彼女にやられたあの3人が元気になると、彼女のお言葉に甘え、
「あの時の仕返し!」と言わんばかりに再びリリアリスに挑んでいた。
しかし、見事に返り討ちにあっていた。
そしてその後、ティルアの波止場から夕日を眺めながら佇む一人のいい女――もとい、
リリアリスのもとへと3人はやってきた。
「お前の強さ、どうなっているんだ?」
クラフォードは訊いた。
「さーて、知らないわね。 私はもともとこうだもん、頼られたこともあれば、バケモノ呼ばわりされたこともあるし。」
リリアリスはさらに拳を握りながら話を続けた。
「ま、そんなこと言ったって、私の力なんてまだまだよ、こんなんじゃ足りない――」
こんな力を持っててまだまだ足りないとは? ディルフォードは訊いた。
「まだ、強くなりたいと望むのか? これほどの力を持っておいて? 何故だ?
お前の強さを求める先には何があるんだ?」
すると、リリアリスは答えた。
「そんなことないわよ、私の持ってる力なんて、たかが知れてるわよ。
そうよ、そうじゃなきゃ――そうじゃなきゃ――」
と、何気に寂しそうにそう語るリリアリス、彼女はさらに話を続けた。
「私は――もう二度と失敗はしないよ。
そう、もう決めたんだから、二度と失敗しないための力を手に入れるのよ。
強さの先? そんなもん、特別何っていうのがあるわけないじゃないのよ。
私が求めるのはただの”二度と失敗しないための力”、それ以外の何物でもないわよ。」
まさに、リリアリスの過去に何かがあったことを示すエピソード、
あまりにも抱えているものが大きすぎて、とてもではないが一口では言い表すことができなさそうだ、
それは3人にもなんとなく伝わってきた。
「ならばついでに参考までに聞こうか。お前にとって、厄介な強敵がいたとする。
そいつとどうしても戦わなければならないことになった。そうした時、お前はどうする?
今、”二度と失敗しないための力”と求めると言ったが――その力でそいつに立ち向かうことができるか?」
と、イールアーズは意地悪な質問をしてきた。するとリリアリス、意外なことに簡単に回答を返してきた。
「はあ? 私にとって厄介な敵? そんなもん、いるわけないじゃないのよ。」
すると、イールアーズは訊き返した。
「いや、”例えば”の話だ」
しかし、リリアリス――
「そんなん、”例える”とかナンセンスなこと言ったって仕方がないじゃないのよ。」
「まあいい、答える気がないのなら、別にそれならそれでいい――」
イールアーズはそう言い捨てた。だが、リリアリスの真意は違った。
「あのさ、そもそも論として、一番厄介な相手ってさ、他に誰かがいると思って聞いてるでしょ?」
イールアーズは「はぁ?」と言って聞き返した。
「やっぱりね、だから私はいないって言ったのよ。
大体、自分にとって厄介な敵っていうのは”自分自身”でしかないんだからさ。」
自分自身が、厄介な敵?
「そうよ、自分自身が――もし、そいつに立ち向かえって言われたら――まあ、無理な相談だわな。」
無理? 戦えないのか? ディルフォードは訊き返した。
「当たり前でしょ。
自分自身が一番厄介と考えている人間に対し、それは流石に酷だと思うな、私は。
私はできるだけ、自分自身に挑むのは得策とは思ってないわね。だってそうでしょ?
(良くも悪くも)こんな傑作な性格をしている人間が世界にそんなにたくさんいたら困るでしょうよ?
そして、そんな人間に挑めっていうこと自体が残酷な仕打ちだと思わない?」
お前、自分のことそこまで言うかと3人は思った。
だけど、その後のリリアリスの行動や性格上、
そんなことを言っていたことの裏がだいぶ見えてきたのはかなり後になってからの話だった。
この時は、人にはいろんな事情があるんだな程度でしか理解していなかったが、
自らの存在と対峙する覚悟――このお転婆にして難解な思考回路を持つ理解不能な性格、
そうであるがゆえに、自分自身という存在をどのようにして攻略していくか、とにかく敵に回しにくいのである。
しかし、それを言われるとディルフォードやクラフォード、そして、イールアーズにも刺さるものがあった、
最大の敵は自分自身と言う言葉があるが、まさにそれがぴったりとあてはまるいい例である。
自分では良かれと思っているクセなどのちょっとした動作が敵に見破られると、それが弱みになるのである。
自分では意識していない動作そのものが弱点と言われると、それを正すのは結構難しい、習慣化しているからである。
そう思うと――クラフォードやディルフォードにイールアーズ、なるほど、対策するのはなかなか難儀なことである、
それこそ、自分のこれからを是正していく必要もあるかもしれないことにもなりかねない。
そして、それが命を賭した戦いになるとなおのこと――なのかもしれない。