エンドレス・ロード ~ティル・ジ・エンド・オブ・ザ・ワールド~

あの日、すべてが消えた日 第1部 黄昏の章 第2章 邂逅の刻

第6節 シェトランド人襲来

 フェアリシア島が消えてから2年半ほどが経った。 ティルアにある自衛団の支部ではやはりあの4人が大活躍していて、彼らを取り巻く環境もがらりと変わっていた。
 特筆すべきはやはりクラフォード、同時期に頭角を現してきたあの”万人斬りディルフォード”にも引けを取らない実力者であるとして、 彼もまたディルフォードに対抗して”万人狩りクラフォード”と呼ばれるほどにのし上がっていた。
 しかし、そんな二つ名などを持つのは面倒でしかないのも考え物、 中には彼に挑まんとして襲撃に来る者もあり、クラフォードは参っていた。
 そんな中、クラフォードにとってついに恐れていたことが起きてしまった、 それは、彼がバルティオス城からティルアに戻ってくる帰り道だった。
「なっ、なんだお前――」
 クラフォードは自分が背負っている大きな剣に手を伸ばしながら言った。
「……”万人斬りディルフォード”、あいつに対抗して名を通したやつがどれほどの者かと思えば――」
 そいつは殺気満々の状態で街道のど真ん中に立ちふさがり、クラフォードの目の前に現れていた。
「なんだ、ただの若造でがっかりか?」
 クラフォードは落ち着き払った態度でそう言うと、相手の男はすぐさまクラフォードへと激突!
「おっ、おい! いきなりどういうつもりだ! やめろ!」
 クラフォードはそいつの攻撃を間一髪でかわしたが、そいつは攻撃の手を緩めることなく立て続けに襲い掛かってきた!
「ほう、少しはやるようだな、ならば、これはどうだ!」
 どうだって――クラフォードはこいつの行動に呆れていたが仕方なく応戦、その場に適当な技を繰り出した。
「やめろっつってるだろ! ったく、どうなっても知らん!」
 クラフォードは剣を引き抜いて構え、その男の地面めがけて技を放った!  すると、男の足元から大掛かりな岩が飛び出し、その岩は上空めがけて貫いた!
「なっ!?」
 相手の男はとっさにその技をかわし、なんとかその場をしのいだ。
 それと同時に、相手にするのが面倒くさかったクラフォードは一目散にティルアの方向に向かって逃げ出した。
「ちっ、逃がすかっ!」
 男はクラフォードを全力で追いかけていった――

 剣を片手に街道の終点までなんとか逃げ延びたクラフォードだったが、 そこに妙な殺気が渦巻いていることを感じた。
「おいおい、なんだよ次は、いい加減にしろっての――」
 クラフォードは態度を改め、剣を構えながら言った。
「なんだか知らんが妙なのがいるのはわかっている、姿を現したらどうだ?」
 すると、街道脇の木の陰から男が現れた。
「確かに、妙と言われれば妙なのは間違いないな。 しかし、仮にも”万人狩り”と呼ばれる男がまさか敵前逃亡とは……」
 そう言われたクラフォードは頭を抱えていた。
「勘弁しろよ。てかお前、さては”万人斬り”だろ――」
 クラフォードは呆れた態度のままそう言うと、そいつは答えた。
「だったらどうする?」
 だが、クラフォードは動じることもなく、そのまま呆れた態度のまま答えた。
「どうもしねえよ。そんなこといいからそこを退け。 俺は変な”お使い”のせいで気が立ってんだ、今なら見逃してやるからさっさとそこを退け」
 と、それに対して”万人斬りディルフォード”はなだめるような態度で言った。
「悪い悪い、今のはただの冗談だ。 そうか、”お使い”か――リオーンとバフィンスだろう?  あの2人に絡まれると面倒くさくてかなわん、その気持ちは私にもわかる」
 ん、なんか話が分かりそうなやつだ、クラフォードは安心していた。 それに、そう言えばディルフォードと言えば――クラフォードは今彼が言ったことも考えながら話をした。
「……もしかして、あんたらも”お使い”か?」
 そう、彼はシェトランド人、バフィンスと特にリオーンについては事情をよく知るところだろう、つまりはそういうことである。 それに対してディルフォードは言った。
「まあな、お使いと言えばお使いだが――どちらかと言えば個人的な用件で来ただけだ。 とにかく、お前がわざわざバルティオスに行っているということは――リオーンはバルティオスにいるということか」
 クラフォードは答えた。
「そのようだな。で、どうする? バルティオスに行くか、それとも島に帰るのか、それとも――」
 それに対してディルフォードが意外なことを言った。
「そうだな、どうせならお前のいるティルア自衛団とやらで待たせてもらうことにしよう。 さっきお前が出会った男も言っていただろうが、私に対抗した通り名を持つやつがどれほどのものなのか気になるからな」
 クラフォードは引きつりながら訊いた、相手はシェトランドだ、そんなことがあるもんかと思ったのである。
「じょ、冗談だろ!?」
 ディルフォードは笑い飛ばしながら言った。
「ははははは、冗談半分、半ば本気だ。というのも――」
 すると、話の途中で先ほどの男がクラフォードの背後に――
「おい貴様、今度こそ逃がさねえぞ――」
 クラフォードは頭を抱えながら振り返ると、その男に言い放った。
「……諦めたんじゃなかったのか」
 男は怒りながら言った。
「バカか? 誰が諦めたと言った? さあ剣を構えろ、今度こそ正々堂々と勝負しろ――」
 それに対し、ディルフォードは呆れながら言った。
「やめるんだイール。この男は今、リオーンとバフィンスの相手で疲れている。 ついでを言うとワイズリアもリオーンの元へ行くと言っていたからヤツも恐らく一緒だろう。 あの3人を相手にした後に本気でお前の相手ができると思うか? 土台無理な話だと思うが――」
 すると、男……イールアーズは悔しそうに剣を強く握りしめつつ、怒りに任せたまま納刀した。
「けっ! 命拾いしたなテメェ!」
 ……あの悪名高き3人、ディルフォードのその話を聞いて相当なんだなとクラフォードは思っていた。 すると、クラフォードはディルフォードに向かって話をした。
「えっ? イールって? こいつが鬼人の剣のイールアーズ? てっきり三下かと思ったんだが――」
 すると、イールアーズは勢いよく剣を引き抜いてクラフォードに襲い掛かってきた!
「誰が三下だテメェ! やっぱり今すぐ殺す!」
 それに対してディルフォードがクラフォードの背後に回ると、イールアーズに立ち向かった。
「そうやってすぐに頭に血が上るから三下と思われるんだろう!  ルイゼシアが心配なのは私も同じだがとにかく一旦落ち着け! 勝てる戦いにも勝てなくなるぞ!」
 そしてディルフォードはそのままイールアーズを打ち負かし、 最後にみぞおちに特大の一発を与えるとイールアーズはそのまま気を失った。
「やれやれ……本当に困ったものだ――」
 ディルフォードはそう言うとクラフォードが心配そうに言った。
「なあ、さっきの話だが、俺のいるティルア自衛団に来てみないか?」
 それに対してディルフォードはイールアーズを担ぎ上げつつ、落ち着き払った態度で答えた。
「ああ、それは助かる。何せこいつがこのまま伸びたままいてくれるのもいろいろと都合が悪いからな」
 と言うのは建前同然のように思えるが、 それ自身はもちろん今回の万人狩りクラフォードへの襲撃同様のことが起きてもおかしくはないということを懸念してのことだった、 鬼人の剣が気を失ったまま襲われたとあらばシャレにならない。