ヴィザント艦へ、一番最後に登り切ったディアナが到着すると、リリアリスは隠れる場所へと促した。
「さてと、これで全員乗船完了というところですね。そしたらどうします?」
ディアナが言うと、リリアリスが言った。
しかしどういうわけか、右手で頭を抱えていた。
どうかしたのだろうか、本当に大丈夫か?
それはともかく、リリアリスは少々辛そうな面持ちで話を続けた。
「全部で12人、4つに分かれて行動するのがいいところね。となると――どうした方がいいかしら?」
どうした方がいいって――あまりリリアリスらしくなかった、考えがまとまっていないようだった。
アリエーラとユーシェリア、そしてティレックスのやり取り、
なんだかんだでティレックスはユーシェリアのことについて言いくるめられていた。
「ティレックス、改めてよろしくね♪」
ユーシェリアはティレックスの腕にがっちりしがみつきながらそう言うと、ティレックスは態度を改めて言った。
「わかったよユーシィ。くれぐれも無茶をするんじゃないぞ」
確かに、これまでユーシェリアのことは心配していたティレックス、
少々開き直り気味にそう言うと、ユーシェリアは嬉しそうにしていた。
「はーい♪」
そんな2人を見守っているアリエーラはにっこりとしていたが、その顔はなんだか青ざめていた――
「お姉様?」
ユーシェリアはアリエーラの顔色が悪いことに気が付いた。それに対してティレックスも訊いた。
「す、すみません、返って心配させているようですね。
ともかく、この戦いで最後にしましょう、そしたらみんなでゆっくりと休みましょうね――」
アリエーラはなんとか元気に振舞ってそう言った、本当に大丈夫だろうか、2人の心配は尽きない。
そして、フラウディアとスレアの間を取り持っている仲人フロレンティーナの3人組。
「やれやれ、まさか私がこんな素敵なカップルの仲人になるなんて、嬉しいわね。
でも、お熱いところを見せつけるのは別の機会にしてくれると助かるわね――」
フロレンティーナはそう皮肉を言うと、フラウディアは少し照れた感じで嬉しそうに「はーい♪」と返事した。
一方でスレアのほうはひどく照れていた。
「ま、まあ、それはいいから、早いところ、ミサイルの格納庫らしい場所だけでも確認しておこうか――」
スレアは焦りながらそう言うと、フロレンティーナが言った。
「ちょっ、ちょっと待って、なんだか妙に疲れちゃったわ、だからゆっくり行ってくれない?」
それに対してスレアは驚いていた。
「えっ、フローラさんも?」
”も”ってなんだろうか、フロレンティーナはそう訊くと、フラウディアが答えた。
「私も、フェラントに行く前にスレアさんに言いました、あの時は少し気分が悪くて――」
そうなの? するとフロレンティーナは話した。
「気分か――言われてみれば、ここ最近、私も気分があまりよくないっていうか、
昨日なんかはそれこそ嘔吐しちゃっているからね。
リリアもアリも倒れたり、機嫌が悪かったりしていたけど、私も大体似たような感じよ。スレアは大丈夫なの?」
それに対してスレアは頷いた。
「マジか、みんなもそうなのか。確かに俺もここ数日食欲があまりなくてな。
それに寝起きも最悪で、1時間弱ぐらいはとにかく最低な気分だ。一体、何がどうなっているのやら――」
クラフォードとフィリス、そしてイールアーズのやり取り、クラフォードは言った。
「まあ、言わんとしていることはわからんでもない。
でも、いずれにしても、見張りの兵がいるのは変わりはないんだ。
どうせ事を起こすにしても、どうやら”ミスト・スクリーン”の影響下の中だったら基本的に見つかりっこないのはまず間違いないらしい。
だから、まずは事を起こさないで様子を見ているべきのようだ」
そう言いつつフィリスのほうを向くと、フィリスは頭を押さえていた。
クラフォードは彼女を心配しながら話を続けた。
「ま、まあ、何をするにせよ、何も知らずに決断を急ぐのは早計――だから、
まずはきちんと様子を見てから計画を立てようぜってことだ、そうだろ?」
そう言われたイールアーズは不服だった。
とはいえ、流石にこの規模の船の上では、
何をするにしてもクラフォードの言うように、何も知らずに決断を急ぐのは早計――イールアーズはとりあえず、
ここは一旦堪えることにした。
「なんでもいいけど大丈夫か? 顔が真っ青だぞ?」
クラフォードがそう訊くとフィリスは答えた。
「大丈夫、なんでもない。なんていうかここ最近、こんな感じなのよね。どうしたものかしらねえ――」
クラフォードは頷いた。
「みんな、疲れているんだな――」
それに対してイールアーズは言った。
「フン! あれだけ大口叩いておきながら結局それかよ!」
それに対してフィリスがカッとなって何かを言おうとしたがクラフォードがすぐさま割り込んで言った。
「悪いな、実は俺もあんまり調子が良くない。
女性陣だけかと思ったんだが、スレアもディルも、他の男性陣も軒並み調子がすこぶる悪くてだな。
とまあそういう状況だから、何故か絶好調続きの鬼人剣先生に全面的にお願いした方がいいかと思ったわけだ。
な、こういう時の鬼人剣先生だろ? 違ったか? それとも、結局頼れないただのシスコン――」
すると、イールアーズに再び火が点いた。
「シスコンじゃねえ! いいだろう、そこまで言うのなら見せてやろうじゃねえか。
そういうことならお前らは黙って見ているだけで充分だ、足さえ引っ張らなければな!」
その後姿を見ながら、フィリスは言った。
「なんか、フォローしてくれたみたいで悪いね。
確かに、吐き出すべき相手はあいつじゃなくて敵のほうよね。
あんなの相手に、あんたまで調子が悪い扱いになって弱み見せちゃったみたいな感じになって、かえって悪いね――」
だがしかし、そのクラフォードも頭を抱えていた。
えっ、大丈夫――フィリスはそう訊くと、クラフォードは頭を上げながら答えた。
「ああ、大丈夫だ。
見ての通り、俺も本当に調子が悪いのは同じだ、イールだけ調子がいいのはなんでなんだろうな。
しかしなんでだろうか――これはあの時の――」
クラフォードはそう考えながら言うと、フィリスは首をかしげていた。
リリアリスたちは艦橋までやってくると、そこにいた帝国兵たちを一蹴していた。
「いないようですね、司令官に相当する人物は――」
ディアナがそう言うと、リリアリスは剣……”兵器”を降ろしながら言った。
「いるとしたら多分エナジー・ルーム的なところね、アリと対峙しているような感じがする――」
えっ、そんな! それなら彼女を助けに行かないと!
ディアナはそう言うとリリアリスは答えた。だが――
「アリなら平気よ、たとえどんな手練れが相手だとしても、アリには敵いっこないからそこは安心していい。
それよりも――なんだかひどく嫌な予感がするの――」
リリアリスはなんだか不安そうな表情で窓から南西方向の海、
セラフィック・ランド方面の海をじっと眺めつつ、再び電話をしていた。