エンドレス・ロード ~ティル・ジ・エンド・オブ・ザ・ワールド~

紡がれし軌跡 第3部 対決!ディスタード 第7章 アポカリプス

第203節 初号機、始動

 あの後、リリアリスはマダム・ダルジャンIIに乗っていたメンバーとアリエーラ、 そして、フィリスとユーシェリアまで引き連れ、フェラントの港へとやってきた。 有事のためか、フェラントの港は物々しい雰囲気に包まれていたが、 リリアリスらは気にせずに港を通過、ドッグの中へと侵入した。
「海に出れば気が紛れるか?」
 クラフォードはリリアリスとアリエーラの2人にそう訊いた。
「そう願いたいわね。」
「まあそうですね、これから戦いになると思いますが、ストレス解消にはちょうどいいのかもしれません。」
 確かにストレス解消してくれればちょうどいいのだが、クラフォードはそう願っていた。 そんなクラフォードに対してリリアリスは訊いた。
「あんた案外優しいのね。今のはポイント高いわよ。プラス50点。」
 なんだそれ――クラフォードはそう言いながら頭を抱えていた。 でもまあいいか、機嫌がいいに越したことはない。
 そして、ドッグの奥には、ティレックス的には見覚えのある船が。
「まさか、マダム・ダルジャン初号機?」
 リリアリスは頷いた。
「解体しないでよかったわね、2号機作ってからすぐにでもそうするつもりだったんだけど、 暇がなくて、辛うじて生きているところよ。」
 しかし、以前のマダム・ダルジャンに比べると、見るも無残な感じの姿だった、それもそのハズ――
「ユニットはほとんど2号機に移したからね。 初号機は見ての通り、釣り用の電動リールとかが備え付けなのよ。 まあ、前に言った通り、テンペスト・シーブリームにぶっ壊されちゃったからもう使えないんだけどね。 で、今回肝になるのがこのユニットね。」
 リリアリスはブルーシートをはがしながら言った。
「名付けてホロウ・グラフ・システム・ユニットよ。 フィールド・システムの展開するそれとは違って、完全に姿をくらますためのものだから、 敵からは完全に姿が見えないのが特徴よ。」
 ん? 完全に姿をくらますと言えば――ティレックスは思い出した。
「そんなことってできるのか?  以前は”ミスト・スクリーン”みたいな魔法では完全に姿をくらますのは困難だって言ってたような気がするが、 このユニットではそれを可能にしている?」
 リリアリスは得意げに答えた。
「流石に覚えていたわね、その通り、今のはいい質問ね。 確かに、あんたの言う通り、本来であればこの船ごと姿をくらますのは難しいことになるけれども、 今回は魔法の専門家に”ミスト・スクリーン”で姿をくらませる条件を聞いてみましょう。」
 それに対してアリエーラが答えた。
「つまりは私の出番ということですね。 確かに、本来であれば大きいものは隠しきれないのが”ミスト・スクリーン”の欠点だと言われています。 ですが、実際”ミスト・スクリーン”で隠せない原因の多くは、使い手の魔力不足であることがほとんどです。 それにより、”ミスト・スクリーン”で覆い隠せる部分が制限されてしまい、 それが結果として大きなものを隠すのが難しいということになっているのです。」
 アリエーラはさらに話を続けた。
「そして、問題はここからなのですが、では、どのぐらいの大きさのものであれば完全に隠せるのか、 ”ミスト・スクリーン”の一般的な術者……まあ、それ自身が高等魔法ですからある程度の高さの魔力量にはなりますが、 その方の力で”ミスト・スクリーン”の効果範囲を調べるという実験がなされたのです。 それについては、ルーティスに研究資料がありますので、詳細についてはお暇なときにでもそちらをご確認ください。」
 リリアリスはそろっと出港の準備を完了させ、マダム・ダルジャンをゆっくりと動かしていた。 そんな中、アリエーラは話を続けていた。
「結果は――実は、”ミスト・スクリーン”自体はある程度の大きさのものでも十分隠しきれることが判明しました。 それこそ、使用する魔力が大きければ大きいほどどんなに大きいものでも隠せるという強力な魔法だったのです。」
 何がなんだかわからなかった、実験では大きなものでも隠せる魔法なのに、 いざ使ってみると隠しきれていないというのは――それについてはアリエーラが話した。
「実験と実際とで何故違いがあるのか、実は”ミスト・スクリーン”の欠点は意外と簡単な理由があったのです、なんだと思います?」
 アリエーラはそう訊いてきた、いや、それこそまさに今聞いているハズの内容だったのだが。 それについて、彼女はヒントを出した。
「ヒントは――まさに今のこの船の状況がそれを物語っていますね――」
 今の船の状況? どういうことだろうか、クラフォードは首をかしげていた。
「ちなみに私は知っているからパスね。見てることにするわ」
 フィリスはそう言った。なんだか意地悪……
「私も見てるだけ、みんながんばれ」
 カスミもそう言った。こちらの御仁については相変わらずのことである。
「何かしら――っていうか、いつの間に出港したのね、それで、今は敵から私たちの姿が見えない状況になっているわけ?」
 フロレンティーナがそう訊くと、リリアリスは頷いた。
「ええ、もうすでにシステムを展開しているから、私たちの姿は誰からも確認できないはずよ。 それこそ、これは”ミスト・スクリーン”関係ないんだけど、魔力レーダーにも引っかからないようになっているハズよ。」
 それはすごい――フロレンティーナは改めて感心していた。
「私はわからないわね、パスよ」
「私も降参です――」
「私もわかんないけど――すごい技術ですね! こんな大きな船をまるっと隠してしまうだなんて!」
 フロレンティーナ、フラウディア、そして、ユーシェリアの3人はそれぞれそう言って諦めていた。 そんな中、イールアーズはつっけんどんに言い始めた。
「んな能書きはどうでもいい。 敵艦叩くんだったらさっさと行けばいいだろ、どうせ敵に見つかんないんだったら好都合だし、 その魔法の効果的には万が一見つからんとも限らんわけだから、 だったらこんなところでトロトロしてないで、さっさと行ってさっさとケリをつければいいと俺は思うんだがな」
 また乱暴な――クラフォードは呆れていた。 だが、イールアーズのそのセリフを聞いてティレックスは閃いた。 そして、デッキから少し身を乗り出して海面などを確認しながら言った。
「なるほど、そういうことか!  イール、多分だが、これ以上スピードを上げるのは無理そうだからしばらく昼寝でもしていた方がいいと思うぞ」
 そう言われたイールアーズは憤怒した。
「はあ? なんでだよ、ご自慢の船なんだからもっとスピードが出るんだろうが、ちんたらしてないではよ動かせよ」
 そう言われて他の全員も気が付き、代表してディアナが答えた。
「”ミスト・スクリーン”の有効制限は”大きさ”と”スピード”ということですね!」
 アリエーラはにっこりとしながら答えた。
「はい、ご名答です!  ”ミスト・スクリーン”の実験では、対象となる物体は常に停止していましたので、 隠す分には大きさに関係なく有効だったことが判明しました。ところが――」
 フロレンティーナはカスミを抱き上げながら話を続けた。
「確かに、”ミスト・スクリーン”は隠す対象物の場所を判定して隠すという都合上、 隠す物体の位置がずれると隠す場所の判定もずらしていく必要があるということになるわけか。 となると、その際にどうしても物体を隠す判定をするまでのラグが起こってしまうというわけね。 だから、この子みたいにとまでは言わないまでも、 隠す物体が小さい場合は”ミスト・スクリーン”の有効範囲がその物体よりも一回り二回り広ければ問題ないけれども、 物体が大きいと――」
 アリエーラが話した。
「ええ、ご明察です!  ラグについては使い手の魔力次第で解消できる範囲ですが、それでもラグは発生します。 そして、フロレンティーナさんのおっしゃるように、スクリーンの展開する有効範囲なんて、 ほとんどの場合は隠す人の大きさプラス人1人か2人分がせいぜいですので、 隠す物体が大きく、なおかつスピードが出ている物体であれば隠すのが困難なのは当然のことです。」
 そして、リリアリスが話を続けた。
「というわけで、その性質を考えて、この船は今ノロノロと動かすことにしているってわけよ。 一応、”ミスト・スクリーン”の展開先を計算しながら動いているから、そこそこにスピードは出ているけれども、 まあ、この速度が一応限界の速度といったところね。」
 その話を聞いたイールはムキになりながら言い放った。
「わかったよ! 昼寝してくればいいんだろ! 着いたら絶対に起こせよな!」
 イールアーズが去ると、ディアナが言った。
「まったく、これはすごいことなのに、あいつにはそれが伝わらないっていうのが残念なところね――」
 それに対してリリアリスとフィリスとフロレンティーナと男性陣はため息をつき、 他の女性陣は心配そうにしていた。
「でも、聞き分けないわけでもなく、 ちゃんとそのタイミングまで大人しくしてくれるところはちょっとだけ可愛げがあるんじゃない?」
 と、フロレンティーナは言った、言われてみればそれもそうだった、 イールアーズにとっては数少ない褒められるべき点だった。
「でも、なーんか、あいつさ、どっかの誰かさんにそっくりね」
 フィリスはそう言うと、リリアリスとカスミはそれぞれ考えながら言った。
「確かにそっくりね――」
「物騒、確かにそっくり」
 誰のことだろうか、もしかしたら言うまでもないかもしれないけれども。