ある日、クラウディウスの一室において。
「ティレックス、何してるの?」
ユーシェリアはティレックスの様子を見るや、疑問を投げかけた。
「いや、俺らが本土軍との戦いに集中している間に、他がどうなっているのか気になってな。
リリアさんから貰った資料を読んでいたんだよ」
そう言われると、ユーシェリアも気になっていたことがあった。
「クラウディウス連合軍の結成だなんて、とても早く話がまとまったと思わない?
だって、ディスタード本土軍を抑え込むって、ひとつの大国を包囲するなんてこと、そんなに簡単にできることなのかな?」
ティレックスは頷いた。
「それは俺も思った。だけど、あれは随分前から進めていたことらしい、ガレア軍が主導になってな」
「クラウディウスでなくて?」
「むしろディスタード内部という近さだからこそだと思う。
本土軍の顔色を伺いながら水面下では着々と包囲網を完成していくわけだ。
これが敵だったら本当にたまったもんじゃないだろうな」
それに対し、ユーシェリアはとあることを思い出した。
「あっ、そう言えば、アルディアスもその手でマウナ軍にやられたんだっけ、
あれはまさに仲間の裏切り行為そのものだったけれども――」
確かに――あの件についてはティレックスも思うところあった。
とはいえ過去は過去、思い出すことはあるかもしれないが、気にしてばかりはいられない。
しかし、本土軍をここまでボロボロにしてしまって、
問題の帝国軍の皇帝はどうなのだろうか、それについては資料にも記載がなかった。
だが、それについてはユーシェリアが解を持っていた。
「お姉様に聞いたんだけど、皇帝は既に本土島にはいなかったみたいね。
そうでなければ、あんなシステムDとかTとかいうようなバケモノを放つこととかしないもの」
言われてみればそれもそうである。
それこそ、本土島はクラウディウス軍の主力部隊を一気に全滅させる罠という感じだったことから、
主力の舞台や皇帝などの要人などはあの島にはいなくなっていたということになる。
となると、まだまだ一波乱二波乱ありそうな――
「皇帝はどこに行ったのだろうか?」
少なくとも海外――なんだろうけれども、資料に情報がない限りはそのあたりも不明なのだろう。
ティレックスは資料を返しにお城の5階のテラスにいるリリアリスのもとへと行ったのだが、
複数の端末を広げながらいろいろと作業をしており、なんだか忙しそうだった。
「あら、ティレックスじゃない? どうしたの、何か用?」
そこへ、フロレンティーナと出くわしたのである。
彼女と言えば、最初こそ色っぽいお姉さんというような風貌だったが、
今やリリアリスやアリエーラをリスペクトしたのか、
素敵な大人のおねーさんを感じさせる見た目に落ち着いていた――まあ、
男性陣的にはそちらのほうがウケが良いらしいが、ティレックスも含めて。
それはともかく、ティレックスはリリアリスに話しかけようとした。
しかし、フロレンティーナが先にリリアリスに話をしていた。
「具体的なところはメールに書くけど、
フェラント、グラエスタ、アクアレアとウィンゲル共にいずれも大きな被害は出ていないみたいよ」
それに対してリリアリスは頷いていた。
「ご苦労様。さっすが優秀な美人秘書さんね、本当に助かるわ。」
リリアリスは背伸びをしながらそう答えた。優秀な……美人秘書?
しかし、そう言われたフロレンティーナはなんだか照れている様子だった。
「おや、ティレックスじゃあないのよ、どうしたのよ?」
そう言われてティレックスは資料を返すために差し出した、だが、
「いいよ、それはあんたたちアルディアス軍にあげたものだから。」
それに対して、ティレックスは資料の表紙のある部分を指で指示した、すると――
「ふふっ、よく気が付いたわね、関心関心♪ 判を押し忘れているってことね。
じゃあ後で正式版をアルディアスの大使館に送っておくから、それでいい?」
それに対し、ティレックスは本国に送ってくれと頼むと、リリアリスは端末を操作しながら返事した。
「はい、了解っと。アルディアスは本国に送付してね、っと。
まったく、私としたことが、こんなミスをするなんて――」
どうしたのだろうか、ティレックスは聞くとリリアリスは呆れ気味に答えた。
「それが、あんたみたいな指摘をしてきたのが1人じゃあなかったのよ。
同じような資料を関係各所に配布したんだけど、判を押すのを忘れていてね、
それで、正式版を送付し直すことにしたワケよ。」
ティレックスは俺のだけじゃないんかいと思わずにはいられなかった。
そんな様を見ていたフロレンティーナは笑っていた。
「つーか、今時押印ってどんな文化よ! しかも紙媒体でほしいとか!
今の時代はペーパーレス! データでのやり取りに決まってるでしょ!」
それは……ティレックスは何とも言えなかった。
「いや、やっぱりクラウディアスからの正式公文書っていうものが欲しいって言ってたから……」
「だったらデータに電子証明書を付ければ十分でしょ!
これに賛同してくれたのはルーティスだけ! なんて時代遅れの世界なのよ!」
うぅ……ティレックスは悩んでいた、今回はともかく、お国に帰ったら改めて検討することにしようか、と。