そして6人は無事に着水、大海原へと投げ出された。
そこへフェアリシアの漁船、島の消滅から免れ、
海を漂うことになった船を見つけたクラフォードはそれに乗るように促した。
「シオラ、無事だったようだな――」
クラフォードは力なくそう聞くと、彼女は涙声で答えた。
「ティランドが、ティランドが――」
濡れた顔の彼女、しかし、濡れているのは海の水のせいではなく、目から飛び出た溢れんばかりの涙のせいだった――
「ティランドが落ちた時は――」
クラフォードは悔しそうにそう言うとシオラはさらに涙声で言った。
「彼が落ちた時はまだ島が消えてなかった――」
彼女はその先のセリフを言うことはなく、ただただ泣きじゃくっていた。
それに対し、女性陣4人は彼女に寄り添い、とにかくなだめていた。
無論、ティランドのその後についてはシオラのみならず、
他の6人も残念にしていた――
「……シオラ、ティランドはシオラを助けたかったのよ。
だから――彼のその行為を無駄にしないでね――」
ウィーニアは涙声でシオラにそう諭していた。
「ううっ、ティランド、ティランド――」
シオラの悲痛な鳴き声が響き渡る――
そのうち、フェアリシア島は完全に消えていた。
彼らがいたはずの隆起していた丘も完全に消滅していた。
彼らは完全に疲弊し、誰も船を動かす手段を知らないため、船に乗ったまま海を漂うこととなった。
しかし、彼らについてはフェアリシアの危機によって駆けつけていたセラフィック・ランド連合国内のアリヴァール島の一団によって早期に救出された。
そして、彼らはシオラとローナフィオルを除いてみんな留学生で、
事情がまちまちな都合でそれぞれの場所へと戻らなければならなかった、つまりはお別れである。
クラフォードとウィーニア、それからアトラストとアローナについてはグレート・グランドのティルアへと戻ることが予定されていた。
帰った暁にはティルア自衛団の新たなエースとして期待がされていた。
一方で、ディアナリスはルーティスからの留学組であるためルーティス学園へ戻ることとなるのだが、
シオラとローナフィオルは違った。
どこかの建物の中で彼らは毛布にくるまりながら話をしていた。
「そういえば2人って、フェアリシア出身だったね――」
アローナはそう言うと、ローナフィオルは首を振った。
「言ってなかったっけ、私たちってみなしごなのよ。
というのも、いきなりフェアリシアに現れたって言われているのよ。
さしづめ、”フェニックシアの孤児”ならぬ、”フェアリシアの孤児”と言ったところかな――」
ローナフィオルがそう言うと、クラフォードが言った。
「ん? そうなのか? だって、ローナってシェトランド人だろ?」
それが不思議だった、本来であれば他所の種族と関わることなく、独自の文化の中で社会性を築き上げる種族。
そして自分たちの種族のために外の世界では傭兵として活躍し他種族に恐れられる彼ら。
とにかく、他の種族とは極力関わり合いにならないように過ごしているシェトランド人なのだが、
彼女の場合はイレギュラーと言わんばかりにこうして彼らと一緒に過ごしているのである。
もちろん、それは彼女自身も何度か聞かれてきたことなのだが、
正直、そんなこと言われてもどうしていいのかがわからなかった。
とはいえ、この期に及んでそれは今更の話、つまり、クラフォードはそれを聞いているわけではない。
彼が言っているのはシェトランドのいる”里”に行って手がかりをつかんでみてはどうかということだった。
それは以前からも彼女自身が思案していることだった。
ローナフィオルは答えた。
「私も、ディアナリスと一緒にルーティスに行こうかな。
だって、ルーティスと言ったらシャトさんがいたっていう場所でしょ?」
シャト、またの名を”手練れのシャト”と呼ばれる名のある実力者だった。
その正体はシェトランド人の女性だが、
傭兵ではなくディスタード帝国という別種族が設立させた組織に籍を置いているという点ではシェトランドとしてはイレギュラーと言える存在、
そう、ローナフィオルと性質が同じなのである。
彼女がそう言うと、クラフォードはただ「なるほど」とだけ答えた。
そして――シオラは依然としてそのまま沈んだままだった。