エンドレス・ロード ~ティル・ジ・エンド・オブ・ザ・ワールド~

紡がれし軌跡 第3部 対決!ディスタード 第7章 アポカリプス

第226節 平常稼働

 ある日、クラウディアスの5階のテラスにて。
「なんだ、まだ休んでいるのか?」
 ヒュウガはリリアリスにそう言った。 リリアリスはテラスにサマーベッドのようなものを置いてその上でくつろいでいた。
「今回は自分自身の力も結構消耗したからね、久しぶりにこうやってリラックスすることにしたのよ。」
「そうか、まあ、あんたはそのほうがいい、いつも忙しくしているからな」
 ヒュウガはそう言うと、リリアリスはカードを取り出した。
「6枚持ち帰るつもりだったけど、持ち帰れたのはこの1枚だけよ。 1枚は導火線に消費して2枚は5人で脱出するために犠牲に。 2枚はヘイト弾撃ち続けるために回収を諦めて、もう1枚はホロウ・グラフと共に海の藻屑だわ。」
 ヒュウガは頭を抱えていた。
「それなら仕方がない、また新しく作るしかないな――」
「本当にごめんね。」
 ヒュウガは話を続けた。
「でも、よくあそこから脱出したな」
 あそこから脱出したのは、リリアリスの強靭な脚力と魔法エネルギー、 そして、戦艦が大爆発する際に生み出される爆風をすべて利用していたのである。
「手ごろな板数枚をちょっとした箱状に加工してね、 オーロラカードを2枚取り付けて即席の脱出ポッドを作ったのよ、カード2枚の役割は爆発を受ける位置を調整すること。 そしたら後は脱出ポッドごと勢いよく飛び出すだけなんだけど、それだけじゃあ船から非難するには推進力が足りないから、 あの場には無理に必要がないホロウ・グラフにたまっているエネルギーを利用して脱出ポッドを動かす燃料程度に使うためここでもう1枚消費。 結果、大爆発のせいで脱出ポッドが耐えきれなくて見事に空中分解。 このままだと爆発に巻き込まれてみんなで海の藻屑は必至だったから、ティレックスと抱えているユーシェリアは私の風魔法で押し出したんだけど、 ケガをしていたフローラはカスミが途中からフローラを抱えてくれて、私はとにかくカスミとティレックスを押し出すことで手いっぱいだった。 まあ、私自身はホロウ・グラフ取り付けた板に乗っていたことが幸いして爆発から逃れる分の飛距離は稼げたからいいけど、 流石に私もあれ以上の余裕はなかったからそのまま船を通り過ぎるのも仕方なし、後は御覧の通りってワケよ。」
 いつも無茶苦茶なことを考えるリリアリスだが、だからなのか、むしろ安心したヒュウガだった。
「あんたのことだからむしろいつも通りで安心したぞ、その調子なら大丈夫そうだな」
「ええ、おかげさまで、ありがとうね。」
「とんでもない、こちらこそいろいろと有意義な時間を過ごせた。 お礼ってわけではないが、せっかくだからとりあえず、オーロラ・カード5枚ぐらい作っとけばいいか?」
「どうせなら四の五の言わず、50枚ぐらいちゃっちゃと作りなさいよ。」
「前言撤回。四の五の言わず、5枚で我慢しろよ」

 フィールド・システム管理室にて、アリエーラとウィーニアが作業していた。
「これですべて終わりですね。」
 アリエーラはそう言うと、ウィーニアはスマートフォンを見ながら言った。
「クラウディアスのシステムにアクセスもできなくなったから大丈夫そうね」
 その様子を見ながらクラフォードは訊いた。
「何してるんだ?」
「各国のこのシステムの共有化が外せるようになっているのよ。 言っても、基本的に共有しているのって今のところ画面の共有ぐらいだけどね。 ほら、お国のセキュリティ上、他所の国の状況が見えるのって良くないでしょ?  また必要な時に共有すればいいんだから、今は切り替えができるかどうか確認しているところ、 もう終わったけどね~♪」
 ウィーニアは楽しそうにそう答えた。さらに訊いた。
「クラフォードは何しに来たの?」
 クラフォードは両手で端末の本体を取り出しながら答えた。
「俺はこいつを持ってきただけだ、ウィーニアに渡してくれって言われたからな」
 すると、ウィーニアはそれを受け取った。
「あれ、アトラストじゃなくてクラフォードが持ってきてくれたのね。 てか、あいつどうしたのよ?」
「あいつは大使館で足止めされてるぞ。 来ないから気になってあっちに行ったら、 システムトラブルが起きたとかで急遽駆り出されているみたいだ。 それで代わりに俺が持ってきたってところだ」
 すると、クラフォードは自分のカバンの中から何かを取り出した。
「ついでにお前に差し入れだ。ちょうどいいからアリエーラさんにも渡しておく」
 それはプリンだった。
「あらクラフォードったら、ありがとね♪」
 しかし、出てきたプリンは4個だった。
「俺はよくわからないんだが、なんかおいしいプリンらしい。 本当は俺らだけで食べる予定だったんだが、あっちがちょっと手間取っているから、 あんたらの好きなようにしてくれるといいだろう。 なに、別に遠慮するもんじゃないだろうから気にしなくていいさ」
「どうもわざわざすみません、クラフォードさん――」
 アリエーラはそう言うと、クラフォードは立ち去ろうとしていた。
「あれ? クラフォードは食べないの?」
 ウィーニアがそう言うとクラフォードは答えた。
「俺はもともと甘いものは得意じゃないから別に構わない。 ついでにリリアリスにも会ってくるところだ」
 すると、アリエーラが言った。
「あ、あの、すみません、でしたらこのプリン、リリアさんに――」
 クラフォードは片手を上げながら言った。
「大丈夫、買ったのは5個だ」