「それで、用はそれだけ?」
リリアリスはティレックスにそう訊くと、ティレックスは態度を改めて訊いた。
「じゃあ訊くけど、リジアルにリオメイラ、
それからラヴィス島と本土島にそれぞれ直接攻める作戦、結構思い切った作戦だと思って。
確かに連合軍による包囲網の効果もあるんだろうなと思ったが、それにしては手際が良すぎる気がしてな」
すると、リリアリスは何食わぬ顔で答えた。
「まあね、実はタレコミがあったのよ、リジアルとリオメイラについてはね。」
タレコミ? それってもしかして――リリアリスに訊くと彼女は答えた。
「ええ、その通り何を隠そう、ルシルメアのF・F団のシャイズこと、シャディアスよ。
ルシルメアは流石に貿易都市として大きな町というだけあって、いろんな情報が入ってくるのよ。
特にF・F団は外部の勢力の架け橋としても役割を一部担っていて、その情報網は太いわ。」
F・F団はルシルメアでもかなり重要な立ち位置にいるということか、
確かにF・F団は大国ディスタード帝国軍との停戦を持ちかけた立役者でもあるから、信頼も厚いということか。
そして、その成果により外交に関してはF・F団の協力で成立しているんだそうだ。
もちろん、本土軍からの情報のリーク先でもある、本土軍内部に協力者がいるからその発信先としても担っているわけだ。
それで、クラウディアス連合国の会議での席にF・F団が同席しているのか、ティレックスはそう考えた。
「シャディアスが仕入れた情報を頼りにしてリジアルとリオメイラの解放を決めたのよ。
特にリオメイラに関しては取引数が多いから、かなり正確に情報を仕入れることもできたわ。
リジアルについてはあまり情報が手に入らなかったけれども、
上陸に際しての有用な情報だけは手に入れられてね、それで作戦を立てることにしたのよ。」
それなりの情報があったというのなら確かにうまくはいきそうだとティレックスは思った。
それに”ネームレス”の能力――侮ることはできないだろう。
「ラヴィス島はうちとガレアとの間にあるからいいとして、本土島はそうもいかないだろう?
確かに、包囲網を水面下で進めていったことは書いてあったが、本当にそれだけか?
その反応として包囲網に気が付いて皇帝が慌てて逃げ出して、クラウディアス軍を待ち構え、
返り討ちに合わせようとしたっていう状況とはイマイチ合致しないように思うんだが」
それに対してリリアリスは話した。
「皇帝はずいぶん前から本土島にはいないわよ、
今じゃあどこで何をしているのかさっぱりわからないのよ。」
本当にいないのか、ティレックスはそう訊くとフロレンティーナが話した。
「確かに、本土軍では上層部、
それこそ、まさかあのベイダ・ゲナが5年前に部下のガルフォードによって殺されていたなんて、
誰も知らなかったハズよ。
まあ、本土軍の性質的にベイダ・ゲナ死亡については私らでさえ分からなかったけれども――
そもそもガルフォードはベイダどころか皇帝に成り代わってまで世界を征服したいというような口ぶりでもあったから暴露するはずもないんだけどね。
そんな状況だから、皇帝がいないことなんていうのもあまり知られていないことだったりするわけよ。
まあ、私らのような上層部の者には知らされていたことだったけれども。
でも、それがどこへ行ったとまでは聞かされていないから、所在まではまったくわかっていないわね」
そして、リリアリスが言った。
「ま、そんなところね。
今の話に付け加えるとしたら、一応、皇帝らしき存在がリオメイラを通過していることだけはわかっていて、
そこからタンゲルというところに向けて出港したことまではつかめているんだけれども、
それ以降の足取りについてはさっぱりね。」
タンゲル――ティレックスも聞いたことがあるというレベル程度の港町の名前で、
詳しいことまではまったくわからなかった。
さらにリリアリスは話を続けた。
「これは黙っていてほしいんだけれども――」
それは、リリアリス自身がもう一つ隠し玉を持っているということであった。
ティレックスは何かと聞くと――
戦いが始まる随分前、ディブラウドを討った際の作戦の後のことだった。
それは、リリアリスがマダム・ダルジャンIIの整備をしているドッグ内、
そこにとある人物がやってきたため、リリアリスはプレイ・ルーム・ユニット内へと促しながら、話をし始めたのである。
「何よ、久しぶりじゃないの、どういう風の吹き回し?」
リリアリスはそう聞くと、そいつは答えた。
「どうと言われても、せっかくクラウディアスに来たのに戦の様相だし、
だったら外に出ようと思ったら戒厳令で渡航制限、足止めを食らってしまってね、
それで止む無くクラウディアスでディスタード兵相手に憂さ晴らしってなワケさ、ねえ姉さん」
そいつはそう言うと、姉さんは――
「あら、そうだったでしょうか、カイトが勝手にそうしようと言っただけではありませんか?」
そう言われたカイトは言い返した、そう、この2人はカイトとシエーナの姉弟コンビである。
「酷いなぁ、姉さんってばリリアさんが絡むと何かと意地悪したがるなあ――」
シエーナは笑っていた。
「うふふっ、まあまあ。
それでもこの戦の気配、しばらく止むことはなさそうですね――」
リリアリスは言った。
「そうね、ディスタード本土軍が割と本腰を上げてきたからね――」
それに対してカイトが訊いた。
「核兵器の可能性はないのかい?」
そう言われたリリアリスは頷いた。
「それを聞いてくるってことは、向こうはそれを所有しているとみて間違いないってワケね。
それで、使用については見えなかったってこと?」
シエーナが答えた。
「使用は検討していた、だけど、何かに邪魔をされているみたいですね――」
リリアリスはため息をつきながら言った。
「何よそれ、釈然としないわねぇ。じゃあ何? このまま予定通りに事を起こしていくだけで十分ってこと?」
カイトとシエーナは互いの顔を見合わせながら頷いた。
「そう言うことに――」
「……なりそうですね――」