エンドレス・ロード ~ティル・ジ・エンド・オブ・ザ・ワールド~

あの日、すべてが消えた日 第1部 黄昏の章 第2章 邂逅の刻

第10節 ティルア団とガレア軍の結束

 クラフォードたちが目覚めたのはティルア自衛団の本部内、 いつぞやのイールアーズがお世話になったことのある救護室の中だった。
「はっ、ここは!?」
「あら、やっとお目覚めね。」
 なんと、さっきまで敵対していた女が目の前にいるではないか! クラフォードは構えようとした――
「くっ、痛たたたたた――」
 クラフォードはしびれが激しく、思うように身体が動かせなかった。
「ま、そのうち治ると思うから、しばらくは安静にしていなよ。」
 そう言うリリアリスの傍らでディルフォードが起き上がていた。
「もはや情けをかけられるとはな。 にしても手違いであったとは、クラフォード、できればもう少し調べてから事を起こすことだな」
 手違い? そんな馬鹿な――クラフォードは考えた。するとリリアリスが言った。
「ごめんごめん、途中で事情が変わったのよ。 予定通りならここにリファリウスって男がくる予定だったんだけど、いろいろあって私が来ることになったってワケ。 連絡が追い付かなかったみたいね、まあ、ルシルメアからの出航直前のことだったんだし、さすがに難しいか――」
 一方のイールアーズはそのまま明後日の方向を向きながらそのまま寝ていた。

 ウィーニアが連絡を受けて自衛団事務所へと慌てて戻り、救護室でクラフォードたちの様子見に来ると、 そこにはリリアリスがいて3人の面倒を見ていたため安心していた。 というか、なんで安心する……クラフォードはそう指摘すると、どうやら彼女にとっては知り合いらしい、 なんだかとても親しそうに会話をしていた。
 そもそもとしてリファリウスもとい、リリアリスの用事についてはクラフォードではなく、 ウィーニアが担当しているものだった。
 そんなウィーニアに対してリリアリスは申し訳なさそうに言った。
「予定が変わったのにきちんと連絡が入れられずにごめんね――」
「いえ、こちらこそ直前とはいえ、見落としていたみたいでごめんね。 それにしても――お姉様の手にかかったらティルア自衛団なんてひとたまりもないんだなあ……」
 ウィーニアは愕然としていた。
「ティルアどころか、シェトランド人をも揺るがしかねない能力の持ち主だな……」
 ディルフォードがそう言うと、リリアリスはなんだか楽しそうに言った。
「ふふっ、仕返ししたいっていうんだったらこの際、いつでも請け合うわよ。」
 それに対してウィーニアは焦って訊いた。
「えっ、そんなことしちゃっても大丈夫なの、お姉様!?」
「別に構わないわよ。それに……」
 それに……リリアリスはディルフォードのそばに寄り添いつつ、楽しそうに話を続けた。
「こっちのシェトランドさんから是非にって言われたら、お姉さんいくらでもお相手してあげちゃう♪  無論、その場合も手加減しなくってよ♪」
 それと同時にディルフォードはなんだか危険な香りを感じ、顔が引きつっていた。
「確かに、ディルさんはイケメンさんだからその気持ちはよくわかります♪」
 ウィーニアもリリアリス同様に楽しそうに言った。 その光景にディルフォードは固まっており、クラフォードは冷や汗をかいていた。
 一方で、イールアーズは完全に無視していた。

 リリアリスとウィーニアはその場でそれぞれ適当な場所に座ると、話をし始めた。 だが、リリアリスのポジションはディルフォードの傍らから変わっていない、何故だ――ディルフォードは気にしていた。
「ウィーニアに言われてちゃんと探しといたわよ。」
 それに対してクラフォードが訊いた。
「何でもいいんだがそもそもこの女は何なんだ? リファリウスというか、ガレア軍の回し者でいいんだよな?」
 ウィーニアは答えた。
「もちろん、私たちにとっては頼もしい味方、で合ってるよ、それは安心してね」
 ティルア軍とガレア軍は結構早いうちに関係を結んでいるらしい。 ガレアはディスタード帝国だが、ルーティスの解放によって世界的に一定の評価を得られている、 それを証明したルシルメアの伝手をたどってティルア軍との接触に成功、それ以来の関係なんだそうだ。
 話を戻そう、クラフォードは頷き、話をした。
「話を割って悪かったな。で、探したっていうのは、何を探したって?」
 ウィーニアが説明した、それはまさかの話だった。
「うん、シオラたちが元気しているかなって、それでルーティスから立場的にも近いお姉様に訊いたんだよ!」
 それにはクラフォードも驚いていた。対し、リリアリスは彼女らの状況を答えた。
「シオりんはルーティスで勉強することにしたみたいね、 居候のような感じだけど、ガレア軍全面協力の下で学資金を用意して彼女の念願通り、大学コースで勉強しているわよ。」
 なんと、シオラは手厚い保護を受けている状況だった。
「おいおいおい、それはありがたいと言えばありがたいんだが、なんだかガレア軍を私有化してないか?  アール将軍っていうか、リファリウスはそれで縦に首を振っているのか?」
 リリアリスは答えた。
「別にシオりんだけじゃあないからそこは安心してほしいわね。 おかげでガレアの財政も厳しいものになっちゃったけど、 そんなこと気にしていたら本当にディスタードのガレアの評判は落ちるところまで落ちたままになっちゃうからね。 でも、幸いなことに、うちらのその行動を見てみるに見かねた国がいくつか賛同してくれてなんとか立て直せたわけだし、 ま、結果オーライってことに落ち着いてきたところね。 んで、ちなみにだけど、リファリウスは私の弟子だから私には逆らえないってワケ。 言うなれば、私こそがガレアの影の大ボスってところかしらね♪」
 マジか――クラフォードは頭を抱えていた。話を戻そう。
「シオりんは一生懸命勉強しているのね、彼女、マジメだったから……そっかぁ――」
 ウィーニアはそう言いながら安心していた。
「あとはディアナリスね、彼女もとにかく無事よ。」
「ディアナリスも元気なんだね。で、ローナは?」
 ウィーニアはそう訊くと、リリアリスは答えた。
「そうね、できれば一緒に来るべきだったわね。 でも、今はガレアがちょっと忙しくって手が離せなくてね――」
 えっ、それはどういうことだろうか、ウィーニアは改めて訊いた。
「ローナはシャト先輩のところにいるわよ。 そのシャト先輩なんだけど、ディスタード帝国軍に所属していたことは知っているわよね?」
 クラフォードが答えた。
「でも、シャトがいたっていうランスタッド軍ってのは解体したんだよな?」
 リリアリスが得意げに答えた。
「解体したランスタッド軍の兵士たちはすべてガレア軍が引き受けることになったのよ。 つまり、シャトは私と一緒にいるってワケ。 で、ローナはそんなシャト先輩を追いかけて、今では私らと一緒にいるのよ。」
 まさか、ローナフィオルは帝国軍に? ウィーニアは訊いた。
「早い話、そういうことになるわね。 もちろんシェトランド人だからそっちの線でも自分探ししてみるのはどうかって一応聞いたんだけどさ、 でも、自分はシャト先輩と境遇が似ているからこっちのほうがいいんだって言って訊かなかったのよ。 もちろん、そのうちシェトランド人の里に行くことも計画しているみたいだから、 その時はディル、あなたが案内してあげなさいよね♪」
 それに対してディルフォードが訊いた。
「なんで私なんだ?」
「なんでって、ほかにパイプがないからに決まっているでしょ。 それに、どーせならイケメンのあんたに案内された方が彼女だって嬉しいに決まっているでしょ♪」
 リリアリスは楽しそうにそう答えると、ディルフォードは頭を抱えていた、面倒くさい――
 そんな中、クラフォードはリリアリスに対して疑問に思ったことを聞いた。
「なんだかご苦労なことだな。でも、どうしてだ? なんであんたはそこまでするんだ?」
 リリアリスは考えながら答えた。
「それは私とあんたたちとは”黄昏の丘”でつながっているからよ。 ウィーニアから聞いたわ、その景色を。 私が見た”黄昏の入り江”というところと景色が似ていて、もしかしたら私たちと一緒かなと思うと、 なんだか他人事とは思えなくてね、それで二つ返事で引き受けることにしたのよ。」
 それを聞いたクラフォードは驚いた。
「”黄昏の入り江”ってフェニックシア大陸の!?  最近になって聞いたことがあるぞ、あれはウィーニアの話だったか――」
 それに対してウィーニアは得意げに答えた。
「うん、私もお姉様としていた話で聞いただけなんだけどね♪」
 ということはつまり、いずれにしても情報元はリリアリスということになりそうだ。 そして、クラフォードの話は確信へ。
「あんた、とどのつまりは”フェニックシアの孤児”なのか?」
 リリアリスは答えた。
「”フェニックシアの孤児”といえば確かにそうなんだけど、ちょっと違うわね。 それはむしろリファリウスのことになるのかしら。 私は彼らが現れる前にフェニックシアに一足早くそこにいただけ、 無論、”フェニックシアの孤児”と似たような境遇でね。 彼らと出くわす前にはフェニックシアは去っていたから、 直接のコンタクトがあるのはフェニックシアが消えたってことになるわね。」
 言うなれば、”隠れフェニックシアの孤児”といった感じのようだ。
 こういったこともあり、彼女……リリアリスやリファリウスが絡む事案となると、 グレート・グランドでは彼女らとティルア団との交流を生かし、全面的に彼らに任せるという決まりができたのである。