別室でのやり取りで試験が終わり、それをヒュウガが受け取ると、さっそく実行していた。
「出た出た、結構なデータ量だな。
ちょっとばかり時間がかかりそうだから、何かわかったらまた知らせるな」
そう言って通信を切ってしまった。
「切ってしまったけどいいのか?」
クラフォードに訊かれてリリアリスは答えた。
「いいわよ仕方がない。
やっと作ったデータ復元ツールだけど、最適化全然してなくて、
端末の――スペック的に通信が使えるほど余裕がないのよ、
ツールががっつり占有してしまった結果ね。」
クラフォードは考えながら言った。
「作り直せばいいって問題じゃないんだろ? まあ、それができない状況ってことだろうけどな」
「ヒー様が許してくんないのよ、動作は度外視でいいから要件満たせるものを作れって。
まあ、もうちょっとでも時間があればマトモなもの作れるハズだけど、
今回は敵がいつ動くのか分かんない状況だから、速度優先で作らせてもらったわ。
まあ、そういう意味では今回の選択は正解と言ったところね。」
「なんだよ、なんか不満だと思ったから少し心配していたんだがそうでもなさそうだな」
「まあね、この状況下で作れたものにしてはベストなものを作れたから不満なんてないわ。
早く作れって言われてできたものにしては予想をはるかに上回るものができたから、
案外これもありと言えばありよねって思ったワケよ。
だから次はちゃんとクオリティの高いものを作ることを前提にして、
今回できたものを参考にオーバースペックな要素を取り入れようかと思っているのよ。
なんだか久しぶりにオーバースペックな代物に取り掛かれるだなんて――腕が鳴るじゃないのよ。」
オーバースペック、それって――クラフォードは訊いた。
「今までずっと気になっていたんだが、あんたのその”兵器”はオーバースペックなものとは違うのか?」
そう言われたリリアリスははっとした。
「気づくのが遅い!」
クラフォードは鋭く指摘するとリリアリスは言った。
「私としたことが――肝心なことを忘れていたなんて、迂闊だったわね。」
「あの船とかフィールド・システムとか、他にもいろいろとあるだろ?」
「それは違う。別にオーバースペックだと思ってない。」
「その基準は俺にはさっぱりわからん」
クラフォードはお手上げだった。
リリアリスらは慌ててフィールド・システムの管理部屋へとやってきた。
「あっ、リリアさん、見てください!」
部屋に入るとアリエーラが画面に指さしながら言った、そこには――
「トライス近海? この船は――」
するとリリアリス、その場から歩き出そうとすると、どういうわけか、その場でいきなり倒れこんでしまった。
そしてさらに――
「リリアさん! 大丈――夫で――」
アリエーラは慌てて駆け寄ったが、なんと、彼女までもが急にその場で崩れてしまった――
「おっ、おい! どうしたんだ2人とも! 大丈夫か!」
クラフォードは2人のその様を見ながら慌てていた。
それに対してリリアリスは何とか立ち上がりながら言った。
「ごめん、なんでもないわよ、多分、疲れが出始めているのかしらね――」
そう言いながらリリアリスはアリエーラの元へと歩み寄り、手を差し伸べた。
アリエーラもリリアリスの手をつかみながらなんとか立ち上がった。
「すみません、私もちょっと疲れているのかもしれません。
でも、とりあえずは大丈夫です――」
その後、お互いになんとかその場を取り繕っていた。
「本当に大丈夫かよ、どうしたんだ、本当に――」
クラフォードは心配そうに2人を見つめていた。
そしてリリアリスはシステムについている電話を使って話を始めた。
「ねえラミキュリア、今大丈夫? ええ、お願いね――」
すると数秒後にフィールド・システム側のモニタに綺麗なお姉さんの映像が映った。
しかし、服装はいつものセクシーで可愛らしい感じの服装ではなく、
ガレア軍の軍服に身を包んでいた、それほど余裕がない状況ということか。
「もしもし、大丈夫でしょうか?」
「こっちはばっちりよ。
それよりもラミキュリア、大至急調べてほしいことがあるんだけど、頼める?」
「セラフィック・ランド地域に現れた未確認の船のことですよね?
すみません、実は既に調べたのですが、それについては全く分かっていないのです。
もちろん、本土軍のデータなども確認しましたが、該当するデータはありませんでした」
該当データなし――それは面倒なことになった。
もちろん、敵とあらば討つだけだが、あの船にはいったいどんな秘密が――
何人かが悩んでいる中、クラフォードは自分のスマートフォンが唸っていることに気が付いた。
「なんだ、どうした?」
クラフォードは反応した。すると――
「ティルアにつないでくれ! 話があるみたいだ」
リリアリスらにそう促した。
「ティルア? 変ね、システムに直接電話してくればいいのに。」
リリアリスがそういうとクラフォードが言った。
「今みんなが出払っているから、事務所にはバフィンスしかいない。
やつはまだ使い方をイマイチ把握してない状態だから勘弁してやれ。
ちなみに俺も未だにシステムからの電話のかけ方まではさっぱりだ」
あっ、そうなん――リリアリスはそう呟きながらティルアに電話をかけていた。
「もしもし聞こえる~? そうそう私よ。
手近なところにモニタって書いてあるボタンがあるでしょ? それを押すのよ。」
すると、モニタ上に今度は汚いオッサンの顔が。
「よう、お前ら! 元気してるか!」
クラフォードは頭を抱えていた。
「でも、こんな汚えオッサンの顔映したって面白くねえからな、
どうせだったらキレーなネエチャンたちだけが映るように調整してくれや。
俺も今そうやっている最中だぜ! それぐれーの操作ならこの俺でもできるしな!」
クラフォードは頭を抱えたまま訊いた、んなこと自慢気に話してるんじゃない、と。
「んなこといいから、重大な用件ってなんだ?」
ついでにリリアリスは言われた通り、ティルア側のモニタサイズを小さくしていた。
それに対して何人かは苦笑いしていた。
「おお、実はよう、多分既に見えてっかもしんねえが、セ・ランドあたりに出てきた船なんだが、
そいつはヴィザント帝国の最新鋭艦って言われていたやつだぜ!」
と、バフィンス、また聞きなれない国の名前が。それもそのハズ、
「ヴィザントっつーのはヘラッセルに滅ぼされた国でな、俺らも当時はそいつらの技術にしてやられたぜ。
ま、それでもクラウディアスには敵わなかったってところだが。でも、今回の船には明らかな改造が施されている感じだな。
見ろよ、あの搭載されている兵器といい――あとはいろいろと、部分的にみると見たことがありそうなやつだらけって感じだぜ!」
バフィンスに言われてラミキュリアがすぐに反応した。
「リリアさん! こちらを見てください!
確かに、バフィンス様のおっしゃる通り、あの船に搭載している兵器はこんな感じです!」
それと同時にシステムのモニタに新たな画面が表示された。それは、今回確認された船についてのデータだった。
船は文字などによって情報が追記されていた。
「フローナス製の改造ミサイル――例の無国籍小隊の成果物ね。
それと確かに、ずいぶん前に本土軍がクラウディアスに攻めてきたときに積んでいたレーザーキャノンにも似ているわね、
あれの動力は例のエナジー・ストーンだったハズだけど、まさかまた――」
リリアリスは悩みながらそう言った。それ以外にも部分的にみると、どこかしらで見たようなものがその船に搭載されていた。
「ともかく、敵はいよいよしびれを切らしてきたってところか、これで最後にするつもりかもしれないわね――」
そんな中、ラミキュリアから連絡が。
「何? どうしたの?」
「はい、リリアさん、実はその、フローナス側からお電話が来ています。どうします?」