エンドレス・ロード ~ティル・ジ・エンド・オブ・ザ・ワールド~

あの日、すべてが消えた日 第1部 黄昏の章 第2章 邂逅の刻

第8節 ティルア自衛団の仕事

 それから数日後、ティルアでは何気ない日常を迎えていた。 しかし、戦争の魔の手が近づいているのは明白なため、それに対してティルアの団員がそろって戦の支度をしている光景が広がっていた。
「なあ、本部から連絡がないんだが、どうなっているんだ?」
 クラフォードはそう聞くと、バフィンスが答えた。
「回線が混んでいるんだろ? アトラストの話じゃああちこちの支部には結構ひっきりなしに連絡が来ていたって言うぜ。 もっとも、うちには来ていないんだが――」
 クラフォードは手入れ中の剣を構えつつ、バフィンスを茶化すように言った。
「ティルア支部はバルディオスのリオーン陛下が認める天下の”剛鬼バフィンス=レックスナート”様のお膝元だから、 自分たちで考えて行動してよいってことなんだろ」
 それに対してバフィンスは反論した。
「ちげーだろ! ティルアはテメェにくれてやった!  これからは天下の”万人狩りクラフォード=レックスナート”が動かしていくんだろうが!」
 クラフォードは呆れながら言った。
「まあ、ティルアは”リーダーは面倒だからお前にくれてやる”って言っていたやつがリーダーしてたぐらいだから、 この俺でも十分役目をこなせるってことか」
「言ってろ、クソガキ」
 と、バフィンスは捨て台詞を言うと、外から別の隊員が事務所に駆け込んできた!
「たっ、大変です! 港に帝国軍船籍の船が接近しています!」
 それを聞いたクラフォードは驚いた。
「ディスタード帝国……何しにきやがったんだ」
 バフィンスはそう言うと、クラフォードはさらに隊員から話を聞いた。
「帝国の船? ルシルメアの船じゃなくてか?」
「はい、間違いありません!」
 クラフォードは悩んでいた。すると、バフィンスは首をかしげていた。
「ルシルメアの船だぁ? なんか用事でもあんのか?」
 すると、クラフォードは手入れをした剣を取り出すと、背中に納刀しながら言った。
「まあ、そういうことだが――どうやら今回は見込み違いということらしい。 テメェはこれからまたバルティオスに行くんだろ?  連中は俺が片付けておくから、せいぜいノンダクレた挙句、高いびきでもしながら待っていることだな」
 そう言うとクラフォードは隊員と共に事務所から出て行った。
「ふん、言うようになったじゃねえか、クソガキ」
 バフィンスは得意げだった。

 港に着くと、そこにはなんと、ディルフォードとイールアーズが居合わせていた。
「なんだ、どうしたんだ2人とも――」
 クラフォードはそう聞くと、ディルフォードが答えた。
「ああ、なんだか騒がしいもんでな。 あそこにディスタードの船があって連絡船が軒並み出港中止になってしまったらしい、 なんとも面倒な事態に巻き込まれたものだ」
 そして、イールアーズは相変わらず血気盛んだった。
「あいつら、俺らの邪魔をしやがって――。邪魔するやつは全員殺す!  クラフォード、ゴタゴタが一通り片付いたらテメーも首を洗って待ってやがれ!」
 俺は邪魔なんかしていないんだが、むしろ邪魔していたのは……クラフォードは苦笑いしながら適当に相槌を打っていた。 それに対してイールアーズ……
「よし! 忘れるんじゃねえぞ!」
「……いいや、絶対に断る」
 そんなイールアーズからの一方的な話をしている中、ディルフォードはイールアーズを制止した。
「待った、連中が来るぞ。やはりティルアに乗り込んでくるつもりらしい――」
 帝国の船は港から少し外れた位置に泊まった。さて、連中はどうするつもりだろうか――

 すると、その船から突拍子もなく何かが飛び出すと、 それは海を飛び越えティルアの港の埠頭の上へと着地した。それはなんと、1人の女だった。
「あーぁ、予定が狂っちゃったな、おかげでなんだか大騒ぎになっちゃってるけど――言っててもしゃーないね。 とにかく、早いところ用事を足さないといけないわね――」
 女はそう言いながら、なんとクラフォードの元へ堂々とやってきた。
「なんだかちょうどよさげなのがいるわね。訊きたいことがあるんだけどいいかしら?」
 クラフォードにとっても願ってもない相談だった、それこそ、クラフォードのほうこそ訊きたいことが山ほどあった。
「訊きたいことか、いいだろう。 でもその前に俺にも訊きたいことがある、 グレート・グランドはバルティオスの領地にディスタード帝国の船とはずいぶんと堂々としたことだが…… そんな連中が一体どんな要件でこの地に訪れたんだ?」
 クラフォードはそう言うと女は一瞬だけ言葉に詰まり、話を改めた。
「……ちょうどよさげなのがいるって言ったけど前言撤回、面倒くさいのに関わっちゃったみたいね。 まあ確かに、言われたことはもっともなんだけどさ。」
 この女に驚かされたのは、まずは何といっても埠頭からだいぶ離れた位置からの跳躍距離だった。 跳び上がった高さがある程度それを物語っており、恐らく30m近くは水平移動していることは確実である。
 そして、近づいてびっくりしたのはその女の背の高さだった。 これについてはクラフォードのみならず、ディルフォード、イールアーズも驚いていた。 クラフォードの身長は190cm弱なのだが、この女も大体同じぐらいの背の高さであることに驚かされた、 自分たちの知っている限りの女性でこれほど高身長な女性は……一番高いのでローナフィオルの175cmがせいぜいなので、 意表を突かれた感じである。
 ちなみにディルフォードは190cm超えなので明らかにこの女の身長のほうが低いのだが、 イールアーズは185cm程度なため、この女にわずかながら負けていた。
 そして、この女について驚かされたことの3つ目はこの女の態度である、どういうわけか明らかに堂々としていた。
「そうね、ここはよそ者である私がどうして来たのか説明するべきね。 私はティルア自衛団に用事があってここに来たのよ、ただそれだけ。 だから、できれば案内してもらいたいのだけど、ダメかしら?」
 それに対してクラフォードは答えた。
「なるほど、自衛団にか。しかもバルティオス本部でなくティルア支部に用事とは面白いことを言うな。 どうして自衛団なんだ? というか、そもそもどうして自衛団に用事があるのだ?」
 女は答えた。
「そんなん言えるわけないじゃないのよ、トップシークレットよ。 見ての通り、私はちょっとばかり……じゃないわね、なかなか穏やかじゃない船に乗ってきているわけだから、 つまりはそれ相応のヒミツを抱えてやってきているわけよ。 だからそのあたりの事情を察してくれるとありがたいんだけど――」
 すると、その状況になんだか不穏な感じを覚えたイールアーズが剣に手を添えながら言った。
「なんだこの女、敵か?」
 同じく、ディルフォードもその状況を察して話した。
「なるほど、話は平行線の可能性がありそうだな。 どうなるかはさておき、必要なら言ってくれ」
 それに対してクラフォードは2人に手を添えて答えた。
「大丈夫だ、万が一のことがあってもこの程度、 ティルアの団員だけで対処すれば十分だ、おたくらの手をわざわざ煩わせるほどじゃないさ」