エンドレス・ロード ~ティル・ジ・エンド・オブ・ザ・ワールド~

紡がれし軌跡 第3部 対決!ディスタード 第7章 アポカリプス

第202節 技術提供

 フローナスからの入電はガレア側から直接スピーカーをつないで話をすることになった。
「どうも、アンジェラよ、アールが不在だから私が代わりに受けるわよ。」
 リリアリスがそう言うと、フローナス大総統は答えた。
「そうか、それならそれで構わん。 それはともかく、最近我が軍のロケットミサイルがずいぶんと悪用されているような話を聞いているのだが、 ガレア側ではどのぐらい把握しているのかと思ってな。何かつかんではないか?」
 それについて、リリアリスがある程度話をした。
「ディスタード本土軍が――裏で糸を引いていたのか。 それで、つまりはガレア軍が事態を収束させようと動いているのだな?」
「ええ、まあ、そんなところよ。 本土軍はもうガタガタだからそこは問題ないけれども、 ミサイルをどういなすかは課題のまま残っていてね、どうしたもんかしらね――」
 すると、フローナス大総統はため息をつきながら返答した。
「そうか、やはり我が軍のロケットミサイルが問題か。 して、無国籍小隊側から我が軍のロケットミサイルの設計図については見つかったのか?」
「それが、改造にかかる部分については見つかったんだけど、 内部構造の具体的な情報はさっぱりで、とにかく防御シールドで防ぐことぐらいしか有効策がないのよね。」
 リリアリスは悩みながら言うとフローナス大総統は話した。
「やはりそうか。そういうことであれば、こちらとしても何もしないわけにはいかないな」
 フローナス大総統はさらに続けざまに言った。
「そういうこともあろうと思ってな、ガレア軍には我が軍のロケットミサイルの設計図を提供することに決定したのだ」
「えっ、そんな大事な情報、いいのかしら?」
「構わん、すでにディスタード本土軍に盗用されている以上、 それに歯止めをかけられるのはガレア軍しかいないのだろう?」
 すると、リリアリスは少し考えてから言った。
「あの、その情報だけど、クラウディアスにも共有しても大丈夫?」
 それに対してフローナスは関心を示しながら言った。
「そうか、そうだった、ディスタード本土軍ということは標的はクラウディアスか。 まあ、そういうことであれば好きにしていいだろう。 クラウディアスと言えば、最近は連合軍を結成して事に当たっていると聞くが、やはりそれはガレア軍の差し金か?」
 リリアリスは何か言おうとしたが、フローナス大総統は続けざまに言った。
「まあ、この際その話はいいだろう、いずれにせよ我が軍のロケットミサイルの情報は既に外部に漏れている、 どの勢力にも遅かれ早かれその情報が伝わることになるのは明白だ。 それならば、我らと同盟を結んでいるガレア軍には早めに知らせる必要があると思ってな、 こうして直接話をした次第だ」
 その後、フローナス大総統はアール将軍によろしくなどといいながら話を切った。 そして、その後にクラフォードが言った。
「そもそもの話になるが、アール不在って、やつはどこにいるんだよ」
「さあね、どうしたのかしら。」
 リリアリスは得意げに答えた。

 翌日、リリアリスはフローナスから受け取ったフローナス製のロケットミサイルと、 無国籍小隊による改造部分の設計図を照らし合わせながら確認していた、すると――
「どう? 何かわかった? 私、兵器についてはてんでさっぱりだから、見ていてもちんぷんかんぷんなんだけど―― でもぱっと見、流石にフローナスの設計図は開発元だからなのか、無国籍小隊のものに比べてかなり詳細に書いてあるわね――」
 フロレンティーナがそう言うが、リリアリスからは返答がなかった。
「ねえ、リリア――」
 フロレンティーナは再び訊ねると、リリアリスはなんだかムキになっているような感じで返答した。
「なによ!」
 それに対し、フロレンティーナは酷く驚いた。するとリリアリスは慌てて答えた。
「あっ、ごめん! ちょっと集中しすぎちゃってて、今のはどう考えてもないよね――」
 フロレンティーナは優しく言った。
「ううん、みんな疲れているのよ。だってリリアったら、昨日倒れたっていうじゃない。 私もそう、今朝起きてもなんかさっぱりしたような感じがしないのよ、多分疲れがたまっているんだわ。 だからリリアも、無理はしないようにね――」
 それに対し、リリアリスは少し照れたような様子で答えた。
「ありがとうフローラ。確かに、最近の私ってばどうかしているわね、気を付けるようにするよ。」
 でも、本当に大丈夫なのだろうか、その場に居合わせたティレックスと、 昨日彼女が倒れた現場を目撃しているクラフォードは心配そうに見ていた。
 それで、何の話だったっけ、リリアリスはそう訊ねてフロレンティーナから話を聞くと、リリアリスは答えた。
「ホント、たとえ兵器といえど、こういうところがしっかりしているっていうのは、 後先も考えて作っているぞっていうことの表れよね、これぐらいちゃんとしたものなら解体するときも楽だし、 効果や万が一の事故が発生した場合の問題分析もわかるというものよ。 中でも、特筆すべきは飛距離で、フローナスはそもそも戦争する気なんか一切なく、 自国の防衛のためでしかこのミサイルを作っていないってことがわかるわね。」
 フローナスの長距離ロケットミサイルだが、そもそもフローナスには近い国でもかなりの距離があり、 たとえこの仕様の長距離ロケットミサイルでも一番近い国には届かない代物なのだという。
 そして、皮肉にも、このミサイルを作らなければいけなかった理由というのが、 戦争したいディスタード本土軍のような輩が存在しているからということである。
「それなのに、無国籍小隊というか、ディスタード本土軍はそのミサイルに飛距離を足して、 よその国を攻撃するための兵器として完成させてしまったということになるわけか――」
 ティレックスがそう言うとリリアリスは頷いた。
「ジェレイナに言って実物を解体させて確認させているところだけれども、 内部構造はあまり改造で手が加えられていないみたいね、 だから、改造は外部にブースターを取り付けて飛距離を足しているだけのものみたいよ。」
「ということはつまり、ミサイルの中身自体はほぼフローナス製の性能そのものということか、 それだけフローナスのミサイル技術は高いということなのか」
 クラフォードがそう言うとリリアリスが言った。
「というか、本土軍は別にモノの良し悪しで選択しているわけではなく、 たまたま見つけたのがフローナス製のロケットミサイルって感じね。 とはいえ、あまり遠くに飛ばないミサイルにわざわざ飛距離を足してまで使っているあたりはある程度こだわっているみたいだけれども。」
 そして、リリアリスは改造ミサイルについていよいよ結論を出した。
「思った通りね、少し前にガレアの上空を横切った時にも感じたことだけど。 あのロケットミサイル、そもそも対空砲用の兵器ね。 ブースターを取り付けて改造したらその性能が顕著に表れて、地上を狙って着弾させるのが苦手みたいよ。」
「地上を狙うのが苦手?」
 ティレックスはそう訊きなおすとリリアリスは頷いた。
「そうよ。もちろん、地上・海上に対して水平に攻撃するのはNGで、そもそも真っすぐ飛ばすことができないわ。 つまり、どうしても一旦上空に打ち上げないと攻撃することができないってわけね。」
「でも、地上を正確に狙うのなら……遠くから狙うのであればともかく、 今、フェラントの南の艦隊のいるような場所からだったら、改造なしでも普通に届くような気がするが、 あくまでフローナスの場所を考えたうえでの話だけどな」
 そう言うクラフォードに対してリリアリスはニヤッとしながら話した。
「いいところに気が付いたわね、まさにそう言うことよ。 つまり、今回連中はブースターの取り付けなしで、 早い話、改造なしのフローナス製100%ミサイルで攻撃しようって腹なわけよ。 そのために、あの船はクラウディアスに最接近してくることは確実ってことね。」
 彼女のその表情を見ながら、とりあえず安心したクラフォードだった。