エンドレス・ロード ~ティル・ジ・エンド・オブ・ザ・ワールド~

紡がれし軌跡 第3部 対決!ディスタード 第7章 アポカリプス

第209節 欠陥設計

 一方でクラウディアスでは――
「ミサイルの着弾ポイントはガーディアン・ウォールより南方向に約20kmの地点のようです」
 ラトラがそう言った。それに対し、クラウディアスにやってきていたヒュウガが頭を抱えながら言った。
「幻界碑石から南に20kmってことは着弾地点というより着水地点だな。 ったく、クラウディアスに来て早々ミサイルを受けた話を聞くハメになるとはな――」
 ラシルは訊いた。
「なんていうか、攻撃してきた割には全然届いていないようですが、どういうことなんでしょうか?  確かに、あのミサイルの欠点については聞いていますが、位置的に届かないのでしょうか? それとも――」
 ヒュウガは椅子に座り、ゆっくりとした態勢で端末を広げつつ、そのまま頭を抱えながら言った。
「いや、届かないんじゃなくて、牽制のつもりで打ち込んできたんだろ、射程圏内なのは確実だ。 だから一旦撃ってこちらの様子を見ようってのが連中の狙いなんじゃないか?  ただ、着弾地点が連中から見て左方向に流れているのは確かにあのミサイルの欠点だ、 どうしても左方向に流れるような設計になっているから、まあ、着水地点としての説明はつくだろうな」
 ラシルは頷きながら話を切り出した。
「それにしても、欠点だらけのミサイルみたいですね、 僕がリリアさんやリファリウスさん、それにヒュウガさんが作るものばかりしか体験していないからなのかもしれませんが、 他所の国のものって、あんまり質のいいものがないように感じてしまいますね、 フローナス製のミサイルも、やっぱりそう言うことなんでしょうね――」
 それに対してラトラが言った。
「いや、フローナス製のミサイルについては、少なくともそういうことではないみたいだよ?」
 えっ、こんな欠陥だらけのミサイルなのに? ラシルはそう言うと、ヒュウガが話を続けた。
「そういやお前、フローナスとの例の会議に参加していたんだっけな。 確かに、俺とあいつとでミサイルの設計図を確認していたんだが、想像を絶するほどの欠陥があってな、 それこそ、リスト化すると膨大なデータの数だったぐらいだ。 とはいえ、普通に使う分には気が付かないレベルでの欠陥だから、 だからこそ、敵に奪われるほどの高性能なミサイルとして利用されたわけだが――」
 そもそも、フローナスでは戦争のために長距離ミサイルを製造するというのはごく普通のことであり、 世界でもトップクラスの品質を誇るそれを作る国としても有名だったという。 それにより、フローナスは独立した国家として成立するに至った。 だが、それだけ性能の高いミサイルとなると、 他の国も戦争で勝つためにはフローナス製のミサイルに頼りたいという考えも出てくる。 しかしながら当然フローナスはそれを拒否、相手の国を突っぱねた。
「だけど、戦争に勝つために是が非でもフローナスのミサイルを使いたい国は、 あの手この手でミサイルの設計図を盗もうと画策するわけだ。 となるとつまり、いつフローナスのミサイルが戦争で使われるとも限らなくなってくるわけだ。 そうなると、フローナスとしては自分の国に世界を破壊するための爆弾を抱えている国だとして、 自分たちを恐れるようになっていくことにもなる」
 その話を聞いてラシルはまさかと思った、それに対し、ラトラが言った。
「そう、そのまさかだよ。 フローナスは最初から欠陥品のミサイルを作ることにしていたんだよ。 そのために従来の高性能の設計図を捨て、わざと欠陥仕様のミサイルを1から作り直すことを目指したわけだ」
 ヒュウガは続けて言った。
「でなければこんな設計図のミサイルになるはずがないんだ、 欠陥が多いにしても、あの図面には欠陥の多さについては異様ともいえる不自然さがある。 本土軍や無国籍小隊、あるいは南の旧帝国軍のエンジニアにはそこまで気が付く能力はなかったようだが、俺らにはお見通しだ。 フローナスにそれを掛け合ったら”偽造された際の運用を妨害するため”だとあっさりと認めていたな」
 それを聞いてラシルは納得した、世界にはいろんなことを考える人がいるんだな、と。
「それにしても大丈夫ですか、ヒュウガさん――」
 ラトラはヒュウガにそっと話しかけた。
「ん? ああ、多分な。それにしても嫌な気分だ」
 ラシルが言う。
「ここ最近、みなさんおかしいんですよ。僕もヴァドスも平気なんですけど、ラトラ、キミだって――」
「僕はとりあえず薬を飲んでなんとかしのいでいますけどね」
 するとヒュウガはラトラに訊いた。
「そうか、その手があったか、俺にもその薬を分けてくんないか?」
「あっ、はい、構いませんけど――」
 そう言いながらラトラは一度去ると、ヒュウガは呟いた。
「まさかとは思うが、これってのはつまり――」