リリアリスはティレックスにその話をしていた。
「その、”あいつ”ってのは”ネームレス”なのか?」
ティレックスの問いにリリアリスは頷いた。
「そうよ。しかも無茶苦茶強いのは確かなんだけど、性格はイールに似ているところがあるわね。」
えぇっ、それは面倒なやつ――ティレックスは予感していた。
「ついでにカイトとシエーナにもバックアップを頼んでる、ティレフ・ガーデン側での防御を固めてもらっているのよ。
それがまさかウォンター帝国側の陣営で、まさか警戒していた通りだとは思ってもみなかったけど。」
それに対してティレックス、
「いや、カイトとシエーナさんだろ、お得意の”予測”とやらでそのあたりが見えていたんじゃないのか?」
すると、リリアリスは意表を突かれたかのように驚き気味に訊いた。
「あれ? あんた、あの2人のこと知ってたっけ?」
ティレックスは呆れながら言った。
「おいおい、忘れたのかよ、マウナ攻略編でのこと。
どういうつもりだったか知らないけど、あの2人、トルーパーズにいたんだぞ、忘れたのか?」
リリアリスは悪びれた様子で答えた。
「あら? そうだったかしら? まあいずれにせよ、あの2人のことだからどうでもいいんだけどね。」
どういうことだよ、それ――ティレックスはそう訊くとリリアリスは答えた。
「シエーナはともかく、カイトはまさにあの悪名高いティルなんとかの男児の血が流れているからね。
あーやだやだ、あいつの家系の名前をちょっと言っただけでもこの冷気、抜群の破壊力ね、風邪ひいて倒れこんでしまいそうだわ――」
リリアリスはそう言いながら寝室から毛布を持ってきてくるまっていた、どういうこっちゃ。
「で、そういえば何故今の話を内緒にしておく必要があるんだ?」
ティレックスは肝心なところに触れてきた。それに対してリリアリスが答える。
「”ネームレス”の力が異常っていうのはわかるわよね?
で、その”あいつ”なんだけど、結構それなりに滅茶苦茶やってて、一部では結構有名な通り名持ちになってしまったのよ。
確か、”唯我独尊”とか言われていたっけ――」
またいろんな意味で酷い通り名だ――ティレックスはそう思った。
まあ、それでいて”ネームレス”っていう都合を考えると、公に出すのは控えたほうがいいかもしれない、
つまりはリファリウスやリリアリスはまだ自粛しているほうなんだなとティレックスは思った。
だけど、内緒にしておく真の理由は別にあった。
「それよりも、無茶苦茶強い性格イール似の”あいつ”がリファのことを一方的に毛嫌いしているからってのが一番の要因ね。」
な、なんか聞いてはいけないことを聞いてしまった気がする――。
毛嫌いって、いや、それは何となくわかる気がしたティレックスだった。
てか、そいつはアーシェリスあたりと気が合うんじゃあ?
いろいろと気になる要素だらけの今回の作戦だったが、
よくよく考えると、すべてがギリギリのところで考えられた作戦という感じだった。
多少どころかかなり無理のある個所もかなり見受けられるが、
その点については”ネームレス”の所業によってカバーしている範囲なのだろう。
もっとも、その”ネームレス”の所業というのがとても気になるところなのだが。
気になると言えば、そう言えばそのユーラルの件はどうしたのだろうか。
ヘルメイズ軍とキラルディア軍、そして、”ネームレス”の”あいつ”が抑えて終わりなのだろうか。
それについては資料にもある程度までは書かれていたがほとんど完了報告でしかなく、
具体的に何がどうなったのかまではわからなかった。
しかし、そうとは言っても今回のディスタード軍との戦い、
フェラント沖の戦いについてもその程度しか情報が載っていないので詳細なところまではわからないわけだが。
もちろん、ティレックスとしてはそちらの戦いには参加していたため、
その分には具体的なところまでは把握できていたわけである。
「まあね、その資料、あくまで完了報告だけだからね。
別に過程とその詳細まではどの国も求めていなくて、
結果とそれによって各国で何かしらを取り組む上で必要な情報だけを展開しているというだけなのよ。」
確かに、経過は関係ないと言えば関係ないわけか。
「まあ、経過についてはほんの表面的な情報だけは今後展開する予定よ。
具体的なところまで説明してしまうとうちの国だけでなく、
他の国の内情も書く必要があることになるわけだから、
そこはうまい具合にぼかして書いていく必要があるってワケ、
連合軍結成とはいっても、守るべきところは守るべきってわけよね。」
確かに、国ごとに公表しなくてもいいような情報まで記載するわけにはいかないか、
そういうのが絡んでいる以上は具体的なところまでは記載するわけにはいかなそうだ。
「さらに言うと、ユーラルについての大きな問題は、当然、ディスタード帝国に責任を追及されることよ。
ディスタードの本土軍はもちろんだけれども、
ガレアだってヘルメイズだっていくらクラウディアス連合軍の一員と言えどディスタードはディスタードだからね、
つまりユーラルの矛先は結局ガレアやヘルメイズに向いてしまうのは必然だってこと。
だから、これについての交渉をしっかりと進めているところなのよ。
再建についてはそれからということになりそうね――」
それはそれでまた忙しそうである。