エンドレス・ロード ~ティル・ジ・エンド・オブ・ザ・ワールド~

あの日、すべてが消えた日 第1部 黄昏の章 第2章 邂逅の刻

第7節 シェトランドの動き

 イールアーズは自衛団事務所内の救護室のベッドの上に放置された。 というのも、ディルフォードから「触らないでやってほしい、寝ていればそのうち機嫌もよくなるだろう」
 ディルフォードは事務所のソファに促されるとクラフォードたちと話をしていた。
「さっきイールがルイゼシアとか言っていたな、城のほうでもリオーンがそんな話をしていたようだが――」
 クラフォードはそう聞いた。
「この話はそのうちお前たちの耳にも届くことになるだろう。 だからこの際、お前たちにも話しておく。 ルイゼシアはリオーンの娘であり、イールアーズの妹でもある」
 ん? ということはまさか――クラフォードは訊くとディルフォードは頷いた。
「ああ、リオーンとイールアーズも親子ということだな。 でも見ての通り性格は全然似ていない、本当に不思議な光景だ」
 ディルフォードはさらに話を続けた。
「まあ、ここまでの問題はとりあえずいいだろう。 重要なのはそれ以上の問題が起こってしまったということだ」
 その問題というのはルイゼシアの誘拐である。
「誘拐!? 誰に!?」
 ウィーニアはそう聞くと、クラフォードは腕を組みながら答えた。
「セイバル、だな。 連中、シェトランド人の”核”について研究しているって噂を聞いたことがあるが、それと関係が?」
 ディルフォードは頷いた。
「流石に知っているな、その通りだ。ルーイはセイバル共にさらわれた――」
 しかしどういうことだろうか、クラフォードは腑に落ちない点があった。
「でも、なんでわざわざリオーンの娘にして鬼人の剣の妹がターゲットなんだ?  確かに、シェトランドの一族の長の娘ってことであれば連中にとってはある意味おたくらに対する抑止的な意味合いにもなるわけだから都合もよさそうだが、 言っても、リオーンの娘にして鬼人の剣の妹だぞ? シェトランドの性格で言うと、むしろセイバルに攻める口実を与えたようにも見えるんだが――」
 と、クラフォードは冷静にそう言うと、ディルフォードは悩みながら答えた。
「いや、むしろリオーンの娘……というか、ルイゼシアだから捕られたというべきだろう。 セイバルはシェトランド人の”核”について研究していると言ったが―― 特にルイゼシアの核については連中にとっては非常に興味があるものだということは私らとしても気にしていたことだからな」
 ルイゼシアはシェトランド人の伝説”神授の御魂”と”二つの御魂”のうち、”神授の御魂”に該当する存在なのだという。
「”神授の御魂”は自らの魂に秘められている力が強大な存在であるとされ、 それこそ、大昔はその力で世界を焼き尽くしたこともあるともされている存在だ」
 それを聞いてクラフォードたちも驚いていた。
「なあ、誘拐っていつの話だ!?」
 アトラストはビビりながら訊くと、ディルフォードは答えた。
「1年と半年前だ、意外と長らく経っている。 そういったことからも、やつら、ルーイを兵器として使用するのに手こずっているとも見える、 まあ、我々の魂を甘く見た事の顛末ということだな。 だが、それに対してこちらからもいろいろと手を打ってはいるのだが、 なかなかルーイの奪取にまでは至っていないのもまた事実。 それでとうとうリオーンはルイゼシアの件について、バルティオスで話すことを決めたのだ」
 クラフォードは悩みながら言った。
「それであの堅物……イールのやつは気が立ってんのか、 おたくらシェトランドの問題はシェトランドで解決するという原則からあからさまに外れた行動、 そして、他にその話を持ち出せば”神授の御魂”である妹の注目度は他の国まで一気に広まってしまうというわけか――」
 ディルフォードは頷いた。
「鋭いな。 確かに、今回のリオーンの決定については我々の中でも賛否が分かれているところだ。 否定側についてはお前の言う通りだが、賛成側は今のルイゼシアが一日でも早く助かることを願っているというわけだ」
 と、ディルフォードは鋭い眼光でそう言った、その目を見たクラフォードは彼はつまり賛成側なんだなと悟った。
 クラフォードは訊いた。
「一日でも早く助かって……その後はどうする? 彼女の存在が世界に知れ渡ることになるぞ」
 ディルフォードは落ち着き払った態度で答えた。
「別に……助かったらあとはいつも通りだ。 いつも通り、仲間同士助け合いながら普段を生きるだけさ」
 仲間同士助け合いながら……その一言ですべては説明できていた、何と素晴らしい同族愛――