そして、港に行くと、波は大荒れ、比較的近い場所で大渦が発生しているためか、それはそれで仕方のないことだった。
「ここまで影響が出ているな」
ティレックスはそう言うと、ナミスが言った。
「これもルーティスやクラウディアスを守るためということならば仕方がありません。
とにかく、準備は整っていますので、よろしくお願いいたします!」
そういうと、ナミスはとある船へと案内した、それは――
「この船は?」
フロレンティーナがそういうとレイリアは答えた。
「フィレップス社製のRシステム・シリーズの船、”フィレップス・Rプロシステム・クルーザー”の大型タイプですね。
リリアリスさんと共同開発したマダム・ダルジャンの技術を転用しています。」
聞きたいことはいろいろとあったが、なんとなく事情は把握したので、
とりあえず乗船した一行、そのままクラウディアスへと急ぐこととなった。
何人かはリビング・ルーム・ユニットの中に入り込んで話し合いをしていた。
「フィレップス・Rプロシステム・クルーザー?」
ティレックスはそう訊くとレイリアは答えた。
「Rはリリアリスさんのことですね。
要するにスクエアの造船会社であるフィレップスさんと作ったのがマダム・ダルジャンの初号機ということです。
で、フィレップスさんに技術提供してできたのが、アマチュア仕様のフィレップス・Rライトシステム・クルーザーと、
準プロ仕様のフィレップス・Rヘビーシステム・クルーザー、
そして、完全プロ仕様のフィレップス・Rプロシステム・クルーザーなのです。」
アマチュア仕様とプロ仕様とではセットできるユニットに違いがあり、
プロ仕様のほうがユニットに保有されているエネルギーも多くて取り付けられるユニットの種類も多いらしい。
「準プロ仕様は漁船向けにカスタムしたもので、それ以外はアマチュア仕様とそこまで大きく変わりません。」
フラウディアは訊いた。
「では、プロ仕様は?」
「ユニットを展開するにはそれぞれエネルギーを大量に消費します。
特にこのリビング・ルーム、みなさん広いスペースでくつろぎたいと思いますが、
船では普通はそんな広いスペースを確保するのは難しいです。
そこで、魔法の力を流用して圧縮をかけてユニット化しているわけですが、
圧縮率が高いほどエネルギーも激しく消費します。
しかし、それほどエネルギーを大量に積んでいる船というのも、
素人からしてみれば結構危ない力でしかありません。」
ということで、フラウディアの疑問の答えになるのだけれども、
プロ仕様とアマ仕様とでは、搭載する最大エネルギーの保有量が異なるのだそうだ。
もちろん、プロ仕様のほうが搭載する最大エネルギー量が多く、取り扱いには専用の免許の修得が必要なんだそうだ。
「Rライトシステムは通常の小型船舶免許のみで操縦可能ですが、
Rプロシステムは危険物取扱関係の免許も必要となります、これは国によってどういうものになるのかは変わってきますが――」
フラウディアは訊いた。
「じゃあ、マダム・ダルジャンはプロ仕様なんですね!」
レイリアは得意げに答えた。
「いいえ、マダム・ダルジャンは特別仕様です。
やはり、フィレップスさんの技術力はリリアリスさんほどの技術力にはかないませんでした。
いいえ、あちらが特殊すぎるため、使用する人を選びすぎているのがそもそもの問題になりそうですが。
だから、ヒュウガさんにいつも頭を抱えられるのですよね――」
奇遇だな、俺も今頭を抱えているぞ――クラフォードとティレックスの2人はそれぞれそう思っていた。
レイリアは話を続けた。
「特別仕様のため、あちらの船に搭載されているユニットはフィレップスさんと共同開発したものではなく、
リリアリスさん独自に開発した特殊なもののみとなっております。
その分消費するエネルギー量も膨大な量となってしまっているため、
普通のRシステム・シリーズには搭載できないものだらけとなっています」
そして、レイリアは船のとある区画へと行きながら話を進め、そこで立ち止まった。
「しかし、マダム・ダルジャン自身が保有しているエネルギー量は割と少なく、
それこそ2号機に至ってはRプロシステムよりも搭載できるエネルギーが少なくなっています。」
エネルギーの消費が激しい船なのに、
少ないエネルギーでどうやって船を維持しているのか――何人かはそう思うと、レイリアは答えた。
「そこでマダム・ダルジャンではエネルギーを生み出すためのユニットを、
”エネルギー・バースト・システム・ユニット”を取り付けて搭載エネルギーの少なさを補っています。
それこそ、2号機は”エネルギー・メガ・バースト・システム・ユニット”を搭載すること前提で設計されていますので、
船自身のエネルギー量はあまり考えられていません。」
搭載する最大エネルギー量が多いということ、エネルギーを補うためのユニットを取り付けたということは、
つまりはかなり危険が伴う仕様の船であるということのようだ。
だけど、それはまさに”兵器”がそうであることを物語っている、
自分で使う分には間違いないというリリアリスだからこそのなせる業ということか。
要するに、そのシステムはまさにマダム・ダルジャンの乗り手専用ということでもある。
さらにレイリアは話を続けた。
「私の足元をご覧ください。
これはマダム・ダルジャンにしか搭載できないユニットを設置するために取り付けた特殊なアタッチメントです。
こういうこともあろうかと思って作っておきました。
アタッチメントには2つのユニットが取り付けられておりまして、
あちらが簡易エネルギー・バースト・システム・ユニットで、
こちらのユニットがマダム・ダルジャン・フィールド・システム・ユニットです。」
要するに、あのマダム・ダルジャンにも取り付けられていた、
あの戦艦的ユニットをつけるためにアタッチメントをつけたということか。
しかし、アタッチメントをつけなければこういうのが付けられない当たり、
リリアリスとリファリウスは徹底しているところは流石というべきである。
そう、これほどの仕様の船なのだから、それこそ、戦争に転用される恐れもあるわけだ。
抜け道はもしかしたらあるのかもしれないけれども、そう簡単に使用されなくしているのである。
「でも、こんな船の仕様を考えるなんてすごいわね、やっぱり、お高いのかしら?」
フロレンティーナがそう言うと、レイリアは答えた。
「アマ仕様の一番安いもので、一通りのユニットの搭載しているものでしたら100万ローダぐらいでしょうか?」
額面上だけの数字見れば高いのかもしれないが、実は――
「あら、船の相場にしては比較的安価なのね?」
というカラクリである。フロレンティーナの疑問に対してレイリアは頷いた。
「その秘密として、この船にもついている”リサイクル・ユニット”にその理由があります。」
通称ごみ処理ユニット、ティレックスはそれを思い出した。
要するに、環境問題への取り組みということで、割引が適用されているのだそうだ。
「面白い船だな、自分仕様に船に好きにユニットを組み合わせられるってことか、
ティルアにも一隻でもいいから導入したいもんだ、もちろん、平和利用目的でな。
船でも気軽に休めるというのは願ったりだ。ちなみに、プロ仕様はどれぐらいするんだ?」
クラフォードがそういうと、レイリアは答えた。
「プロ仕様ですとアマと同じ型のものと比較すると1.5~3倍ぐらいの値段はすると思いますね。」
クラフォードは絶句していた、そんなに高いのか、と。
「でも、ルダトーラの団長さんのような大金持ちでしたらプロ仕様のハイエンドモデルである
”フィレップス・Rセレブシステム・クルーザー”も簡単に手が届くのではないでしょうか?
手に入れましたら私にも乗せてくださいね♪」
はあ!? ティレックスは突然のことだったので、そう言われて驚いていた。
「なんだ、Rセレブシステムとかやたらと豪華そうな名前じゃないか。せっかくだから俺にも乗せてくれよ?」
クラフォードは揶揄うようにそう言った。
Rセレブシステムはプロ仕様の設計で、名前の通り、まさに富裕層の中の富裕層向けの船なんだそうだ。
大きさは中型船舶クラスの大きさであり、マダム・ダルジャンIIに匹敵する大きさだが、
搭載されているユニットが贅の極みを尽くしたものとなっており、
”マスター・セレブ・システム・ユニット”と呼ばれる、
まさにセレブ御用達的な絢爛豪華な施設的なものが搭載されているらしい。
それ以外のユニットについても、他の仕様に搭載できるものに比べると大変豪華仕様になっているらしく、
まさに水上の豪邸と呼ぶに相応しいものなのだそうだ。
「あら、いいじゃない♪ お姉さんも喜んでお泊りにいくわね♪」
「ティレックスさんって大金持ちなんですね! すごいです! 私もちょっと、乗ってみたくなっちゃったな――」
「確かに、それもいいな。でもティレックス、いくら何でも浮気はダメだからな、
金で女を買うという行為は流石に俺も賛成しかねるな」
と、フロレンティーナとフラウディア、そしてスレアが楽しそうにそれぞれ言うと、ティレックスは慌てて返した。
「だから違うって! そんな大きな船買えるような余裕なんてないから!」
そんなやり取りに対してイールアーズは鼻で笑ってみていた、
あいつまで、仕返しのつもりか――ティレックスはまたしても頭を抱えていた。