ミスト・スクリーンに隠れている状態でクラフォードは目の前に敵の兵隊が横切ったことで少し驚いていた。
それに対し、ふと思ったことを話した。
「あのさ、俺たちって本当に見つかっていないのか?
確かに、”ミスト・スクリーン”ってずいぶんと強力な魔法だし、
今のも全然見つかっているようではないという感じなのはわかるが、
それにしてはちょっと派手に会話をぶちかまして来たから少し気になってな――」
フィリスは答えた。
「派手に会話をぶちかましている分だけ敵も違和感を感じているんじゃないの?
さっきに比べたら見張の兵が増えている気がするしさ。
言っても問題はこの後の行動なわけだけど、だからそれさえ考えていれば大丈夫なんじゃない?」
すると、イールアーズが言った。
「それについては同意するが、一度そういうことで怪しまれると、ここは洋上、逃げ道なんてないわけだからな、
つまりは誰かが見つかるまで敵は探し続けるはずだ、それはそれで大丈夫というのはどうかと思うんだが」
クラフォードは付け加えた。
「まあ、言わんとしていることはわからんでもない。
でも、いずれにしても、見張りの兵がいるのは変わりはないんだ。
どうせ事を起こすにしても、どうやら”ミスト・スクリーン”の影響下の中だったら基本的に見つかりっこないのはまず間違いないらしい。
だから……まあ、どうやら問題はないみたいだし、
結局は事を起こさないで様子を見ているべきのようだってことになりそうか――」
そう言いつつフィリスのほうを向くと、フィリスは頭を押さえていた。
クラフォードは彼女を心配しながら話を続けた。
「ま、まあ、何をするにせよ、何も知らずに決断を急ぐのは早計――だから、
まずはきちんと様子を見てから計画を立てようぜってことだ、そうだろ?」
そう言われたイールアーズは不服だった。
とはいえ、流石にこの規模の船の上では、
何をするにしてもクラフォードの言うように、何も知らずに決断を急ぐのは早計――イールアーズはとりあえず、
ここは一旦堪えることにした。
「なんでもいいけど大丈夫か? 顔が真っ青だぞ?」
クラフォードがそう訊くとフィリスは答えた。
「大丈夫、なんでもない。なんていうかここ最近、こんな感じなのよね。どうしたものかしらねえ――」
クラフォードは頷いた。
「みんな、疲れているんだな――」
それに対してイールアーズは言った。
「フン! あれだけ大口叩いておきながら結局それかよ!」
それに対してフィリスがカッとなって何かを言おうとしたがクラフォードがすぐさま割り込んで言った。
「悪いな、実は俺もあんまり調子が良くない。
女性陣だけかと思ったんだが、スレアもディルも、他の男性陣も軒並み調子がすこぶる悪くてだな。
とまあそういう状況だから、何故か絶好調続きの鬼人剣先生に全面的にお願いした方がいいかと思ったわけだ。
な、こういう時の鬼人剣先生だろ? 違ったか? それとも、結局頼れないただのシスコン――」
すると、イールアーズに再び火が点いた。
「シスコンじゃねえ! いいだろう、そこまで言うのなら見せてやろうじゃねえか。
そういうことならお前らは黙って見ているだけで充分だ、足さえ引っ張らなければな!」
その後姿を見ながら、フィリスは言った。
「なんか、フォローしてくれたみたいで悪いね。
確かに、吐き出すべき相手はあいつじゃなくて敵のほうよね。
あんなの相手に、あんたまで調子が悪い扱いになって弱み見せちゃったみたいな感じになって、かえって悪いね――」
だがしかし、そのクラフォードも頭を抱えていた。
えっ、大丈夫――フィリスはそう訊くと、クラフォードは頭を上げながら答えた。
「ああ、大丈夫だ。
見ての通り、俺も本当に調子が悪いのは同じだ、イールだけ調子がいいのはなんでなんだろうな。
しかしなんでだろうか――これはあの時の――」
クラフォードはそう考えながら言うと、フィリスは首をかしげていた。