エンドレス・ロード ~ティル・ジ・エンド・オブ・ザ・ワールド~

あの日、すべてが消えた日 第1部 黄昏の章 第1章 黄昏の日

第4節 もう一つの終焉時

 あれから3年後、彼らはやはりいつも通り”黄昏の丘”へと通っていた。 もはや日課のようなものではあるものの、 やっぱり周囲から見れば危険と思われても仕方がないその行為は彼らだけの秘密。 相も変わらず彼らはやっぱり”黄昏の丘”へと通っていた。
 しかし、その日課についてもいよいよ終わりを迎えることになろうとは――
「この光景、きっとほかにも見ている人がいるよね!」
 シオラはそう言った。 こんな感動的な光景、自分たちだけで独占するなんてなんとももったいない話である。 だから、実はほかにもこんな素敵な光景を見て感動を味わっている人がいてもおかしくはない、 シオラはそう考えていた。
 しかし、ティランドはその光景について別のことを考えていた。
「えっ、そうかな? こんな風にシオラと一緒に見れる光景なんてなかなかないよ!」
 その頃になると2人の仲はある程度出来上がっていた。 そこそこに周りが恥ずかしいほどの状態であった。
「もう、2人とも、そういうのは帰ってからこっそりとやってくれないかな?」
 ウィーニアが楽しそうにそう言った。
「まったくだぜー、やれやれ。熱くって熱くって仕方がねえや」
「ホント。もう夏がやってきたのかしら? おかしいわねぇ……」
 アトラストとアローナが意地悪そうに言った。
 それでもこの8人は仲が良かったのだ、この時までは。

 そして、その8人を分かつ刻みが――
「ん? 何だ? なんか感じないか?」
 クラフォードが何か警戒し始めた。 その時、ここにいた誰しもがとても嫌な予感がしたのを覚えていた。 すると地鳴りと共に小刻みに揺れが。
「おっ、おい! なんだ、一体何だってんだ!?」
 アトラストが慌ててそう言った。すると、揺れは一度収まった。
「なんだかとても嫌な感じの揺れだったわね――」
 ウィーニアが身構えつつ不安そうに言った。
 と、その時、再び大地が揺れだした!
「えっ、また地震か!?」
 ティランドも慌てて身構えるとそう言った。 いや、違う――これはただの地震なんかじゃない!  そこの誰しもがこう思った、この感じ、あれに似ている、そう――
「おい! これってもしかして、あれじゃないか!? エンブリスやスクエアが消えた時のやつだ!」
 クラフォードがそう叫んだ。そう、その感じはセラフィック・ランドの第2都市のエンブリス、 そして、第3都市のスクエアが消えた感覚に似ていた。だから、今度はまさか――
「次は第4都市――フェアリシアが!?」
 シオラはそう言った、まさか、そんなことが……!?

 8人は突然のことで慌てていた。とはいえ、この状況下ではどうしようもなかった。 それに大地が揺れているこの状況、みんなその場で身をかがめているだけで精いっぱいだった。
「マズイわね、もし消滅なんていうことになると――私たちは一体どうなるのよ!?」
 アローナが心配そうに言った。
「わからないが――少なくともただでは済まないことだけは確かだろう――」
 クラフォードは力無げに言った。
「ただでは済まないってそんな――」
 アトラストも力無げに言った。
「なんとか消滅から免れる方法はないの!?」
 ディアナリスは叫ぶように言った。
「わからないけど、でも確かなことは、エンブリスでもスクエアでも、 そこにいた住人で無事だったものはいないということらしい。 何人かは脱出に成功して海に投げ出されたりもしたようだが、大半は――」
 ティランドは悔しそうにそう言った、そんな――
 するとそこへ、ウィーニアが思い出しながら話した。
「待って! そういえばあの浮遊大陸のフェニックシアでも無事だった人の話、私聞いたことがあるよ!」
 それはどういうエピソードなのだろうか、いや、それだったら――シオラも聞いたことがあった。
「それ、”フェニックシアの孤児”のこと!?」
 シオラはそう答えた。 セラフィック・ランドの第1都市、フェニックシア。 そこの”フェニックシアの孤児”というのが無事だったという噂があった。 あくまで噂ではあるが、彼らは空に浮いている大陸が沈もうとしていた時にどうやって生き延びたのだろうか。 しかし、やはり浮遊している大陸ということもあってか”フェニックシアの孤児”以外は助かったと言う話は聞かない、 詳しいところまではわからなかった。 まあ、フェアリシアは浮遊しているわけではないのでその気になれば海へと飛び込むこともできそうなものだが、 この丘は海抜の高いところにある、それだけがネックか。
「うん? なんだなんだ!?」
 さらに強い揺れが起こるとアトラストは驚きながら言った、他の全員もその状態になおも慌てふためいていた。
「待て! みんな、その場から動くなよ!」
 クラフォードが何かに気が付くと、あわててそう言った。 すると、彼ら8人のいる丘が急に隆起し、天に向かって飛び出していった!
「うっ、嘘でしょ!?」
 ディアナリスが驚きながら言った。もはや彼女も含め、全員がパニック状態である。

 彼らが居座る飛び出した地形だけは揺れずにとどまっているが、 その眼下は揺れていることがはっきりと分かった。 それから5分程度経つが、いまだに大地は鳴動を上げ、揺れ動いている。 とりあえず、眼下を覗こうと、アトラストはそっと身を乗り出した。 高さはビルの高さ5階相当、一応地上の様子が確認できそうな高さである。
「アトラスト! 危ないぞ!」
 ティアンドが注意を促した。しかしアトラストは――
「おい、みんな見てみろよ! フェアリシア島が、フェアリシア島が!」
 と、慌てふためきながらそう訴えた。なんだろうか、みんなで眼下をそっと覗き込んだ。
「うそっ!? まさか、本当に!?」
 アローナがそう涙声を上げながら訴えた。 そう、恐れていた事態フェアリシア島が徐々に消えている光景が見えてきたのである――
「ねえみんな! 気を付けて!」
 今度はウィーニアが注意を促した、隆起した丘は、今度は小刻みに揺れながら徐々に沈んでいたのだ、 フェアリシア島が消えていくことによるものか――
「くっ、これはっ……!」
 クラフォードもほかの7人も、その場に踏ん張っていた。 さらに、丘の揺れは次第に激しさを増し、同時に外側から少しずつ崩壊が始まっていた。 それを察して8人は1か所に固まろうとゆっくりと足場の中央へと動き始めたのだが、 1人だけ足場の崩壊によってバランスを崩し、危険にさらされていた、それは誰かと言うと――
「シオラ! そっちは危険だ! こっちに、近くに来るんだ!」
 そう、シオラだった。ティランドはシオラに向かってそう叫んだ。しかし――
「ダメ! 私、ここから動けそうにない!」
 あまりの激しい揺れによって、彼女はもはや動ける状態ではなかった。だけどティランドは――
「シオラ! 諦めたらダメだ! シオラ、いいから早くこっちに!」
 すると、ティランドはゆっくりとシオラのほうへと近づいてきた。
「ティランド! 行くんじゃない! お前の気持ちは分からなくもないが、お前自身も危ないぞ!」
 クラフォードは他の5人の元につかまりながら身構えつつそう叫んでいた。
「嫌だ! シオラ! 今行くから待ってて!」
 ティランドはクラフォードの制止を振り切ってシオラのほうへと近寄っていた。
「ティランド、ダメよ! こっちに来ちゃダメ! あなたまで巻き込まれちゃうから!」
 シオラのいる場所はもう崩壊寸前の状態だった。
「シオラ! 俺はどうしてもシオラを助けたいんだ!」
 ティランドは聞かなかった。
 だが、その時――シオラのいる足場は崩壊した。
「シオラ!」
 ティランドは慌てて駆け寄り、彼女の腕をなんとかつかんだ。
「うっ、ティランド――」
「シオラ、大丈夫!?」
 しかし、ティランドのいる足場ももう長くは持たない――
「くっ、このままじゃあ2人とも落ちてしまうな――」
 クラフォードは悔しそうにそう言った。他の5人はこの状況下でただただ祈っているだけだった。
 そして、ティランドのいる足場に亀裂が走ると――
「シオラああああっ!」
 ティランドは全身全霊をかけ、シオラを振り子の原理で勢いよく別の場所へ投げ飛ばした!  その場所は、海の方向だった。
「シオラ! くっ、届くかっ――」
 クラフォードは身構えながら彼女が投げ飛ばされた方向を確認していた。 彼らの居場所は陸の真上、頑張れば届かなくはないが――
 しかし、その一方で、窮地に立たされている者が1人――
「へへっ、ようやく、シオラのために力を使うことができたよ――」
 それはティランドだった、そう言う彼の足場は亀裂だらけ――崩れ去った――
「ティランド!」
 クラフォードはただ身構えたままそう叫んでいた。 ティランドは――シオラを助けていた態勢のまま――頭から落っこちていった……。
 それから少し時間が経つと、彼らの真下にあったハズの陸地も消滅し、 隆起していた丘の落下スピードも少しずつ加速していった。
「おい! このままだと俺らもヤバイぞ! 丘が消える前に海に向かって飛び降りるんだ!」
 と、クラフォードはシオラが投げられた方向へ指さしながら言った。
「わ、わかった、やってみる!」
 と、ディアナリスは少し怯え気味にそう言った。
「そうね、このままだともしかしたら島と一緒に私たちも――」
 ウィーニアはそう呟くと、覚悟を決めたかのように立ち上がった。
「そ、そんなこと言ったって、本当に助かるのかよ!?」
 アトラストはそう言うと、アローナが言い返した。
「そんなもの、やってみないと分かんないでしょ!」
「そうよ! このまま巻き込まれるのはゴメンよ!  だったら少しでも助かる見込みがある方にかけてみるのも悪くないでしょ!」
 ローナフィオルは力強くそう言い放った。