖と縄を解きなさいよ。
それと、その子からも離れなさいよ、そしたら今なら許してやるから――」
しかし、男たちは当然――
「アハハハハ! こいつは傑作だぜ! 許してやるだとかどの口が言ってんだよ!
こんな状況で自分が優位に立っていると思い込んでやんの!
まったく、おめでたい女だなあ!」
ゲラゲラ笑い、フィリスをバカにしていた。
「まったくだぜ! だが、いいぜ、気に入った!
この際、ガキは興味ねえからこの女だけ連れていくことにしようぜ!」
「いやいや、ダメダメ。
あっちのガキも大きくなればいい女になること間違いなしだ、どっちも連れて行かななるめぇ――」
「だな! よっしゃ、お嬢ちゃんも一緒に――」
するとフィリスは再び不敵な笑みを浮かべながら言った。
「ほおー、私がわざわざ警告してやってんのにずいぶんと余裕ぶちかましてくれるじゃん。
そこまで地獄を見たいってんなら叶えてやろうか――」
それと同時に、フィリスの周囲にはなんだか妙に強烈な威圧感が発生した!
「なっ、なんだこの女は!」
急に危機感を感じた男たち、フィリスを縛っているロープを引っ張ったが、どういうわけかびくともしない――
「くっ、どうなってるんだ、このアマ!」
すると、フィリスのほうから声が――
「はああああああああああ――」
それと同時にフィリスを中心に強烈な力場が集中する!
フィリスは勢いよく各鎖とロープを引っ張ると、
それぞれ捕まっていた男たちは身体を引っ張られ、思いっきり体勢を崩した。
「ぐあっ!」
「痛でっ!」
「うおっ!」
そこへさらにフィリスはそれぞれの男たちに何度も何度も蹴りを入れていた。
「私があんたらの言うことを大人しく聞けって? どの口が言ってるのよ? ええ!?」
「はっ、はい! すみませんでした!」
「許してやるってこの口が言ってんのよ? わかる? もっかい言おうか? ええ!?」
「はい! 肝に銘じました! もう言いません!」
「で!? 私はいくらで売れるって? ああん!?」
「いいえ! 滅相もない! あなた様を売り払おうだなんてとんでもございません!」
「女2人に対して男が5人! ほら! どうよ! 人様に言えること!? どうよ!?」
「はいっ! 人様には到底言えることではございません! 本当に大変申し訳ございませんでしたー!」
「ああ? これでもあんたらが優位だってのか? どうなんだよ、言ってみろよおい!」
「そうです! あなた様のほうが圧倒的に優位な立場でございます! ですからどうか、どうかお許しください!」
「確かに、女に蹴り入れられてついてるわな! オラオラオラァ! もっと欲しいんだろ!」
「いえ! もう十分でございます! もう、もう要りません! だから、だからごめんなさぁい!」
フィリスは完全にブチギレていて、男をそれぞれ泣かせるまで折檻……蹴りを繰り返していた。
「あの女! バケモノだ! 逃げろぉー!」
そして最後に男たちは一目散に逃げだした。
「ったく、バッカじゃないの?」
フィリスはため息をつきながらトドメの一言。そんな中、少女はフィリスを見てニコニコしていた。
「それよりもあなた、大丈夫なの?」
少女は笑顔のまま頷いた。