エンドレス・ロード ~ティル・ジ・エンド・オブ・ザ・ワールド~

紡がれし軌跡 第3部 対決!ディスタード 第7章 アポカリプス

第205節 奇跡の問題児

 ヴィザント艦は止まった。 それに対し、マダム・ダルジャン側は波が消えないうちに早めにヴィザント艦の横に最接近、 リリアリスは壊れた電動リールが巻いている糸を手で延ばすと、そのままヴィザント艦のタラップに括り付けた。
「とりあえず、これでOKね。 恐らくだけど、これが本土軍との最後の戦いになるはずよ。覚悟はいいかしら?」
 それに対し、フィリス以外は頷いた。一方のフィリスと言えば――
「ここまで参戦しといて言うことじゃあないかもしんないけどさ、 そもそも、その本土軍ってのがなんなのかがイマイチよくわかってないのよね。 だから、敵であれば倒すだけ、でいい?」
 言われてみれば、彼女と本土軍との関係はその程度のものだったか。 それなら、彼女についてはそれでいいことにしよう。

 リリアリスはいつもの通り、タラップの存在を無視して跳び上がって艦に乗り込むと、 周りの様子を見ながら他のメンバーに注意を促していた。
「本当に便利な能力だな、俺もあれぐらいのことがしてみたくなったぞ」
 ティレックスがそう言いながらタラップの梯子を1つ1つ丁寧に登っていると、 ユーシェリアがタラップの安全ガード部分のリング状のところを伝ってティレックスを追い抜いて行った。
「ティレックス♪ お先に♪」
 その様子にティレックスは呆気に取られていた。
「可愛いじゃないか、射止めるんだったら早い方がいいぞ」
 クラフォードはそう言うと、ティレックスはため息をつきつつ、タラップを登りながら言った。
「なんか、どこかの誰かさんに似てきている気がしてならないな」
「”あのおねーさん”か? まあ、その気配はなくもないな。 でも、”あのおねーさん”に似てくるんだったらいいんじゃないか? 言っても一応美人だしな」
 確かに、一応美人ではある、一応……ここが何気にポイントである。
「あんた、そういうやつだったっけか」
「ああ、どうやらこういうやつらしい。 いつものようにじっとしかめっ面しててもなんも面白くないことに気が付いてしまったからな。 ついでにティルア自衛団のリーダーになっちまったから、社交性ってのは大事な要素だ。 お前もルダトーラ・トルーパーズのリーダーだったら気にしておいた方がいいと思うぞ」
 うっ、今のはティレックスの心にグサッと食い込む要素だった。
「おい、しゃべってないで、さっさと登ることだけに集中しろ」
 後ろからイールアーズがそう言うと、ティレックスとクラフォードは小声で話した。
「俺は少なくとも、あいつとは違うからな」
「ああ、大丈夫、それだけは俺の認識とも一致しているから心配するな。 そもそも論としてあいつは問題外レベルだ、存在していること自体が奇跡みたいなもんだからな」
 ティレックスと、その話が聞こえたスレアも密かに笑っていた。
「物騒で奇跡の問題児」
「確かに奇跡の問題児。」
 すでに登っていたカスミは下の会話を聞きながらそう呟くと、 一緒にいたリリアリスも同調してそう言い、アリエーラは苦笑いしていた。
「そこ、何だか知らんがうっさいぞ!」
 イールアーズはその3名の女性に対して文句を垂れていた。 しかし、そのやり取りに他の全員は思いっきり笑っていた。 見つかったらどうする気だ、なんとも緊張感のない敵地潜入作戦である。

 一番最後に登り切ったディアナが到着すると、リリアリスは隠れる場所へと促した。
「さてと、これで全員乗船完了というところですね。そしたらどうします?」
 ディアナが言うと、リリアリスが言った。 しかしどういうわけか、右手で頭を抱えていた。 どうかしたのだろうか、本当に大丈夫か?
 それはともかく、リリアリスは少々辛そうな面持ちで話を続けた。
「全部で12人、4つに分かれて行動するのがいいところね。となると――どうした方がいいかしら?」
 どうした方がいいって――あまりリリアリスらしくなかった、考えがまとまっていないようだった。 とにかく、連日のリリアリスの状況をすぐさま察したクラフォードが提案した。
「じゃあ、こうしたらどうだ? ”ネームレス”らしき人物がちょうど4人いるみたいだから、 それを4人に分けて、そこから適当に振り分けるっていう感じだ」
 クラフォードと同じく、状況を察したディアナは頷いた。
「いいですね、”ネームレス”さんのお力を最大限に利用するということですね。 そして、せっかくですからフラウディアさんとスレアさん、 それと、ティレックスさんとユーシェリアさんもペアにしてしまいましょう」
 えっ、なんで俺とユーシィが!? ティレックスはそう訊くとフロレンティーナが言った。
「なんでってあんた、ユーシィのことが心配じゃないの?」
 そう言われると確かにそうだが、それと同時にユーシェリアはティレックスのことをじっと見つめていた――
「一緒にいてやれよ、な?」
 クラフォードにも促され、ティレックスは承諾することにした。
「ティレックス、よろしくね♪」
「ああ、こちらこそ改めてよろしくな」
 ティレックスは棒読み気味に返答した。